ARCHI REVIEW

ARCHITECTS REVIEW


千葉 学
東京大学大学院工学研究科 千葉学研究室

「テクノロジーがどれほど優れたものになっても、建築とドローイングを切り離すことはできない。ドローイングは、単なる最終成果ではなく、建築デザインの思考過程の一部なのだ。」と故マイケル・グレイヴス氏(建築家)が新聞に綴ったように、建築を思考する中での手描きスケッチの重要性は長く語られてきました。しかしその一方で、近年の建築現場では、デジタルデータでのやり取りが当たり前になりつつあります。このギャップを埋める存在としても期待を集めるBamboo Slateを、今回は東京大学千葉学研究室の皆さんに1ヶ月間お試しいただきました。

動画:「本当にデータ化されるの…?」と怪しみながら、思い思いペンを走らせる学生たち。こうして何気なく書かれたスケッチが、後のひらめきにつながる。

 

Bamboo Slateとのファーストコンタクトのようす。「紙とペンで書いたものがクラウド上にアップされる」との説明を聞いて、思わず身を乗り出す千葉研究室のメンバー。

 

文字とスケッチをクラウド上に同時に保存できることから、講義メモにも良いのではとの声が多数。学生たちの頼もしい味方として活躍してくれそうだ。

 

普段からマメに書き記すというこちらの彼は、スケッチ、計算、アイデアメモ、落書きなどでこの1か月の間に付属の用紙を使い切ったそう。

ふとした瞬間の“書きたい欲”を満たしてくれました

――実際に使ってみて、いかがでしたか?

 

学生A Bamboo Slateのおかげで、書きたい! という欲求がとても高まりました。今はちょうど授業や課題などが落ち着いている時期なんですが、それでもやっぱりアイデアが浮かぶのってちょっとした時間だったりするんですよね。そんな時、Bamboo Slateがあると隙間時間でもサッと書き出しておこうという気持ちになりました。ボード状なので、気軽にどこでも書ける点がよかったです。

 

学生B 何気なく書いた落書きみたいなものも、気軽にデータ化できるっていうのはいいなと思います。落書きをわざわざ写真に撮って…っていうのはなかなか手間ですけど、Bamboo Slateはその場でピッとクラウドにあげられるので、アイデアをどんどんストックできる。敷居なしに共有までできるから、頼もしい存在だなと思いました。有名建築も、元はホテルや喫茶店の紙ナプキンにアイデアスケッチしたものから始まっていたりしますし、フォーマルな使い方というよりも思い浮かんだアイデアを書きとめるアイテムとして重宝させてもらいました。

 

学生C ただ、紙だといつの間にか(スケッチを)捨てちゃうんですよね。いいアイデアが浮かんで書きとめても「あれ、どこやったっけな?」 なんてことがしょっちゅうで。その点、Bamboo Slateは紙を捨ててもデータとして残せるので安心だなと思いました。

 

学生D 僕はA4サイズのBamboo Slateを使っているんだけど、カフェでA4はちょっと広げにくかったかな。持ち歩きにはA5がベストサイズだと思います。小さいカバンにも入りますしね。ただ、また授業が始まったら、A4サイズはめちゃくちゃ重宝すると思います!

 

全員 わかる!!!

 

学生A 同じ講義を取っていても、やっぱりみんなそれぞれメモのとり方が違うから、テスト前にはみんなで集まって復習しあって、協力してテストに立ち向かっているんです。今まではいいなと思ったメモをコピーさせてもらったり、手書きでイチから写したりしていたんですが、Bamboo Slateならすぐに共有できるから、より勉強が捗りそうです!

 

学生E それに文字だけでなく、図も一緒にデータ化できるのはすごく便利だよね。

 

学生A 開口率や面積、高さなど、図を描きながら計算するのは建築ではよくあることだからね。頭の中だけでは計算し切れないので、普段から図を描いて、そこに一緒に計算式を書いています。そうすると、プロセスが図と一緒に残るから、後でちゃんとプレゼンテーションとして起こす時に、どうやって計算したか辿れて安心なんです。持ち運ぶのはもちろんだけど、研究室のデスクに常備しておくのもいいなと思いました。

 

学生B 僕はプレゼンテーション用のレイアウトを考えるとき、いつも手書きしておいたものを点検して、その中から決めてるんですが、たとえばグループでの出展だったら、すぐに共有できるから相談もスムーズにできるんじゃないかなと思いました。

 

学生C あと、手書きっぽい図面に人とか木なんかを入れる時にも便利でした。いつもの手順でやると、紙に書いたものをスキャンして、PCに取り込んで画像にして、そこからノイズを消して、配置して…っていう風に構成していくんですけど、何しろ工程が多くて。しかもその中の、ノイズを消すっていう作業がすごく厄介なんです。

 

学生D そうそう、スキャンをする時にどうしてもノイズが入っちゃって、それを消すのに時間がかかるんだよね…。

 

学生E でも、Bamboo Slateは書いた線がそのままデータ化されるから、そもそもノイズが発生しないんですよね。サッと書いた人や木がクリアな状態ですぐにデータ化されて、図面上にすぐ配置できる。こういう作業ってだいたいが土壇場だから、ひと手間もふた手間も省くことができて、とても有難かったです。

 

――他にどんな使い方が考えられますか?

 

学生C 今の話、パースを描いてる時に人を入れる場合にも応用できるんじゃないかなと思うんです! 人以外のパースを印刷して、Bamboo Slateの上に載せて、トレースしたパースの上から人を描いて…。で、後でデータ上で構成する。パースって、人とか木を別のレイヤーにしたがったりするんで、理に適っているんじゃないかと…。

 

学生D あとは、ミーティングの時など、リアルタイムに共有したいときにも使えるんじゃないかなと思います。ライブモードにして、自分が描いているものを大きい画面に映してみんなで見ることができたら便利だなと。逆に、みんなのウインドウをプロジェクターに同時に出しておいて、こっちで描いた人が「あ、君のいいじゃん」みたいなこともできるんじゃないかな。インタラクティブな授業にも使えそう。

 

学生E わたしは「忘れたくない!」と思ったことを書くタイプなので、たとえばスケジュール帳とBamboo Slateがリンクしていたら嬉しいですね。書いて記憶に残して、データとしても確認できる…。そうしたらうっかり予定を忘れることも減ってくれるかも…。(笑)

 

――やはり建築を考える過程において、スケッチや手を動かすということは重要ですか?

 

学生A そうですね。どんなにデジタル化が進んでも、やっぱりラフスケッチっていうのは建築のスタートなんだと思います。それは、日々建築を学んでいても思うし、世界中の建築家たちも言っていることで。課題に取り組んでいるとき、自分がスケッチで描いた最初のイメージを書き出したラフスケッチに対して、千葉先生が修正を加えて戻してくれるんですけど、それはあくまでもイメージであって、図面ではなくて。最終的にはCADに起こさなくちゃいけないから、アナログからデジタルへの移行が必要になってくるんですけど、その過程の作業は、イメージを本当に理解するためにしているんじゃないかなと思うんです。作業は大変だけど、やっぱりそういうプロセスが大切なんじゃないかな。だから私は、アナログとデジタル間のギャップはあって良いと考えています。

 

学生B そうですね。僕も、感覚をより表してくれるのはアナログだと思っています。だけどやっぱり、紙とペンというアナログな道具を使って書かれたものが、サッとデジタルにつながって共有できるっていうのはすごく魅力的です。Bamboo Slateは、ふとした瞬間の“書きたい欲”を満たしてくれるから、これからも書くことを気軽に楽しむコミュニケーションツールとして使っていきたいですね。

 

ツールと思考/表現は表裏一体のものだと考えています

――学生たちの反応を受けて

 

千葉 学生は、建築の設計という点ではまだまだ初心者で経験もない状態ですが、設計を考えるためのツールに対する理解や感受性は、僕たち実務者と全く同じだと思いました。手書きの価値を十分に分かった上で、その情報をデータ化することの価値も分かっている。立派なことだと思いました。

 

さらにこのツールの活用法をどんどんイメージできているのは学生ならではのことかもしれません。情報を瞬時に共有したり、インタラクティブな授業への展開、さらにはパースの描き方にまで応用できることを考えていることは、デジタルツールがすでに当たり前になっている世代だからこその意見だと思います。

 

もう一つ興味深い意見は、アナログとデジタルのツールが完全にシンクロしない状態にも価値があるとする意見です。これは、ツールそのものが思考に大きく影響していることを示唆しています。このことは今後の設計ツールにとってかなり重要な視点ではないかと思います。

 

――Bamboo Slateの第一印象を教えてください

 

千葉 今、建築家はほとんど皆コンピューターやタブレット端末を持って出回って、途中段階のスケッチや画像を絶えずやりとりしています。事務所スタッフや構造事務所、設備事務所、ランドスケープ、照明…などなど、非常に多くの人との図面のキャッチボールがあるんです。いつもは図面をどこかでプリントアウトして、そこに書き込んで、Faxしたりメールで送ったりしているんですが、それがとても面倒臭いんですよね。そうじゃなければ、言葉で伝えたり電話で言ったり、となるんですが、結局上手く伝わらないことが多く、「そこじゃなくて!」って大変で。当然、施工現場でも図面のやり取りが続く上に、送られてくるのはほとんど電子情報なので、建築ではBamboo Slateのような機能を持った機器がものすごく必要とされているのではと思います。

 

――実際にお使いになった感想を教えてください

 

千葉 まずこのツールが、アナログとデジタルの両面を持っていることは、とても便利なツールだと思いました。それは学生たちの反応と同じです。スケッチは、常に様々な場所に描きます。スケッチブック、メモ帳、打ち合わせ資料、手帳など、その瞬間に目の前にあるものに描くことがほとんどです。だからこそそのスケッチは、よくなくなります。あとで探しても見つからない。そんな状況なので、簡単に持ち運びできるツール上にストックできることは、安心ですし嬉しいことです。

 

先にも述べたように、事務所のスタッフとのやりとりは、かなり頻繁に発生しています。その間やりとりされるのは、スケッチなど、会話の延長に近いような情報です。それが同じツールで共有できたり、同じ土俵で描くことができるようになれば、さらになくてはならないツールになりそうだと感じています。

 

ただ一方で、デジタルツールがアナログに成りきる必要もないと思っています。僕は設計ツールを考えるときに、よく先人たちのこと、また音楽のことなどを思い浮かべます。ルイス・カーンは木炭をよく使っていましたし、コルビュジエはペンでした。そのツールは、作風と表裏一体のものだと思っています。あるいは音楽にしても、ギターを手に作曲した曲と、ピアノを奏でて作った曲は、趣を異にすると思います。ビートルズが時代と共に様々な楽器を使い、新たな音楽の可能性を展開させていったのも、やはりツールと思考/表現は表裏一体のものだということです。

 

例えばスケッチは、何度も上書きできて、その何本もある線の中から新しい線が見えてくるようなことがあります。それが思考を大いに助けるものですが、デジタルではそのような上書きは難しいと思いますし、ツールもそれに適してはいません。でも、逆に自分のスケッチ以外のものを適宜重ねたり、参照したりしながら描くことは、得意なことかもしれません。

 

そのような意味で、ツールにできることの価値を十分に見極めた上で、いくつものツールを共存させながら行っていく設計にとても可能性を感じています。

 


千葉 学
東京大学大学院工学研究科
千葉学研究室

千葉 学(Manabu, Chiba)

1960年
東京都生まれ
1985年
東京大学工学部建築学科卒業
1987年
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了
1987年
株式会社日本設計 (〜1993年)
1993年
ファクター エヌ アソシエイツ共同主宰 (〜2001年)
1993年
東京大学工学部建築学科/キャンパス計画室 助手 (〜1996年)
1998年
東京大学工学部建築学科安藤研究室 助手 (〜2001年)
2001年
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授 (〜2013年)
2001年
千葉学建築計画事務所設立
2009年
スイス連邦工科大学(ETH)客員教授 (〜2010年)
2013年
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授

【お問合せ先】 株式会社ワコム
http://www.wacom.com/
http://www.wacom.com/ja-jp/products/smartpads/bamboo-slate