レポート

ミラノデザインウィーク 2016 レポート

文・写真:柴田直美

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ミラノサローネが今年も4月12日~17日まで開催された。(概要については、前回のレポート参照)世界最大の家具・インテリアの見本市と言われるだけあり、今年も重鎮のデザイナーから、注目の若手デザイナーまで、街の至るところで自身のクリエイティビティを披露していた。

トルトーナ地区に向かう橋に掲示してあったマールテン・バースのポスター。  

トルトーナ地区

企業が行う展示はいろいろな広報物にてその展示がアピールされるものの、詳細も何もなく『NEW』とだけ書いてあったマールテン・バースの展示。椅子を燃やし、エポキシ樹脂でコーティングした卒業制作によって、瞬く間に世界的に知られるようになったオランダ人デザイナー。その後も工業用粘土を使った椅子など既成概念にとらわれない作品を提案している。

『新しいって何?』という投げかけとともに提示されたのは200年後に完成する2つのプロジェクト。1つ目の『The New Forest』は100ヘクタールの土地に、葉の色によって配置された木々は200年後には森林となり、上空から見ると「NEW!」と文字を形作っているという壮大なプロジェクト。200年前に始まったプロジェクトが時を越えて『新しい』様相を現すのである。2つ目のプロジェクトは『Tree Trunk Chair』。生長する木を型に埋め、200年後に伐採してその部分を切り取れば、『新しい』椅子として完成する。現在彼は建築家と協働して建築プロジェクトを進めている。アート、プロダクト、建築など領域を越えて、ますますの活躍が楽しみである。

  • 展示に入る前に掲示されているマールテン・バースからのメッセージ。
  • 2016年の『Tree Trunk Chair』。
  • 2116年の『Tree Trunk Chair』。
  • 2216年に完成する『Tree Trunk Chair』。<br />

トルトーナ地区の中核的な存在のスーパースタジオピューの入口、アートポイントで展示をしていたのはシチズン。2014年、同じくトルトーナ地区で行われたインスタレーション『LIGHT is TIME』を手がけた田根剛氏(DGT.)が再度、シチズンの技術とその美しさを大空間(824㎡)を使って表現した『time is TIME』。約12万個の時計の「地板」を用いたインスタレーションは、歩くたびにきらきらと表情を変える。2つの空間がtime" = 瞬間、はじまり、偶然、いま、"TIME" = 時代、永遠、必然、未来という2つの時間を伝える。

  • 空間に星屑がちりばめられたようなSPACE A『time』。照明・音響演出も前回に引き続き遠藤豊氏(LUFTZUG)が担当。
  • SPACE B『TIME』は整然と並ぶ地板が永遠に続くような錯覚を覚える。
  • SPACE B『TIME』に設置された時計。一秒の間に存在する「時」を表現している。

スーパースタジオピューでは、昨年につづき、アイシン精機とAGCが出展した。ミラノデザインアワード 2016 ベスト エンゲージメント賞を受賞したアイシン精機は、評価の通り、来場者とコンセプトを夢中になれる体験を介してつなぐ空間。過去2回はハイテク技術で未来の暮らしを提案していたが、今回は「手でつくる」ことの楽しさを伝える展示。柔らかな木漏れ日のような空間を抜けると、自然光が入る気持ちが良い明るい空間が広がる。そこでアイシン精機の製品であるミシン「OEKAKI50」を体験することができる。

AGCは、約5,000枚の薄板化学強化ガラスを使ったインスタレーション「Amorphous(アモルファス)」を太刀川瑛弼氏(NOSIGNER)が手がけた。見る角度によって色彩が変わるガラス、鏡面でありながらも透過性ももつガラス、映像投影が可能なガラスなどを使って、ガラスの構造(不規則に配列されたアモルファス(非晶質)構造)を幻想的に表現している。

  • デザインエンジニアの吉本英樹氏(tangent)がつくり上げたのは、アイシンのあらゆる製品の要となるギアからインスパイアされた歯車で出来た木の幹を人が触ると動くインタラクティブな空間展示『Drive to shine』。
  • マリメッコのデザインを手がけたことでも知られるテキスタイルデザイナーの鈴木マサル氏(OTTAIPNU)が展開したのは「STITCH FIELD」。まさに草原のように1,000枚以上のカーテン芯地がそよそよとそよぎ、「OEKAKI50」を使ってステッチされた動物たちが顔をのぞかせる。Photo by Daisuke Ohki
  • 絵を描くように自由に縫うことができる「OEKAKI50」は普段ミシンを使わない男性やこどもにも大人気。伊藤節氏と伊藤志信氏がデザインしたテーブルとスツール「TORTA」は、天板が動き、2人でミシンを使うことができ、スツールの中にはミシンを収納可能。
  • 刻々と変わるライティングデザインは照明デザイナーの岡安泉氏による。今回、色とりどりのお揃いのバッジをつけている人を多くみかけ、聞いてみたところ、スーパースタジオピュー内の展示で配っていると言うので行ってみたサンブレラ社のブース。屋外で使える防水で色褪せしにくいテキスタイルだが、風合いは通常のテキスタイルと変わらない。
  • フランス人デザイナーÈlise Fouinによるインスタレーション『Sunbrella Canopy』。
  • テキスタイルが水をはじく状態を実演してくれた。
  • Emanuel Garganoによる木材の一面が照明になっている『Morale』
  • Emanuel Garganoによる『Eremo』。壁に向けて閉じると照明も消える。
  • トルトーナ地区では、マルセル・ワンダースはCYBEX社のために子ども向けにデザインした『Parents Collection』を発表。安全で機能的かつデザイン性が高いハイチェアやバウンサーなど、洗練されたスタイルを好む親たちにものエッジが効いたデザイン。

目利きとして知られるロッサーナ・オルランディ氏が気に入ったものだけを扱う「スパツィオ・ロッサーナ・オルランディ」は、必見の場所。実はトルトーナ地区から出るバス68番に乗ると10分程度で着く。会期中、異常に混雑するポルタジェノバ駅にも行く必要がなく、とても便利。「スパツィオ・ロッサーナ・オルランディ」で気になったものをいくつか紹介する。

  • ボツワナの地元の職人の技術や伝統工芸と国際的なデザイナーとのコラボレーションを続けて来た家具のレーベルMaeboが2014年からボツワナの若いデザイナーたちと立ち上げたMaebo Studio。テーブルはMaebo Studio の2016年新作『Sesana』。スツールはパトリシア・ウルキオラによるデザイン。
  • t.e.のトーマス・アイクは今年はstudio wieki somersが手がけたStill Watersという水の循環をイメージしたプロダクトを展示。
  • ピート・ヘイン・エーク自ら新作のランプについて説明。
  • セラミック鋳型で作られたランプは壁掛け、デスクスタンド、ベッドサイドランプ、スタンドランプと使い方いろいろ。
  • 昨年、アイントホーフェンデザインアカデミーを卒業したばかりのDan Adlešičによる蓄光素材を使った『Radiation lamp』。ペンライトを使って描くこともでき、日中に日光に当てておけば、夜間中、ぼんやりと照らしてくれるとのこと。
  • こちらもDan Adlešičによる『Light Keyboard lamps』。下の黄色いボタンを押すと上のLEDライトがつくランプ。気分に合わせて自由なパターンを作ることができる。
  • Jongha Choiによる椅子『de-dimension』。壁面にかけてある平面的な椅子が手前の立体的な椅子のように変わる。

ランブラーテ地区

ランブラーテ地区は毎年、デザイン系大学が企画している展示が多いエリア。テクノロジーに圧倒されている現代社会にあって「触る」をテーマに『Touch Base』と名づけたアイントホーフェンデザインアカデミーの展示は学長のトーマス・ヴィデルシュホーフェン(thonik)とイルス・クロフォード(Studioilse creative direction and design)がキュレーターを務め、この数年で変わって来た学生の『社会的な問題に取り組みたい』という意識を反映している。

  • 『Touch Base』。入ってすぐにヤギやヒツジが出迎えてくれる。動物たちに触ることでオキシトシンレベルが上がり、血圧が下がる。
  • Ekaterina Semenovaによる捨てられてしまう牛乳に着目した『Milk and sugar ceramic glazing』痛んだ牛乳であっても丈夫で防水性が高い釉薬として働くことを発見し、混ぜ込む乳製品の違いによって、濃度の違う茶色に焼き上がる。
  • VENTURA LAMBRATE のLOCATION 18 に展示していたIsabel Lacarosがデザインした繊細なアクセサリーやオブジェ。
  • 染色した馬毛を手作業で編む技術はチリ南部の村で伝統的に女性たちが継承してきた。
  • VENTURA LAMBRATE のCAMPER2, 3に展示していた富松暖の『DISSOLVE』。銅と金が混合したものを硝酸に浸けることで銅のみを腐食させる技術を用いたジュエリーコレクション。

番外編

2016年4月2日~9月12日の5か月間に渡り国際博覧会『第21回トリエンナーレ・ディ・ミラノ(XXI Triennale International Exhibition 2016)』(http://www.21triennale.org/en/)が開催されている。この博覧会は15年を経て復活したもの。『サローネ・ディ・ミラノ国際家具見本市』とも連携し、昨年のミラノ万博に続き、デザイン都市ミラノとして賑わいを見せる。テーマは、『21世紀デザイン・アフター・デザイン』、トリエンナーレ・ディ・ミラノ芸術館を始め、レオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館、MUDEC、IULM、ミラノ工科大学キャンパスなど、ミラノやモンツァ市の複数の会場にて開催される。

TAKEO PAPER SHOWも展示されていたトリエンナーレ・ディ・ミラノ芸術館では、原研哉氏とアンドレア・ブランジ氏の共同キュレーションにより、「NEO PREISTORIA 100 Verbi:新・先史時代 100の動詞」展が好評を博した。石器時代から人工知能時代へと変遷してきた人間の活動と欲望の歴史を、100対の道具と動詞を組み合わせて見せる展覧会。

トリエンナーレ・ディ・ミラノ芸術館のエントランス。

  • 黒い空間の中に浮かび上がる無数の言葉とオブジェクト。ほの暗い空間が展示に集中できる。
  • 『絶望する』として展示されている広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」。
  • キャプション:アンドレア・ブランジによる動画。
  • 展示されているアンドレア・パラディオの建築書。
  • 中庭では『Archi and Art』と題された展示が展開され、建築家とアーティストが協働でデザインした、アート作品を含むパヴィリオンが点在。
  • KesselsKramerのディレクションによるヴィジュアルアイデンティティは街中でもポスターとして展開

例年、デザインウィークが終わって早々にミラノを離れていたが、今年は第21回トリエンナーレ・ディ・ミラノを見るために数日滞在を延ばしたのは、大正解であった。デザインウィークが終わって、人出が落ち着いた街をゆっくりと回り、念願であったプラダ財団(1910年代に醸造所として使用されていた建物)やHangar Bicocca(約15.000㎡のPirelli工場跡地)を見学し、展示スペースとして建てられていない産業的建築物の空間が持つ力強さにしびれながら、ミラノを後にした。