第21回 A.提案部門最優秀者インタビュー

「既成概念としてもっていた外側にある建築のおもしろさについて」

(平川慧亮さん)

今年で22回目を迎える日本電気硝子の「空間デザイン・コンペティション」。昨年、本コンペの提案部門で最優秀賞を受賞された平川慧亮さん(当時:北九州市立大学大学院/現在:東畑建築事務所)に、本コンペの魅力と応募作品ついてお伺いしました。

平川慧亮さん

-- 昨年の「空間デザイン・コンペティション」(以下、空間デザインコンペ)に応募されたきっかけをお聞かせください。

平川:大学院の修士2年だった昨年は、自分の中で積極的にコンペに挑戦し続けようと思っていました。中でもこの「空間デザインコンペ」は、建築に欠かせない素材であるガラスをテーマにしたコンペですのでとても興味があり、以前にも何回か出していました。それで昨年はその集大成として是非挑戦したいと思っていたのです。
私自身、今年の4月から設計事務所で働いていますが、会社の同僚や先輩と話をしても、知らない人がいないくらい注目度が高いコンペですね。

第21回 A.提案部門最優秀賞
作品名:透明な水脈
平川慧亮(北九州市立大学大学院)

--「ガラス質を曖昧に組み立てる」という昨年のテーマは難しかったのではないでしょうか?

平川:私自身、学生時代の課題ではよく「曖昧な」という言葉を使って提案していましたが、そういう場合「何を曖昧にしているかが曖昧」で、やんわりとぼかしていたところもあります(笑)。だから逆に課題として「曖昧」という言葉を投げかけられたとき、作品にしっかりと「何を曖昧にしたのか」ということを落とし込まないといけないと感じました。
また昨年の要項に隈研吾先生が「ガラスは建築の境界を規定するもの」という趣旨を書かれていたのですが、確かにガラスは内外を繋げる壁であることには違いないのですが、その「壁」をどう崩すのかが隈先生から与えられた課題なのかなと思い、それに応えられる作品を考えました。

-- その「曖昧」という部分をどう解いたのかを含め、平川さんの案について解説をお願いします。

平川:最初に考えたのは、近年問題になっているゲリラ豪雨など、大雨がもたらす被害に関することです。こうした災害の一因は土地の保水力が低下していて、降水スピードに対応できない土地になりつつあることです。この問題についてガラスを使って緩和できないかと考えました。
そしてもうひとつ考えたことが「雨に対するイメージ」です。「雨が降ると憂鬱……」というように、現代において雨に対する印象はあまり良くありません。でも例えば雨音など、雨というのは良い空間で感じると、とても心地の良いものです。そのように雨を楽しめる空間が現代では少なくなっているのではないかという思いがありました。
これらふたつの問題について、ガラスを使って解決したいと考えたのが私の案です。
氷のような多角形体のガラスブロックを構造体として積層し、その隙間を水が落ちていきます。豪雨の際には、ここを水がゆっくりと落ちていくことで、その場の保水力が上がります。単体として提案したものですが、もしこれがたくさん普及すれば、その場所の保水力はかなり向上するでしょうし、またゆっくりと流れ落ちる水の景を見に行こうとする人も出てくるかもしれません。そういう新しい自然との関わり方や人のコミュニティができたら良いなと思いました。このあたりを「曖昧」に解いたという案です。
「ガラス質を曖昧に組み立てる」という与えられたテーマはもちろんあったのですが、それとは別に自分のテーマとして「雨」や「水」というものを設定していました。このふたつを融合できたことが良い評価に繋がったのかなと思います。
22回目となる今年のテーマは「あたたかいガラスの家」ということで、昨年同様今回も抽象的なテーマですね。こうしたテーマでは現実感をもちつつ、かつ完全には現実的にならず、如何に飛躍できるかが問われるのではないかと個人的には思っています。

-- 受賞後についてお聞かせください。

平川:受賞の電話を受けたとき、私は研究室で一人だったのですが、廊下に走り出て大喜びしました(笑)。まさか取れるとは思っていませんでしたので……
受賞して良かったと思うのは、「こういう提案もアリなんだ」という認識や表現の幅を同級生や後輩と共有できたことですね。「これも建築なんだ」と。私たちが既成概念としてもっていた外側にある建築のおもしろさについて、友人たちと考えるきっかけになったのが良かったと思います。
4月に入社した会社にもコンペを多く取っていらっしゃる先輩がいて、そういう方と話をする機会があります。私自身、実務の経験はこれからですが、世代は違ってもコンペが好きな方というのはアイデアレベルの話でも経験値を抜きにしたところで共感いただけるので、このコンペにチャレンジして本当に良かったと思います。
会社でも「新鮮な考え方で仕事に取り組んでくれ」と言われていますので、実際の建築でもチャンスがあればどんどん面白い挑戦ができればと思っています。

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