世界の建築は今 No.130

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2016/08/02 15:30

Crossrail Place (London, UK)

クロスレイル・プレイス(イギリス、ロンドン)

Norman Foster
設計:ノーマン・フォスター


快適な木製ラティス・ドーム空間

かつてロンドンの地下鉄ジュビリー線の駅舎デザインに多くのイギリス建築家が参加し、中でもフォスターは飛び切り素晴らしい「キャナリー・ワーフ駅」を担当した。あれから17年が経った今年(2016)、今度はやはりキャナリー・ワーフのクロスレイル・プロジェクトの地下新駅の地上部分にユニークな商業施設やルーフ・ガーデンをデザインし話題となっている。なお地下新駅は2018年に開業予定だ。

このプロジェクトのデザイン性を高めているのは、地下の駅舎と上部の商業施設や公園を一体化する巨大なエンクロージャー(覆い)・デザイン。またそれによってロンドンをハイ・クオリテイ・プロジェクトで東方向から西方向へと開発するクロスレイル・プロジェクトの進行を刺激することでもある。

この駅舎はドックの水中にあるため、フォスターが手掛けた地上部分は水上に浮かぶ島のようになっており、地上階からブリッジでアクセスする。その全体デザインは最上階にあるランドスケープされた屋根付き3,000㎡の公園によって特徴づけられる。施設内部へのアクセスや動線は、分かりやすいエスカレータ、エレベータ、階段によるもので、すべてのビジターにとって楽しい包括的な体験が可能になっている。

建物の外観を特徴づけているのは全体を覆う防御的なシェルだ。長さ300mの木製ラティス屋根は中心部でオープンになっており、自然光をはじめ自然灌漑のための雨を取り込む。木材は公園を覆うには打って付けの素材である。その有機的な性質や外見をはじめ強度もあり、サステイナブル・デザインには非常に適切な素材である。

木造を採用することで、キャナリー・ワーフ界隈にある他のビルとは一線を画している。というのは近隣のビル群は、圧倒的にストーン、メタル、ガラスを使用したものが多からだ。また木材はこのワーフ(波止場)・エリアでは、船舶的かつ建築的な意味において大きな歴史を持っており、それがウエスト・インディア・ドックの水面に浮くこの施設にピッタリなのだ。

ラティス構造そのもののデザインは、建築とエンジニアリングの融合のなせる業である。驚くことにこのエンクロージャーの滑らかなカーブにもかかわらず、ストラクチュア全体でカーブした木造ビームは4本しか使用していない。対角線上を連続的に回転していく直線的なビームをシームレスにコネクトさせるために、フォスター事務所の設計チームはスティール製のコネクターというイノヴェイティブなシステムを開発した。それによって建物を全体の捻じれを防いでいるのだ。アーチを描く木製ラティスのヴィジュアルな簡潔性は、1,418本の梁と564個のコネクターによる複雑性を隠している。

梁と梁の間には、空気を密封したガラスより軽いETFEプラスティック・クッションが張り巡らされている。高度なインシュレーション機能を発揮する空気クッションは、公園を楽しむ人々のために’一年中居心地の良い安定した環境を創出する。またかつてこの歴史的なドックからイギリスに初めて移入された何種類かの植物にとって、好ましいミクロコスモスを形成している。

駅周辺界隈は、人々が週末のみならずウィークデイも新しい公園や店舗を利用できるようデザインされている。4層に渡るカフェ、ショップ、アメニティー施設は地下の駅舎の上にあり、アーケードは自然光を多用しエネルギー消費を最小に抑え、人々を建物へ迎え入れる。ほとんどのパブリック・エリアは自然換気であり、パッシブ・クーリングを利用している。また雨水利用や排水のリサイクルをして、建物のサステイナブル・デザインの強化に努めている。


[図 面]

 

[建築家]

■ノーマン・フォスター略歴

1935年 イギリス、マンチェスター生まれ
1961年 マンチェスター大学を卒業し、米国イェール大学建築学部入学
1963年 リチャード・ロジャースとチーム4を設立
1967年 フォスター・アソシエイツを設立
1983年 RIBAゴールドメダル
1994年 AIAゴールドメダル
1998年 スターリング賞
1999年 ロードの称号を受ける。プリツカー賞
2002年 高松宮殿下記念世界文化賞
2004年 スターリング賞
2010年 RIBA国際賞

 
■代表作

香港上海銀行、リバーサイド・オフィス&アパートメント、スタンステッド空港ターミナル、サックラー・ギャラリー、センチュリー・タワー、テレコミュニケーションズ・タワー、カレ・ダール、ビルバオ地下鉄、ケンブリッジ大学法学部校舎、コメルツ銀行本社タワー、香港国際空港ターミナル・ビル、ドイツ連邦共和国国会議事堂、キャナリー・ワーフ駅、大英博物館グレート・コート、ミレニアム・ブリッジ、ロンドン市庁舎、スタンフォード大学クラーク・センター、鎌倉の住宅、ベルリン自由大学図書館、スイス・リ本社ビル、ハースト・タワー、北京首都国際空港ターミナル3、カーン・シャティール・エンターテイメント・センター、ウインスピアー・オペラハウス、ザ・バウ、帝国戦争博物館など。

Photos: ©Nigel Young_Foster + Partners

 


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