世界の建築は今 No.135

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2017/01/05 10:00

Harbin Opera House (Harbin, China)

ハルピン・オペラハウス(中国、ハルピン)

Design : MAD
設計:MAD


アンソロポモルフィックな環境的演劇空間

世界的に知られた中国の新進アヴァンギャルド建築家集団MADは、若手グループでまだ作品数は少ないものの、巨大スケールのアーバン・プロジェクトを実践してきたことで知られている。例えば「アブソリュート・タワーズ」「中国木造彫刻美術館」「オルドス・ミュージアム」「湖州市シェラトン温泉リゾート・ホテル」など、巨大プロジェクトばかりだ。

「ハルピン・オペラハウス」は「中国木造彫刻美術館」と同じハルピンにあるが、敷地はアムール川最大の支流松花江近くの湿原にある。延床面積70,000㎡の建物は、俯瞰すると川を背景に三つ葉のようなクローバー形プランで座している。だが右手の葉に当たるところは円形広場で、中央の葉が1,600席のグランド・シアター。左端の葉は400席のスモール・シアターを内包している。

大きく湾曲した建物は周囲の自然やトポグラフィーに対しナチュラルに連続しており、風や水といった自然により生成され彫刻されたかのように見える。これはMADが北国のワイルドで極寒の気候に対応したデザインを試みたからにほかならない。その結果、地域性、アート、文化を巧みに融合させた形態となっている。

グランド・シアターのプランは、一見すると人間の顔のシルエットに似たアンソロポモルフィック(擬人化的)な形態だ。ちょうど喉にあたる部分がエントランスの風除室。広いグランド・ロビーの中央部あたりが口にあたる。その左右には巨大なガラス開口部があり、曲面状のインテリア空間は湾曲したファサードとエクステリア・プラザに視覚的に連続している。

グランド・ロビーの天井は、ダイヤグリッド(斜め格子)構造で支持されたクリスタルなガラス・カーテンウォール。正面には満州アッシュの木造ブロックをまとったグランド・ホールが立ち上がって、この空間の迫力あるフォーカスとなっている。

ホール内部は木造壁面が緩やかにメイン・ステージと座席を包み込む。プロセニアムから中2階バルコニーまで、グランド・ホールのシンプルな材料の使用や空間の形状は、世界レベルの音響効果を上げている。グランド・シアターは一部スカイライトからの微妙な光を取り込んでおり、聴衆に時間の経過を認識させるために外部へと連繋している。

スモール・シアターでは、演劇ホールのインテリア空間がステージ背後の大きなパノラミック・ウィンドウにより、外部景観へとシームレスに繋がっている。防音ガラスの壁面はステージにナチュラル・ランドスケープの背景を提供し、外部環境の延長としての演劇ステージを活性化している。

「ハルピン・オペラハウス」の特徴のひとつに、大衆による建物への相互作用と参加を強調したデザインとなっている点がある。ビジターは建物外壁に沿って正面側からカーブした小道を上がり、建物に登ることができる。最上部にはハルピンのスカイラインと眼下の湿原をパノラミックに見晴らす展望台があり、それはオープンなパフォーマンス・スペースとしても使用される。ビジターは下って広いパブリック・プラザに至り、内部に入ってグランド・ロビーの見学もできる仕組みだ。

複雑なオペラハウスのタイポロジーを超えて、MADは自然にインスパイアされ、地域アイデンティティ、文化、アートに満ちた建築をデザインしている。「ハルピン・オペラハウス」は一般大衆の環境に対するエモーショナルな関係を深めているため、建物は必然的に演劇のパフォーマンス・スペースとしてのみならず、ランドスケープ的コンテクストにおいても演劇的なのである。


[図 面]

 

[建築家]

■MAD アーキテクツ略歴


Portrait : MAD(左よりマ・ヤンソン、ダン・チュン、早野洋介)

2004年 中国出身の建築家、マ・ヤンソンによって設立され、ダン・チュン(中国人)と早野洋介(日本人)の3名にて運営される建築事務所。北京とロサンゼルスに事務所を構える。東洋的自然観を基に現代社会における新しい建築の在り方の発展に取組み、人々の感情を中心に据えた未来都市「山水都市」のコンセプトを核とし、人と都市と環境との新たな関係性の創出に専心している。
2007年 アーキテクチュア・リーグよりヤング・アーキテクツ賞
2010年 RIBA名誉会員
2016年 インビジブル・ボーダー展(ミラノ)

●マ・ヤンソン略歴
1975年 中国、北京生まれ。中国土木&建築インスティテュート卒業
2001年 AIA先端建築研究スカラシップを得てイエール大学入学
2002年 イエール大学卒業
2004年 MADアーキテクツを北京に設立
2007年 アーキテクチュア・リーグよりヤング・アーキテクツ賞
イエール大学よりサミュエルJ.フォゲルソン賞
2008年 『ICON』誌より20人の最も影響力のある建築家に選出される
2010年 RIBA名誉会員

 

●党群(ダン・チュン)略歴

上海生まれ。アイオワ州立大学マスター修了。プラット・インスティテュート客員教授。アイオワ州立大学助教授

2004年 北京を拠点に馬岩松(マ・ヤンソン)とともにMAD Architectsとして設計活動を開始。
早野洋介と3人のパートナーによってオフィスを運営。
2007年 アーキテクチュア・リーグよりヤング・アーキテクツ賞
2010年 RIBA名誉会員

 

●早野洋介略歴
1977年 愛知県生まれ。早稲田大学理工学部、早稲田大学芸術学校、AAスクール大学院修士課程修了後、ロンドンでザハ・ハディド・アーキテクツ勤務。
2004年 北京を拠点に馬岩松(マ・ヤンソン)とともにMAD Architectsとして設計活動を開始。
党群(ダン・チュン)と3人のパートナーによってオフィスを運営。
2007年 アーキテクチュア・リーグよりヤング・アーキテクツ賞
2010年 RIBA名誉会員

 
■代表作

代表作に、フートン・バブル 32、ホンルオ・クラブハウス、オルドス美術館、アブソリュート・タワーズ、中国木造彫刻美術館、コンラッド・ホテル北京、中国木造彫刻美術館、シェラトン湖州市温泉リゾート、ハルピン・オペラハウス、など。

Photos and Material : Courtesy of MAD