CRITICISM―審査講評

審査委員長

西沢 立衛建築家 横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA教授

  • 西沢 立衛
  • 今回はコロナ禍の中にあって、非対面型の二次審査となった。しかしその困難にも関わらず、多くの力作が集まった。応募者の皆さんはこの半年のあいだ、十分な勉学の場を確保するためにずいぶん苦労されたと思うが、そのパワーが本コンペにも乗り移ってきたような気もする。二次審査に残った4作品はどれも僅差であったが、最終的には「鶏舎とスキマの境界群」が一等賞となった。地球と私たちの暮らしとのつながりとは?それはどんな風景か?というテーマに対して、鶏との共生はストレートであった。作者の考えには多少の問題があることが二次審査では感じられたが、そこは無視して案自体の逆噴射的爆発力に対して票を投じた。この案と一等賞を争ったのは「水回りの廻りから」で、建築全体が空中に浮くことの荒唐無稽なアイデアが様々な可能性を切り開いたが、それよりも郵送されてきた模型のたいへんな頑丈さにタフさを感じ、共感した。「互恵」は地下と地上にまたがる住まいの提案で魅力があったが、観念的というのだろうか、まさか自分がそこに住むとは夢にも考えていない図式性がマイナスとなった。「105角の森」は繊細でシャープなところが魅力だったが、もう少し強い建築を目指してほしい。

審査委員

今井 公太郎東京大学生産技術研究所教授

  • 今井 公太郎
  • 第7回を迎えた、POLUSコンペは、特別なものになりました。コロナ禍という特殊な環境の中、逆境の中でも応募案が大変多く、本当に感謝しております。コロナにめげず大きな模型を何とか作って、最終プレゼンまで進まれた学生さんのエネルギーから元気を頂きました。

    今回のテーマは「地球」につながる新しい風景の街の探求でした。根本的な課題で難しかったと思いますが、学生の皆さんの若い創造力によって、バラエティに富んだ案が集まりました。その中で、地面を愚直に掘削してみる案が多く、とても印象に残りましたが、コンセプトとして納得しやすかったのは最優秀案の「ニワトリ」でした。古くから民家や集落では、鶏をはじめ、ヤギや羊、豚などの家畜は人間と共に生活していました。そうした生命の力はその場所だけに収まるものではなく、五感と周辺環境に大きな影響を与えます。匂いなど勿論ネガティブな効果もあるかもしれませんが、それに勝る横につながろうとする強い力、現代の私たちの生活が忘れてしまった環境が明確に切り出されていました。今回のテーマにはふさわしい解答であったと思います。優秀案の「水」の経路への着目も大変興味深く、「穴」というキーワードもインパクトがありました。地球との連続感とそこから誘導される独自の建築的空間があるような予感がありました。が、それがプレゼンで明確化されなかったところが勝敗を分けたと思います。

    皆さんにはコロナ禍の不安の中でよく頑張って頂いたと思います。しかも、見た目のデザインの良さだけに囚われない、内容のある力強い提案がいくつもあったと思います。ここで提案されたコンセプトが将来的にはさらに発展して、皆さんの手で、実際のプロジェクトに育ってくれることを希望したいと思います。志の高い提案を次回も期待しております。

原田 真宏

  • 原田 真宏
  • 「地球につながる新しい風景の街」というテーマでしたが、「社会につながる」ではないところが面白いと思っていました。「社会」であれば、人間が決めた制度との関係が問われる訳なので、まぁ、人意の内側について考えれば良い。しかし、「地球」と言ってしまうと人意の外側と向き合わなければならなくなって、その「思うがままにならないところ」との付き合い方に新しい知恵やセンスが出てくるのだろうと期待していました。

    大賞となった「鶏舎とスキマの境界群」は、この思うがままにならない自然というものと、人間社会を媒介する存在として、ニワトリという家畜を持ってきたところが上手かった。家畜は動物ですが、半分は社会的な存在です。自然と社会を結びつける存在としてはちょうどいい。早朝に絶叫する雄鶏や、屋根の上で卵を生んでしまう雌鳥、匂いの問題もあるでしょう。こういった様々な困った出来事との折り合いをつけることで、人は自然との新たな接続を得るでしょうし、それを介した人同士のコミュニティーはかなり愉快なんじゃないかと想像します。できうれば、敷地内の話に閉じずに、周辺地域にまでこの生き生きとした関係が波及するストーリーが描ければなお良かった。この提案に限りませんが、地球につながるをテーマとしたアイディアは敷地境界内のファンタジーで終わっては勿体ないし、終わらせないところにこそ、今回の提案の本当の価値があるように思うのです。

中川 エリカ

  • 中川 エリカ
  • 昨年に引き続き、審査員をつとめさせて頂いた。
    第7回は「地球につながる新しい風景の街」というテーマに誘導されてか、土もしくは水・雨と関係する提案が多く、印象的だった。
    最優秀賞「鶏舎とスキマの境界群」は、鶏の家と人間の家を混ぜ合わせていこうとする意欲作で、1次審査2次審査とも、常に審査員の想像を掻き立てた。鶏舎の扱いが少し局所的であることが気になったが、構想自体の大きさ、着眼点のオリジナリティが見事だった。優秀賞「水回りの廻りから」は、2次審査の模型がすばらしく、1次審査よりもはるかに空間のパワーを伝えることに成功していた。作家が話す言葉や当初の意図以上に模型が雄弁に語っている状態をどう評価すべきか、審査員の中で多少評価が分かれたが、個人的には、建築の現れとして最も魅力的な案だと感じた。入選「互恵~地球を耕す暮らし~」は、基礎を主題とする案が多く見られた中、つくり方だけでなく、場の質にも言及した力作でだった。同じく入選の「105角の森」は、2次審査の模型の、モノの組み立てを詳細に考えて表現する解像度が、設計のブラッシュアップにもつながっていて好感を持った。

野村 壮一郎

  • 野村 壮一郎
  • 社内審査委員という立場で本コンペの審査に臨むにあたり意識したのは「住みたい空間であるか」と「商品になるか」という、日頃の業務に直結するシンプルな自己基準でした。そのような観点からみても最終審査に残った4作品はいずれもカラフルなアイデアで満ちていて大変魅力的でした。しかし、上へ上へと建築を伸ばす提案が多い中で下に潜る「互恵~地球を耕す暮らし~」には土地の形質の変化や造成に対する解釈、無機質な角型建物の分散配置である「105角の森」には樹木との詳細な相関やランドスケープ、水回りの配管(穴)をデザインの中心に据えた「水回りの廻りから」には雨水利用のバリエーション等、それぞれの提案にはまだ伸びしろがあるように感じました。それらと比較し「鶏舎とスキマの境界群」は自らの愛着ある暮らしをベースにした提案である点に説得力がありました。それでも優劣の差というよりはライフスタイルのイメージの違いが賞の種類の違いとなったという印象です。いずれの提案も質の高いものだったと思います。

    最後に、コロナ禍で自粛やリモート講義を強いられ、厳しい学生生活を送らざるを得ない中、意欲的に応募して頂いた全ての学生さんたちに感謝申し上げます。このコンペはPOLUSにとっても研鑽の場となっています。また次回への応募をお待ちしています。

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