世界の建築は今 No.136

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2017/02/03 19:00

The Broad Museum (Los Angeles, USA)

ザ・ブロード・ミュージアム(アメリカ、ロサンゼルス)

Design : Diller Scofidio + Renfro & Gensler
設計:ディラー・スコフィディオ+レンフロ & ゲンスラー


華麗なヴェールに包まれた美術館

ロサンゼルスのグランド・アヴェニューといえば、著名建築家による建築群が櫛比することで有名だ。フランク・ゲーリー、磯崎新、コープ・ヒンメルブラウ、ホセ・ラファエル・モネオらの国際的なスーパー・スター連中に新規参入したのが、ニューヨークの「ハイライン」の設計で有名なディラー・スコフィディオ +レンフロだ。今回はゲンスラー(米大手設計事務所)と協働しての設計だ。

「ザ・ブロード・ミュージアム」はゲーリーの「ウォルト・ディズニー・コンサートホール」のすぐ横に位置する一等地を占めている。多孔性のユニークなファサードで評判の建物は、フィランソロフィスト(慈善家)のエリ&エディス・ブロード夫妻の60年代からの現代アートの個人コレクション250点を展示。曰くアンディ・ウォーホル、ロバート・ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、ロイ・リキテンシュタイン、ジェフ・クーンズ、村上隆、草間彌生など、誰もが知っている著名アーティストの作品が無料で鑑賞できる素晴らしさ!

総工費1億4,000万ドル、地下3階地上3階建て、延床面積約11,000㎡の「ザ・ブロード」は、空間的に大きく2つの部分からなっている。ひとつはパブリックな展示空間としてのミュージアムと、アーカイブ&ストーレッジという展示・保管のふたつの機能をもっている。所蔵作品は2,000点以上と聞く。

「ザ・ブロード」のデザイン・コンセプトは”ヴェール & ヴォールト”と呼ばれ、このふたつが建物の大きな構成要素となっている。”ヴォールト”は建物中心部分に位置する空間で、ヴォールト形の2階空間全域を指す。ここでは美術館におけるストーレッジ(保管庫)を、展示空間と同レベルに引き上げているのが素晴らしい。つまり2階はストーレッジ階ながら、来館者はスライディング・パネルを保管スペースから引き出すことで、絵画等を鑑賞することができる。

”ヴォールト”は建物中心部の中央部に浮遊する空間で、その上端部は3階ギャラリーの床である。その下側は1階エントランス・ロビーとサーキュレーション・ルートを形成している。1階には3階ギャラリーへのアクセスとして、洞窟のように暗く細長い約30mもの空間をエスカレーターで一挙に上がる方法。階段で2階、3階へと上がる方法。そして円筒形のエレベーターで上がる3つのアプローチが可能だ。1階ロビーの奥には1,400㎡のギャラリーとストーレッジがある。

3階は3,250 ㎡の無柱ギャラリーで、上部の318個あるスカイライトからマイルドな自然光が降ってくる。加えて多孔性の壁面からの採光で、柔和なオーラに溢れた美術空間が生まれた。”ヴェール”は1階から3階までの空間を覆う外壁と屋根の総称である。「ザ・ブロード」の最大の特徴が、このユニークな”ヴェール”で構成された外壁だ。

外壁すべてを覆う”ヴェール”は2,500個の強化グラスファイバーRC(GFRC)パネルでできており、それを650トンのスティールで支持している。このパネルは斜め右上方向に彫り込まれた窪みの奥に開口部があり、それがハニカムのように多数がファサードを覆うと殊の外美しい。さすがディラー・スコフィディオ+レンフロ!そのデザイン力に感心させられる。このパネルはドイツ、チェコ、アメリカで製造されたようだ。

正面ファサードは両サイドのコーナー部に向けて切り上がっており、コーナーにそれぞれ入口がある。ファサード中央部の2階レベルには凹んだエクボのような開口部があり、内部からグランド・アヴェニューを眺めることができる。また建物西側外部には約2,230㎡のパブリック・プラザをつくり、家族連れのピクニックやイベント・スペースとして利用できる。ともあれこの美しくも華麗な”ヴェール”が、グランド・アヴェニューに花を添えているのは言うまでもない。


[図 面]

 

[建築家]

■ディラー・スコフィディオ+レンフロ


Photos: ©Iwan Baan
右よりディラー、スコフィディオ、レンフロの各氏

1979年 エリザベス・ディラーとリカルド・スコフィディオにより、ニューヨークにディラー・スコフィディオ・アトリエを設立。
1997年 チャールズ・レンフロが加わりディラー・スコフィディオ+レンフロと改称
1999年 マッカーサー・ジーニアス賞
2003年 ブルンナー賞
2004年 チャールズ・レンフロがパートナーとなる
2005年 ナショナル・デザイン賞
2013年 ローマ・アメリカン・アカデミー100年記念名誉メダル
2016年 ナショナル・デザイン・アカデミー生涯業績賞(エリザベス・ディラー)

 
■代表作

代表作に、アリス・タリー・ホール改修、ジュリアード・スクール増改築、アメリカン・バレー学校増築、ニューヨーク州立劇場改修、ハイライン、ブラウン大学クリエイティブ・アーツ・センター、ボストン現代美術協会、岐阜県営住宅ハイタウン喜多方エリザベス・ディラー棟、スイス・エクスポ02パビリオン(現存せず)、MoMA増築、ザ・ブロード・ミュージアム、バークレイ・アート・ミュージアム&パシフィック・フィルム・アーカイブ、コロンビア大学医学センター教育ビル&コロンビア・ビジネス・スクール、コパカバーナ・イメージ&サウンド・ミュージアム、スタンフォード大学美術&美術史ビル+カルチャー・シェッド、Dタワー集合住宅など。

Photos and Material: Courtesy of Diller Scofidio + Renfro

 


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