ARCHI REVIEW

第002回 ARCHITECTS REVIEW


西沢立衛建築設計事務所

第1回のARCHITECTS REVIEWでnoiz architectsにご使用いただいたWacom社の液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」。この製品を今回試していただいたのは西沢立衛建築設計事務所。
普段は鉛筆、特にNYのホテル・ザ・マーサーの鉛筆を愛用しているとおっしゃる西沢立衛先生には液晶ペンタブレットという機器を触れていただいた印象について、そして所員の尾野克矩氏には約3ヵ月の間、仕事の中で同製品を使っていただいた感想をお伺いした。

 


尾野克矩氏

尾野氏:「自由曲線でかたちをつくる」作業のデモンストレーション

デジタルとアナログの中間的魅力

――ペンタブレットを使用されたのは今回がはじめてですか?

 

尾野 ええ。西沢立衛建築設計事務所ではスタッフは皆、基本的にマウスで操作しています。僕自身、ペンタブレットにずっと興味はありましたが、仕事で使ってみたのは今回がはじめてです。

 

――使い心地はいかがでしたか?

 

尾野 思っていたより滑らかですね。追随性も良い感じです。

 

――どのような用途で使用されましたか?

 

尾野 使い方としてはnoiz architectsさんのようなシーンではなく、もう少しプロジェクトの川上のところ、具体的には「スケッチ」とそこから段々かたちをつくっていく部分で使いました。僕たちはよく「自由曲線でかたちをつくる」ことをやりますが、その場合、従来は「こういうかたちにしたい」という線を鉛筆やペンで描き、それをスキャンして調整した後、CADに落とし込んでいました。今回はその部分でペンタブレットを使ってみました。

 

――どのような環境で使用されましたか?

 

尾野 2Dと3DCADソフトです。特にこのペンタブレットはRhinoceros(ライノセラス)との相性がとても良いですね。「自由曲線ツール」で使ってみたら結構スムーズに作業が進みました。
ハード面は24インチのメインディスプレイにペンタブレットを接続して使用しました。僕はスケッチをするツールとして「紙の代わり」に使いましたので、描いているときはほとんど下を見ています。だからペンタブレットの大きさはお借りした13インチがちょうど良かったですね。

 

――使用された中で感じられたことを教えてください。

 

尾野 最初に感じたのはデジタルとアナログの中間的なことができそうだ、ということです。それがプロジェクトの最初の段階であるイメージスケッチで使おうと思ったきっかけでもあります。

このペンタブレットという機器は、道具としての使い心地が鉛筆でもマウスでもない。鉛筆のように手癖が出る訳ではないし、マウスのつたない感じとも少し違う。完全にアナログの再現ではない「少しデジタル」というこの機器で描く線をスタディの過程で活かせるのではないかと思いました。鉛筆だと具体的すぎるし、マウスだと思ったとおりの線を描きにくい。手の動きをダイレクトになぞった線がアナログ的な味わいを残したままデータ化されるという点で、このペンタブレットは優れていると感じました。なにより画面に映し出されたCAD図面上に手を置いて、ペンで書きこんだ線がそのままデータ化される点が魅力的でした。もちろん道具としてマウスにはマウスの良さが、鉛筆には鉛筆の良さがあります。ですから今後もこれらの道具の棲み分けが残り、作業によってそれぞれを使い分けるという中で、ペンタブレットが建築デザインの世界で徐々に広がっていくではないでしょうか。

他にも例えばメールでディテールのイメージを伝える時など、直接CADに描くと硬すぎ、出力して手描きにすると逆に柔らかすぎると感じるケースが設計の仕事の中には多々あります。そういう場面での活用を含めて、このペンタブレットはさまざまな活用方法がありそうだと感じましたね。



西沢立衛氏

西沢氏:「フリーハンドで描ける」ペンタブレットの操作性の魅力を確認

「想像力をかき立てる機器」への進化を期待

――ペンタブレットを触られたご感想はいかがですか?

 

西沢 この機器を最初に触ったときに感じたのは「これは年賀状に良いな」ということです(笑)。「手描きにもかかわらず簡単に大量複製が出来る」という点がおもしろいですね。またこれで描いたデータを出力すると印刷の網点やプリンターのトナーによって、手描きであるものの、ある均質性をもった表現になります。それは鉛筆やペンにはない新しさだと感じました。

 

――ペンタブレットを仕事の中で活かせると感じられましたか?

 

西沢 プロジェクトを進める際に、所員が作業した図面などを僕がチェックするのですが、例えば「メールで届いたものを出力して、それに指示を描いて、スキャンして送る」という方法に比べると、ペンタブレットを使用するのはシンプルだと思います。ただ現状ではVectorworks(ベクターワークス)やRhinoceros(ライノセラス)などの生データに直接指示を描くというよりは、一度データをPhotoshopやPDFに変換した上で指示を描き込むかたちなので、このあたりの現状はまだ過渡期で、将来的にはさらに進化するのだろうと期待しています。だから僕としてはペンタブレットという道具がこの先どのような方向に進化するのかという部分に興味がありますね。「フリーハンドで描ける」というこの機器の長所が将来的にどのようなかたちで設計に活かせるのか。これが興味のあるところです。

 

――道具としての使い心地の部分ではどのように感じられましたか?

 

西沢 実はそこも僕が「この機器が今後どのように進化するのか」と期待しているところです。このペンタブレットという機器にも、もう少し「新しい快楽」のようなものが備わるのではないかと。例えばiPhoneが世に出たときに皆が驚いたのは「画面が揺れる」という新しい体感でした。表面にガラスという、冷たくておよそ人間的と思えない素材を採用しているが、使ってみると人間的な感覚が出てくる。動かしてみると「新しい快楽」がある。iPhoneの新しさというのは、便利で快適だということに加えて、そういう新しい感覚と快楽にあったと思います。エジソンが発明した白熱電球もそうです。不安定なろうそくの光しかなかった時代に、いつでもどこでも均一な明るさを得られるという革新は、「これは夜でも勉強できる」とか「医学の発展に役立つ」とか、当時のさまざまな人の想像力をかき立てたと思います。このように時代を変えた機器には人間が自然と受け入れたくなるような喜びを伴う新しい感覚があったと思います。だから今後、このペンタブレットという機器がより進化していく中でそういうものを備えると、より自由な世界が広がっていくような気がします。


西沢立衛建築設計事務所

http://ryuenishizawa.com/

西沢立衛(Ryue,Nishizawa)

建築家。横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA教授。

1966年 東京都生まれ。
1990年 横浜国立大学大学院修士課程修了、妹島和世建築設計事務所入所。
1995年 妹島和世と共にSANAA 設立。
1997年 西沢立衛建築設計事務所設立。
<主な受賞>
日本建築学会賞、村野藤吾賞、藝術文化勲章オフィシエ、ベルリン芸術賞*
プリツカー賞*。
<主な作品>
ディオール表参道*、金沢21世紀美術館*、森山邸、House A、ニューミュージアム*
十和田市現代美術館、ROLEXラーニングセンター*、豊島美術館
軽井沢千住博美術館、ルーヴル・ランス* 等。
(*はSANAAとして妹島和世との共同設計及び受賞)

尾野克矩(Katsunori,Ono)

1983年 大阪府生まれ。
2006年 京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業
2008年 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科(博士前期課程)建築 設計学専攻修了
2008年~ 西沢立衛建築設計事務所


【お問合せ先】 株式会社ワコム
URL:http://tablet.wacom.co.jp/biz-design/inquiry/index.html