世界の建築は今 No.127

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2016/04/27 15:00

Maison Stephane Hessel (Lille, France)

メゾン・ステファン・ヘッセル(フランス、リール)

Design: Julien de Smedt (JDS Architects)
設計:ジュリアン・ド・スメット(JDS アーキテクツ)


異なる機能群を融合させたアーバン・カタリスト

かつてフランスのリールといえば、ロンドンとパリを結ぶユーロ・スターのフランス側のエントランス・ハブ駅として話題になった。その上レム・コールハース(OMA)が駅周辺のアーバン・デザインを手掛け、巨大な「コングレクスポ」を設計し、ジャン・ヌーヴェル、クリスチャン・ド・ポルザンパルクも参加した大開発になった。

というわけで、リールは過去20年間以上ヨーロッパのビジネスや会議イベントのハブであり、研究や生活の拠点であり、ツーリストの目的地であった。中世の重要な都市として征服と屈服という荒れ狂うような歴史に彩られてきた。時には北フランスの工業的首都として、その重要性を楽しんできた。

コンペに優勝したジュリアン・ド・スメット案は、かつてない斬新なプログラムに加えて、ポルト・ド・ヴァレンシエンヌの新しい中心部にある話題の3角形敷地に対する強かなデザインであった。70ベッドの保育園、200ベッドのユース・ホステル、および社会的・経済的にイノヴェイティブなオフィスの3者を、ひとつの屋根の下に統合するという、マルチ・ファンクショナル・ビルの基準からいっても難しいタイプの建築であった。

常に斬新なフォルムによる建築造形の革新を意図しているジュリアン・ド・スメットの新作「メゾン・ステファン・ヘッセル」は、従来にないスマート極まりない姿をリール中心街に現した。正面ファサード側から見ると、何やらカラフルなエントランス上部が張り出してポーチを形成。またポーチ手前の空き地には、正面ファサードの 中心軸上に位置した3角形の造形を配し、建物の顔としてのシャープなジオメトリック・フォルムが素晴らしい印象を与える。

敷地はほぼ直角2等辺3角形で、その中央部に相似形の小さな2等辺3角形の中庭が内接する感じで配置されている。建物は敷地とほぼ同形だが、各頂点に当たる部分はカットされて、2等辺3角形は実際には6角形となっている。

まず直角部分に当たる場所にオフィスが入り、右側45度コーナー部分に保育園が、左側コーナー部にはユース・ホステルが入居している。3角形敷地の離れた各頂点部分に3つの機能をそれぞれ配することで、個々の機能空間は最大限のプライバシーを保っている。敷地中央部にできた中庭は、都市の喧騒から離れた静かな回廊となっている。

正面から左右両翼の背後に向けて、もうふたつの3角形端部も高くせり上がっており、平面図でいうと、3角形の各端部は全てせり上がっており、屋根伏図ではその中心部に向けてスロープ状に下る形状となっている。つまり立面形でいうとルーフラインの中心部は大きなV字形のように凹み、両翼端部(3角形の頂点)が高くなっている。3つの各立面は全てこの形状だ。

オフィスが入居しているメイン・エントランスを入ると、左右の両翼にあるユース・ホステルと保育園には、この1階からアクセスすることはできるが、2階、3階からは一切アクセスできなくなっている。異なる3つの機能空間を完璧に分けてそれぞれのプライベート空間を尊重したデザインが施されている。

各機能空間の屋上はそれぞれ異なるデザインとなっている。保育園の屋上はブルーのジュータンを敷き詰めた遊び場。ユース・ホステルの屋上は各宿泊室の段状に上昇した形態。そしてオフィスの屋上は単なる傾斜屋根となっている。

スメットの解決案は、敷地の幾何学的な規制を社会的なアメニティーに変えるプログラム的戦略と効果的な組織を組み合わせ、それにより絡みあった社会的スパイラルの中で表層的に矛盾する機能群を見事に融合・解決している。

「メゾン・ステファン・ヘッセル」は社会的進化を促進するというアーバン・カタリスト(触媒)を創造するというアイディアから生まれたものだ。そこには人間の一生である3つの時代、すなわち誕生→青春→大人という人類進化の各ステージを包含している。


[図 面]

 

[建築家]

■ジュリアン・ド・スメット(JDS アーキテクツ)略歴


ジュリアン・ド・スメット
©Claus Larsen

1975年 ベルギーのブラッセル生まれ
2000年 バートレット大学建築学部卒業。その後OMA勤務
2001年 ビヤルケ・インゲルスとコペンハーゲンにPLOT設立
ヘニング・ラーセン賞
2003年 ヘニング・ラーセン賞
2004年 ヴェニス・ビエンナーレ金獅子賞
2006年 PLOTを解散し、JDS アーキテクツ設立
2007年 オスロの「ホルメンコレン・スキー・ジャンプ・コンペ」1等
2008年 MIPIM集合住宅開発賞
2013年 MIPIM最優秀集合住宅賞

 
■代表作

主な作品に、カルベボッド・ブリッゲ、コペンハーゲン・ハーバー・バス、ヘルシンゴルプ精神病院、VMハウス、マウンテン・ドゥエリングス、ザ・アイスバーグ、オルドス100 ビッグブラザース・ハウス、ホルメンコレン・スキー・ジャンプ、ビルケガーデ、マリタイム・ユースハウス、スジャケット青年&文化センター、メゾン・ステファン・ヘッセルなどがある。

Photos & Material: Courtesy of JDS Architects