世界の建築は今 No.122

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2015/12/03 10:00

Musée des Confluences in Lyon (Lyon, France)

リヨン・コンフルエンス・ミュージアム(フランス、リヨン)

Design: Wolf D. Prix/ Coop Himmelblau
設計:ウルフ D. プリックス/ コープ・ヒンメルブラウ


クリスタル&クラウドが生む超先鋭デザイン

世界の建築界において過激なデザインでは一頭地を抜くオーストリアのコープ・ヒンメルブラウが、またまた衝撃的なデザインで世界の建築界を震撼させた。2001年の国際コンペで勝利した建物はリヨンの自然史博物館で、単なる展示物のショールームではなく、知識を伝達させるメディアとして創造された。

敷地はフランス・リヨンのローヌ川に突出した半島の先端部にある。半島の両側を流れるローヌ川とサオーヌ川が、まさに敷地がある半島の先端部分で合流(confluence)することから名付けられたミュージアムである。この博物館の敷地はすでに100年も前に埋め立てて拡張されたところで、地盤の脆弱さから536本もの杭を30mの深さに打ち込んでいる。

つまりこの敷地はジオグラフィカルな意味で、リヨンのアーバン・デザインにおいて非常に重要なのだ。南方向からアクセスするビジターにとっては、非常に目立つランドマークになる。さらにこのエリアの都市開発の起爆剤的牽引力を発揮するからである。

知識を伝達する博物館の建設には、アイコニックなゲートウェイとしての複雑な新しいフォルムが開発された。強烈に目立つ建物は新しいジオメトリーから生み出された存在だ。リヨン市からこの半島の先端部に来るビジターの流れを、建物によって妨げてはならないということが、コンセプトにとっては重要であった。

そこでコンセプト・アイディアは開放的で横断可能な建物形態とする必要があった。そのために建物は一部支持構造体の上に浮いているようになっており、その下に大きなピロティであるパブリック・プラザが生まれている。

基本的に建物は3つの部分から成り立っている。まず北側のメイン・エントランスのある”クリスタル”と呼ばれるガラス張り空間。空中を南方向に向けて延びる”クラウド(雲)”と呼ばれるメタリック・ファサードの部分。この両者を支持するプリンスと呼ばれる台座の3者だ。クリスタルとクラウドの先鋭的なラジカル・フォルムはコープ・ヒンメルブラウの真骨頂だ。

敷地は地下水位が高いので、台座部分を高くして1階の大きなピロティを形成している。台座の北側半分にはクリスタルがあり、南側半分がクラウドの下側にあたるピロティでパブリック・プラザとなっている。ここには二つの池があり、その周囲にブラッセリー(レストラン)やブティックが配されている。

クリスタルと命名された大きなエントランス・ホールは開放的で自由に横断可能であり、上階の展示スペースへ向けての垂直アクセスのスタート・ポイントになっている。上部の回廊には、エスカレーター、階段、スパイラル・スロープでアプローチ。この回廊の左右両側には個々の展示空間が配されており、回廊の先には展望室があり、ふたつの川が合流する素晴らしい水景色を俯瞰することができる。

展示スペースを内包するクラウドは、ブリッジ構造体として考案されたスティール・ストラクチュアによって支持されている。このストラクチュアは12本のRC柱と3本のRCタワーで支持されている。事務室などの管理部門は展示スペースの上部に配されている。外壁にはガラス・ビーズでブラストされた3mm厚のステンレス・スティールが使用され、表面からの反射をやさしくしている。

エントランス・ホールの中央に立つスティール+ガラス張りのシリンダーは巨大なオブジェのようだが、実は構造体。その形態はふたつの川が合流した時に生じる乱流をシンボライズしたものだ。”重力の井戸”と呼ばれるこの構造体は、エントランス・ホールのスティール構造全重量の3分の1を支持している。

フランス第2の都市リヨンを流れるローヌ川の半島エリアは現在急ピッチで開発が進んでおり、以前にも紹介したジャコブ+マクファーレンの「オレンジ・キューブ」や、クリスチャン・ド・ポルザンパルクの「ローヌ・アルプス州議会ビル」などもこの半島にある。ウルフD.プリックスが辣腕を振るった「リヨン・コンフルエンス・ミュージアム」は希代の斬新デザインをまとった文化施設。その都市的牽引力が徐々に発揮されている。


[図 面]

 

[建築家]


©Clemens Fabry

■コープ・ヒンメルブラウ略歴
1968年 ウルフD.プリックスとヘルムート・シュヴィツィンスキー、マイケル・ホルツァーによって設立。
1988年 ロサンゼルス・オフィス開設。MoMAでフィリップ・ジョンソンのキュレーション“デコンストラクティヴィスト建築展”に参加。
1988年 ウィーン市建築賞
1989, 1990, 1991年 PA(プログレッシブ・アーキテクチュア)賞
1992年 エーリヒ・シェリング建築賞
1992年 ポンピドー・センターで個展「空を構築する」を開催
1999年 ドイツ建築賞
2001年 ヨーロッパ・スティール・デザイン賞
2005年 アメリカ建築賞
2008年 RIBAジェンクス賞

■ウルフ D.プリックス略歴
1942年 オーストリア、ウィーン生まれ。ウィーン工科大学、AAスクール、南カリフォルニア建築大学で学ぶ
1968年 ヘルムート・シュヴィツィンスキー、マイケル・ホルツァーと共にウィーンでコープ・ヒンメルブラウ設立
1984年 AAスクール客員教授
1985-95年 サイアーク准教授
1990年 ハーヴァード大学客員教授
1993年 ウィーン応用芸術大学教授
2003年 ウィーン応用芸術大学建築学部長
2009年 オーストリア芸術科学勲章

 
■代表作

主な作品に、ライス・バー、レッド・エンジェル、バウマン・スタジオ、ISOホーディング社、ルーフトップ・リモデリング、ブティック・コノシャンテ、 フロニンゲン美術館、ヴァグラマーストラッセ集合住宅、UFAシネマ・センター、リーマイズ集合住宅、ガゾメーター、スイスEXPO‘02、ミュンヘン美術館、アクロン美術館、BMWヴェルト、パビリオン21ミニ・オペラ・スペース、ハイスクール#9、マルチン・ルーサー・キング教会、釜山シネマ・センター、リヨン・コンフルエンス・ミュージアムなど多数。

Photos: ©Duccio Malagamba & ©Sergio Pirrone
Material: Courtesy of Coop Himmelblau