インタビュー No.010

構造学スクール「MISA」開校についてきく

池田昌弘氏 インタビュー


- 再生時間:16分48秒 -

MISA(Masahiro Ikeda School of Architecture)の目指すもの

池田

一つにいわゆる大学教育があり、もう一方で実務、設計事務所があり、今の世の中というか、昔からそうかもしれませんが、大学の教育期間が終わった後に社会人になって、仕事を始めていく、というようなかたちがあるけれども、現実はそこの部分はそんなに急に切り離せるようなものではない。その両方のちょうど中間というか、両方が混ざったところができたらいいなと。つまり教育と実務の間、数学でいう交わりのような感じで、この学校がイメージできたらいいなと思っています。なにか学校法人のように規制がしっかりしているようなものではなく、かといって一般的な設計事務所のように営利を目的にしていくようなものでもなく、その両方が入っているようなものであればいいなと。それがこの学校の目指しているところです。

ノウハウというより、僕としては思想をちゃんと伝えられる学校にしたいと考えています。イケダスクールを出た人達がいろんな所に散らばって、独立する人もいれば、企業に戻っていく人もいる。それぞれに活躍して貰えたらいいなと。その中で共通して、ある思想というか、「この人達ってやっぱりイケダスクールを出た人達だよね」と云って貰えるようになればとても良い。僕が勉強してきた木村(俊彦)スクール、佐々木(睦朗)スクールなどでも、そういった思想のようなモノがずっと続いていて、それがあるかないかというのはとても大きな差だと思います。そんな思想の系図のようなものを続けていってくれる学生達を育てていける学校を目指しています。

カリキュラム

池田

現実的なカリキュラムとしては、ベースは今、実際に起こっている実務プロジェクト(PJ)が中に入ってくる仕組みになると思います。委託的に受け入れていくというような事もありますし、同時に僕自身が(たちあげた)施工会社(株式会社R.O.I)との設計協力というかたちもありますので、そこからのリンクも考えています。

従来の会社形態の場合、過去のものや実際の仕事にならなかったものも取り上げて、その中から出てくる理論的な事、バックグラウンドになっている歴史的な事などを、なかなか教える機会がありません。そんな事はどこか余所で勉強してきなさいと、僕もそうやってきたけれども、現実的にはなかなかそうもいっていられない。ですから、実務的PJを実務実習としてやりながら、そこからリンクしている理論的な背景や思想的な背景を、講義というかたちでフォローアップしていく予定です。

(実際に建たなかった)架空のコンペをやってもあまり深みがないと思われるかもしれませんが、どんな人達が関わり、どのような苦労があったのか、そこに(構造家として)どのように関わったのかという事をトレースしながら一緒に勉強していく機会としたい。そこに必要となるような理論や背景を知識としてインプットしていく、そんな事が出来るのではないかと思っています。

カリキュラムは午前から夕方まで実務実習にあてます。平日コース(本科)と土日コース(専科)で、フォローアップの講義、時に対談などの機会を夜に設ける予定です。

生徒さんは朝から夜までほぼ24時間、週7日、その間全てに授業が詰まっているのではなく、むしろスタジオのような形態です。朝来ると自分の机とスペースがあり、そこに夜まで居てもいいし、土曜や日曜でも来ても構わない。そこで腰を落ち着けて、1年なら1年、2年と勉強して貰いながら、ちゃんと実務経験になるくらいの体験をして貰うと。過去のPJを取り上げたり、現在進行形のPJをやって貰ったり、それをフォローアップしていく講義を、かなり専門的に、大学院レベルの内容でやっていく予定です。

大学教育だけでは教える内容に限界があると?

池田

カリキュラムとしては、どうしても少ないと思いますね。その辺りが僕自身も気になっているのでMISAでは教えますが、(大学は)あまり直接に結びつかないような授業になっちゃっているんですね。その勉強をしたからといって、じゃぁ実際につくりたい建物とどう関係があるのかというと、あまりリンクしてない授業が多いかなぁと。もう少し実務的な話をしながら、それに関わるような事を教えてあげないと、まるで会話した事もないのにずっと文法と単語だけを勉強しているような(笑)。最後はリンクするにしても、そこが離れている気がします。
かといって、その中間を繋ごうと構造家が設計をみてあげても、なかなか学生がそこに時間を割かない。やはりもう少しちゃんと理論から勉強しないといけない。僕はその辺り(の教育)に興味がある。カタチとか、そういうものをつくるルールなのかなんなのか、そういった事に興味がある人達が学生として集まってくれれば話もできる。構造にも意匠にも興味があるという、そういう学生が両方いないといけない。MISAでは構造をベースにしながらも、意匠、環境にも興味がある人が来てくれればいいなと思っています。

10年くらい前、未だ学校なんて考えていない頃に皆でよく冗談で云っていたのは、5年、10年ちゃんと構造について勉強すれば、その後30年も40年も自分の好きなものをつくれるのに、何で意匠の人はみんな勉強しないんだろうねって(笑)。というのは、大学を出て20代で建築家になって、60才、70才まで仕事をする。40年とか50年働くのに、たかだかそのうちの何年かを構造の勉強に費やせば本当にいろんな事ができるのに、何でしないんだろうかと。

僕の場合はある意味では修行なので、構造事務所に入って、10年なり頑張ってきましたが、そういうかたちではない学校なら、短期で集中的にいろいろなバリエーションを出して教えられるのではないかと。構造に興味がある人は勿論、意匠をやっている人でも構造的な事に興味があって、自分の設計の中に取り入れていきたい人。または建築以外にも何か大きなものをつくるアーティストでもいい。構造の勉強をするだけで随分とやれる事が違ってくる筈です。いくら人に訊いても、答えが返ってくるまで、脳の中でタイムロスがありますから、自分の中でできるというのは凄く楽しい事だと思います。

それと僕は数学が得意で、好きですし、数学的な面白さ、美学的な事などを、思想のカリキュラムにも取り入れて、カタチやカタチの成り立ちだとか、数学的・物理的背景なども教える予定です。最初に絵だけ描いて、それがこう・・・という事ではなくて、同時に考えていけるような人達が育ってくれると思います。

「BIM」に代表される昨今のソリューションを使いこなすには、 実はベースとなる知識こそ大事であるとの声がありますね。

池田

僕も大学を出て木村、佐々木両事務所で解析ソフトを使っていたので、よく解るのですが、大事なのは、(ソフトを使うと)何でも出来てしまうので、自分で意思決定が出来ない人には方向が決められないという事。昔は1時間かかっていたのが1秒で終わりますから。それこそ1万回でもやれるけれど、出来ない人には出来ない。逆に昔のソフトの方が良い場合もある。

その一方でこういう事もあります。僕が木村事務所にいた頃は未だ自社開発のソフトを使っていて、僕自身も超高層の振動解析もやっていたけれども、今は解析ソフトの中身までみられる人がなかなかいない。あれはマトリックスになっているのですが、例えば、安定したかたちの場合はマトリックスの真ん中の辺りの数字が大きいとか、こっちが不完全だとこっちの数字が大きくなるとか。そういった数式と数字の感覚というものを、なかなか全員が持っていなくて、どうすれば数学的に処理できるかが難しいんです。そういう意味では思想だけでなく、ベースとなる理論もきちんと教えていきたい。MISAでは一応、ソフト自体も作っていけるようにしたい。使い方以前に、ソフトがどのようにプログラムされて、どのような理論でできているのか、つくったソフトを実際に使うこともします。

池田氏はご自身を「統合家」と名乗っていますね?

池田

今回は「構造スクール」として構造家をつくろうと思っていますが、僕自身は別に「統合家」をやめた訳ではなく「統合家」だと思っています。別に、全てのものを統合するという訳ではなく、ある時は構造家、またある時には数学者でいいのかもしれない。いろんな場面があっていい。それがいろんなところにはみ出していく時に何か核になるものがあればいいなと。既存の枠組みに囚われない、ちゃんと出ていけるような人、それが統合家だと思っています。その中で特に今回は、構造家の育成、もしくはその人達によってつくられる作品、それができるような体制をつくりたいと思っています。

(2009.10.22. 池田アトリエにて収録)