世界の建築は今 No.109

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2014/11/05 15:09

National Stadium in Singapore Sports Hub (Singapore)

ナショナル・スタジアム/シンガポール・スポーツ・ハブ(シンガポール)

Design : Clive Lewis (Arup Associates) + Teoh Hai Pin (DP Architects) + Jonathan Rose (AECOM)
設計:クリーブ・ルイス(アラップ・アソシエイツ)+テオ・ハイ・ピン(DPアーキテクツ)+ジョナサン・ローズ(AECOM)


マルチ・ファンクショナルなスポーツの殿堂

この6月、出来立ての「シンガポール・スポーツ・ハブ」のメイン施設である「ナショナル・スタジアム」は、ワールド・クラブ10s ラグビーを杮落としに開催し、非常にホットなスタートを切った。インテリジェント・デザインによる「ナショナル・スタジアム」は55,000席をもち、陸上競技をはじめ、サッカー、ラグビー、クリケットなどなんでもござれという多種の競技をこなすマルチ・ファンクショナルなスポーツの殿堂だ。リトラクタブル・シートを装備し、競技種目によるモード変換は48時間以内に終了するスピード振りである。

このような技術集約的な巨大施設のデザインには、アラップ・アソシエイツや地元のDPアーキテクツ(マスタープランはAECOM)など、世界企業の英知が凝集されている。広さ35ヘクタールに及ぶ広大な敷地には、同じデザイン・チームによる3,000席の「OCBCアクアティック・センター」(6,000席に拡張可能)、3,000席の「OCBCアリーナ」、41,000㎡の商業施設、18,000㎡のオフィス・スペース、「スポーツ・ハブ図書館&博物館」、「ウォーター・スポーツ・センター」など多数の施設が併設されている。

「ナショナル・スタジアム」と「OCBCアリーナ」は、3層に渡るコミュニティとコマーシャル施設を内包するランドスケープされた基壇上部に配されている。これにより、多種のユーザーを集めることができる。この施設はもともとシンガポール政府が進める、「シンガポール人の日常生活にスポーツ・アクティビティを!」という方針に沿ったもの。そのためこの巨大施設には、既存のペデストリアン・ルートと公共交通機関でアクセス可能となっている。

35ヘクタールという広大な開発においては、全域に渡ってサステイナブル・デザインの手法が徹底されている。特に半球形ドームの巨体がシルバーに輝く「ナショナル・スタジアム」は、”グリーン・アーキテクチュア”の好例となっている。312mのワイド・スパンを持つ無柱空間は、世界最大のフリー・スパン・ドームで、パブリックなスポーツ・プロムナードにも日陰を提供している。

「ナショナル・スタジアム」は巨大なスライディング・ルーフを装備して、日照を自在にコントロールし、芝生の生育もバッチリだ。さらに驚くのは自然換気というサステイナブル・ヴェンチレーションを採用したドームにもかかわらず、赤道直下の暑いシンガポールの気候風土を考慮して冷房がはいるのだ。エネルギー効率の高いクーリング・システムは、55,000席の全てに冷風を送ることができるという優れものだ。

シンガポールの文化的なイコンとなった「ナショナル・スタジアム」のデザインは、巨大なインテリア空間と屋根をウォーターフロントとスカイラインに向けて開放することで、都市との密接な関係を生み出している。このため観客はシンガポール都市中心部に向けての、息を呑むような素晴らしい景色を楽しむことができる。特にシンガポール最大の年中行事であるナショナル・デイ・パレードの観覧には最適なポジションとなっている。

「シンガポール・スポーツ・ハブ」における際立ったシルエットとアイデンティティを見せる「ナショナル・スタジアム」は圧倒的にマッシブなフォルムをもち、隣接する同じようにウォーターフロント面した丹下健三設計の「シンガポール・インドア・スタジアム」と共に、シンガポールにおけるスポーツ施設の双璧をなしている。


[図 面]

 

[建築家]

 

Courtesy of Edelman_edited

■クリーヴ・ルイス(左)略歴
世界中に11,000人のスタッフを擁するアラップ・アソシエイツのアソシエイツ・ディレクターで、過去18年、スポーツ施設やスタジアム・デザインの第一人者である。彼のユニークな才能からは、「北京国立スタジアム(鳥の巣)」(設計:ヘルツォーク&ド・ムーロン)や、シャフタール・ドネツクのUEFA2012ヨーロピアン・カップのホスト・スタジアムといった、アイコニックな話題の作品が生まれている。ボウル(スタジアム)・デザインのプロフェッショナルとして、現在彼は世界がもっとも注目するザハ・ハディド設計の「新国立競技場」を担当している。

■テオ・ハイ・ピン(中央)略歴
シンガポール切っての建築デザイン事務所であるDPアーキテクツのシニア・ディレクター。「シンガポール・スポーツ・ハブ」のマスタープランのコンセプトづくりの責任者。彼は「ウォーター・スポーツ・センター」など全てのコミュニティ・ビルや施設を「ハブ」の中に組み込んだ。彼のシンガポール作品としては、「ポンティアック・マリーナ」「パークビュー・スクエア」「リッツ・カールトン・ホテル」「ヴィヴォ・シティ」(設計:伊東豊雄)などがある。

■ジョナサン・ローズ(右)略歴
世界最大のエンジニアリング・デザイン会社であるAECOMのマスタープラン・チームのリーダー・アーキテクト。彼は「シンガポール・スポーツ・ハブ」のマスタープランをはじめ、「2016リオデジャネイロ・オリンピック」「2012ロンドン・オリンピック」など、世界的に話題のマスタープランを手がけてきた逸材だ。その他にも20年にも渡る「ケンブリッジ大学増築マスタープラン」や、「カーディフ市中心部活性化マスタープラン」を手がけている。

 

Material: Courtesy of Arup Associates, DP Architects and AECOM.