ミラノサローネが今年も4月12日~17日まで開催された。(概要については、前回のレポート参照)世界最大の家具・インテリアの見本市と言われるだけあり、今年も重鎮のデザイナーから、注目の若手デザイナーまで、街の至るところで自身のクリエイティビティを披露していた。
企業が行う展示はいろいろな広報物にてその展示がアピールされるものの、詳細も何もなく『NEW』とだけ書いてあったマールテン・バースの展示。椅子を燃やし、エポキシ樹脂でコーティングした卒業制作によって、瞬く間に世界的に知られるようになったオランダ人デザイナー。その後も工業用粘土を使った椅子など既成概念にとらわれない作品を提案している。
『新しいって何?』という投げかけとともに提示されたのは200年後に完成する2つのプロジェクト。1つ目の『The New Forest』は100ヘクタールの土地に、葉の色によって配置された木々は200年後には森林となり、上空から見ると「NEW!」と文字を形作っているという壮大なプロジェクト。200年前に始まったプロジェクトが時を越えて『新しい』様相を現すのである。2つ目のプロジェクトは『Tree Trunk Chair』。生長する木を型に埋め、200年後に伐採してその部分を切り取れば、『新しい』椅子として完成する。現在彼は建築家と協働して建築プロジェクトを進めている。アート、プロダクト、建築など領域を越えて、ますますの活躍が楽しみである。
トルトーナ地区の中核的な存在のスーパースタジオピューの入口、アートポイントで展示をしていたのはシチズン。2014年、同じくトルトーナ地区で行われたインスタレーション『LIGHT is TIME』を手がけた田根剛氏(DGT.)が再度、シチズンの技術とその美しさを大空間(824㎡)を使って表現した『time is TIME』。約12万個の時計の「地板」を用いたインスタレーションは、歩くたびにきらきらと表情を変える。2つの空間がtime" = 瞬間、はじまり、偶然、いま、"TIME" = 時代、永遠、必然、未来という2つの時間を伝える。
スーパースタジオピューでは、昨年につづき、アイシン精機とAGCが出展した。ミラノデザインアワード 2016 ベスト エンゲージメント賞を受賞したアイシン精機は、評価の通り、来場者とコンセプトを夢中になれる体験を介してつなぐ空間。過去2回はハイテク技術で未来の暮らしを提案していたが、今回は「手でつくる」ことの楽しさを伝える展示。柔らかな木漏れ日のような空間を抜けると、自然光が入る気持ちが良い明るい空間が広がる。そこでアイシン精機の製品であるミシン「OEKAKI50」を体験することができる。
AGCは、約5,000枚の薄板化学強化ガラスを使ったインスタレーション「Amorphous(アモルファス)」を太刀川瑛弼氏(NOSIGNER)が手がけた。見る角度によって色彩が変わるガラス、鏡面でありながらも透過性ももつガラス、映像投影が可能なガラスなどを使って、ガラスの構造(不規則に配列されたアモルファス(非晶質)構造)を幻想的に表現している。
目利きとして知られるロッサーナ・オルランディ氏が気に入ったものだけを扱う「スパツィオ・ロッサーナ・オルランディ」は、必見の場所。実はトルトーナ地区から出るバス68番に乗ると10分程度で着く。会期中、異常に混雑するポルタジェノバ駅にも行く必要がなく、とても便利。「スパツィオ・ロッサーナ・オルランディ」で気になったものをいくつか紹介する。
ランブラーテ地区は毎年、デザイン系大学が企画している展示が多いエリア。テクノロジーに圧倒されている現代社会にあって「触る」をテーマに『Touch Base』と名づけたアイントホーフェンデザインアカデミーの展示は学長のトーマス・ヴィデルシュホーフェン(thonik)とイルス・クロフォード(Studioilse creative direction and design)がキュレーターを務め、この数年で変わって来た学生の『社会的な問題に取り組みたい』という意識を反映している。
2016年4月2日~9月12日の5か月間に渡り国際博覧会『第21回トリエンナーレ・ディ・ミラノ(XXI Triennale International Exhibition 2016)』(http://www.21triennale.org/en/)が開催されている。この博覧会は15年を経て復活したもの。『サローネ・ディ・ミラノ国際家具見本市』とも連携し、昨年のミラノ万博に続き、デザイン都市ミラノとして賑わいを見せる。テーマは、『21世紀デザイン・アフター・デザイン』、トリエンナーレ・ディ・ミラノ芸術館を始め、レオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館、MUDEC、IULM、ミラノ工科大学キャンパスなど、ミラノやモンツァ市の複数の会場にて開催される。
TAKEO PAPER SHOWも展示されていたトリエンナーレ・ディ・ミラノ芸術館では、原研哉氏とアンドレア・ブランジ氏の共同キュレーションにより、「NEO PREISTORIA 100 Verbi:新・先史時代 100の動詞」展が好評を博した。石器時代から人工知能時代へと変遷してきた人間の活動と欲望の歴史を、100対の道具と動詞を組み合わせて見せる展覧会。
例年、デザインウィークが終わって早々にミラノを離れていたが、今年は第21回トリエンナーレ・ディ・ミラノを見るために数日滞在を延ばしたのは、大正解であった。デザインウィークが終わって、人出が落ち着いた街をゆっくりと回り、念願であったプラダ財団(1910年代に醸造所として使用されていた建物)やHangar Bicocca(約15.000㎡のPirelli工場跡地)を見学し、展示スペースとして建てられていない産業的建築物の空間が持つ力強さにしびれながら、ミラノを後にした。
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