世界の建築は今 No.142

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2017/08/07 10:15

The SIX (Los Angeles, USA)

ザ・シックス集合住宅 (アメリカ、ロサンゼルス)

Design : Brooks + Scarpa
設計:ブルックス+スカルパ


ウォーク・スコア95の超便利&快適ハウジング

ウエストコーストの現代建築家というと、フランク・ゲーリーやトム・メイン(モーフォシス)がすぐ浮かぶが、世界のスーパー・スターとは言えないもののそれに次ぐ著名建築家といえば、ブルックス+スカルパを挙げても異論はないだろう。

暖かく乾いた気候風土のこの地で彼らの十八番といえば、小・中規模の集合住宅だ。スタジオやアトリエ付きのロフト的なものから、ホームレス救済型や高齢身障者用の特殊な集合住宅まで、まさに微に入り細を穿った配慮のリビング・スペースは、多くの人々にオアシス的な環境を呈して喜ばれている。

「ザ・シックス集合住宅」は後者のタイプの集合住宅で、以前ホームレスであった人とか傷痍軍人たちを専門に引き受ける施設だ。敷地はロサンゼルスのマッカーサー・パーク地区。この辺りはアメリカでも最高の人口密度を誇る地区で、1マイル四方に38,000人が住む人口密度。実際のマッカーサー・パーク地区の2.72平方マイルには、120,000 人が住んでいるので集合住宅の存在はますます重要だ。

「ザ・シックス」の特徴は従来の規範的な集合住宅の殻を打破していることにある。より大きなパブリック・エリアを確保するために、プライベート・スペースへのウエイトを軽くしているのだ。居住者たちが孤独で引きこもりがちになる因襲的レイアウトから、コミュニティ志向かつインタラクティブ・スペースを重視した空間デザインを目指しているのだ。

住民はこれにより、比較的にシンプルな造りの自室から出てきて、居心地の良いリッチなパブリック・スペースに登場し、居住者同士のインタラクティブな付き合いを楽しめるようになる。ブルックス+スカルパが意図した住民コミュニティへ参加させる意図は見事に成功している。

1階にはオフィスをはじめ、傷痍軍人へのサポート施設、エントランス・ホール、会議室、自転車置き場、パーキングが配されているが、他方2階には大きなパブリック・コートヤードが設けられ、コミュニティ集会室があるレクリエーション・エリアとなっている。ここには東道路側にある大きな開口部をはじめ、南側も大きく切り開かれ、4層にわたる吹抜け空間は屋上へと抜けている。

3つの大開口部をもつコートヤードはオープンな開放感が素晴らしい。コートヤード空間には鉢植えの樹木類をはじめ、随所にグリーンを配している。開口部越しにストリートへ向けての強かな視覚的なコネクションが可能であるため、住民は安全なオープン・スペースを楽しみつつ、外部の都市というより大きなコミュニティへと連繫が可能である。

加えて屋上はランドスケープされたグリーン・ルーフとなっており、大きなパブリック・パティオやベジタブル・ガーデンがあり、ワイドなロサンゼルスのシティ・スケープを楽しめるという、まさに高齢者にとっての別天地となっている。

「ザ・シックス」は手頃な値段の52戸から成る5階建て集合住宅。敷地はかつての駐車場で、建物はアーバン・インフィル・プロジェクトとして建設された。日々の外出に車の必要がないため、住民のほとんどは車を所有していない。住民用の大きなバイク・パーキングに加えて、来客用の自転車置き場が表側に用意されている。

自動車用パーキングは、52戸に対してわずかに19台分しかない。電気自動車用充電装置は1台分だけだ。建物は今話題のWalk Score 95(コンビニや病院など”徒歩で用が足りるか”というアメリカでのアパートの便利さの指標)という”ウォーカーズ・パラダイス“でもある。つまりこの建物からは、95件の公共的な建物へ徒歩でアクセスできるのだ。

ブルックス+スカルパにとって、彼ら得意の小・中規模の集合住宅設計は、いかに特殊な用途をもつハウジングであっても、それに適した見事なソリューションを見せて素晴らしい。


[図 面]

 

[建築家]

■ブルックス+スカルパ略歴


アンジェラ・ブルックス


ローレンス・スカルパ

●アンジェラ・ブルックス略歴

1964年生まれ

1987年 フロリダ大学建築学科卒業
1991年 南カリフォルニア大学建築学科大学院修士課程修了

 

●ローレンス・スカルパ略歴略歴

1959年 ニューヨーク生まれ

1981年 フロリダ大学建築学科卒業
1987年 フロリダ大学建築学科大学院修士課程修了

 

●ブルックス+スカルパ略歴
1987年 ローレンス・スカルパとアンジェラ・ブルックス結婚
1999年 ピュー+スカルパをロサンゼルスに設立
2003年 AIAトップ・テン・グリーン・ビル賞
2003年 ブルーナー賞
2003年 レコード・インテリアズ賞
2004年 アーキテクチュア・リーグ・エマージング・ヴォイス建築賞
2005年 レコード・ハウジス
2006年 AIAトップ・テン・グリーン・ビル賞
2009年 『インテリア・デザイン』誌生涯業績賞
2010年 ブルックス+スカルパに改組
2010年 AIAナショナル建築賞

 
■代表作

主な作品(ピュー+スカルパ時代の作品も含む)には、サンタモニカ・カレッジ、LATTCスポーツ・センター、ミル・アーツー・センター、サンタモニカ・パーキング・ガレージ、フラー・ロフト、ジグゾー、ナセント・テレイン、クリエイティブ・ドメイン、CoOPエディトリアル、ソーラー・アンブレラ・ハウス、ユーベット・ドット・コム、アブソリュート・ディヴァ、バーガモット・アーティスト・ロフト、リアクター・フィルムズ、クリック 3X LA, デクトール・フィルムズ、チェロキー・ミクストユース・ロフト、コロラド・コート、ザ・シックス集合住宅など多数。

Photos: ©Tara Wucjik & ©Brooks +Scarpa
Material: Courtesy of Brooks +Scarpa