Criticism / 審査講評

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審査委員長

青木 淳 青木淳建築計画事務所

問われていたのは、課題文にもあるように、現代だからこその「道からはじまる生活、道からはじまる家」というものはありえるのだろうか、またあるとすればどのように?ということだった。この難しい問題に対して486件もの応募があったこと、またその多くが高い質をもった提案であったことはうれしい驚きだった。ありがとう。

なかでも公開審査に残った5案は、それぞれ別の側面からの応え方をしていて、公開審査は刺激的だった。

最優秀賞を獲得した『道的エネルギーの現像―揺らぎうる境界風景―』は、道そのもののナイーブな復活を幻想として一蹴し、むしろ住まいのなかにかろうじて残存する「道的」エネルギーを、住まいの外に広げていく結果生まれるものこそが新たな「道」と呼ばれるものになるのではないか、という検討に値する応え方をしている。それを現在の通念としての戸建住宅やアパートを原型としてその要素(単語)を使いながらも、その組み立て(文法)を変えることでどこまで住まいをほどくことができるか、というような具体的な方法をもって思考実験したすぐれた提案であった。

優秀賞の『コドモしか入れないフォリーのある街』は、現在の通念となっている家族単位を子供の生によって撹乱し、住宅地全体をかつての「道」的な世界に変容させるという処方箋で、その過激さを応募者がどこまで自覚していたかはともかくとして、ポレミックな視点を与えることに成功した。

入選の『雨の日コミュニティ〜人々をつなぐ“雨のみち”』は、そのノスタルジックな雰囲気が損をしたが、いわば通り庭とでも呼べる空間を接続し、そこを天候によって公私が切り替わる両義的な空間とする可能性を探ろうとしている点を評価した。

同じく入選の『窓辺群像』は、家を外に開こうとするときによく提案されるアイデアであり、その既視感はやはりマイナスに働いたが、通り抜けられる大通りと袋小路とを個性的なバランスで配置したその感覚には注目させられた。

同じく入選の『握手する生活』は、公開審査でのプレゼンテーションが、一次審査用パネルで説明されていることと同じで、よりつっこんだ思考を感じることができなかったのが残念だったが、コーナーの断片が離散的にかつ均質に広がる環境は、繊細なレイアウトを行えば、なんらかの「溶け合い」を誘発する様々な対向する断片の関係のバリエーションを生み出すことができること、くくり方の変化による流動性が可能であることなど、多くの展開を想像させるものであった。



審査委員

今井 公太郎 東京大学 生産技術研究所教授

第五回を迎え、ますます応募案のレベルは向上し、新たなリアリティを伴った提案がさらに増えてきました。

今回のテーマは、「道からはじまる、これからの家」という、審査委員長の青木淳さんが長年取組まれてきた大変興味深い内容でした。道の空間を媒介にして建築が外部へと開きながら自らがより豊かになる可能性を探る挑戦的なテーマです。

一等案が目を引いたのは、 現実的な街の論理、つまり複数の建築的秩序が道の空間を媒介にして勝ち負けなく共存するリアリティをうまく提案の内容に含めていた点です。日常的な建築のコードを繊細にずらしながら、 戦略的にグループで別々に設計し同時に緩い制約条件を与えることによって、共通性と差異性が共存する創造的な設計環境を生み出しました。そうした手法の巧妙さが他の案を凌駕していました。

他の入選案も、立体的な道のネットワーク、収納が一体化した構造システム、道に開いた新しい平面システム、雨のネットワークがつくる風景など、いずれも、システマチックかつ応用可能性がありそうな多面的なアプローチの提案が見られ優劣つけがたかったのですが、結局は、現実のモノのレベルに迫る力のある、リアリティの伴った提案を意識的に行ったグループが一等に選ばれたと思います。

極めてレベルの高い提案が揃うようになった本コンペが、将来、実現化プロジェクトと統合されて、一等案が実現されるようになることがこのアイディアコンペの最終的なゴールなのではないかと思い始めております。今後のさらなる発展を期待しています。



審査委員

原田 真宏 芝浦工業大学 建築学部建築学科

同じ「移動空間」とはいっても、一人の建築家の意図によって演出されたシークエンスを経験させてくれる「通路」と、それぞれまったく異なる人々が作り生活する建物が立ち並び、それらの前面に表出される個性的な領域の重なり合いを貫通していくという「道」とでは、まったくその経験の質は異なっているものだ。「道」を歩く楽しさとは、意図的な「計画」を超えた(もしくは「計画」の存在を意識させない)、意図されない出来事と遭遇してしまうところにあるのだろう。

そう考えると「道」をテーマとした時、意図の外の経験を「計画」によって実現することが求められるのだから、この根本的な矛盾に引き裂かれることになるし、その解決こそがデザインの主題となってくる。

一等となった「道的エネルギーの現像―揺らぎ得る境界風景―」は、ここに見事に答える提案だった。数軒の家々の境界が解体され、道へと物理的に開くことで強い表出と多様な関係性をひき起こすという戦略は正しいが、ここまでは優等生のレベルにとどまる。面白いのは解体の単位の設定にある。「アパートの外部廊下は大抵軽量鉄骨でできている」と言うように、「記号的意味」が保存される程度の大柄な単位に解体を留め、それらのコラージュによって世界を構成しているのである。かつてのポストモダンのコラージュ要素となる記号は「外来」のものであったのに対し、彼らが選ぶ「アパートの外部階段」や「現場養生の金属板」という記号は私たちの日常生活に地続きだ。その実感を伴った記号群によって私たちの広大で深い文化的空間を計画へと接続・導入することで、一人の意図や計画を超えた、まさに「道」らしい環境が獲得されたのである。

「建築」というそもそも計画的な存在に、「道」という非計画性を掛け合わせるというワクワクするスリルを皆で共有できたことは生産的だった。このコンペをキッカケに議論を続けて欲しいと思います。



審査委員

永山 祐子 永山祐子建築設計

約400点の応募作品に目を通している時にはこの中から選びきるのはなかなか難儀だと感じていたけれど、2次で他の審査員の先生方と議論を重ね作品を選定し、最終のプレゼンテーションを聞くと、なるほどこの作品がここまで残っているのは納得だな、と感心した。

私の審査は今年で2回目。ポラスの審査は最終審査で大きく期待を超えたものが出てくる印象がある。紙1枚ではなかなか表現しづらかったであろう真髄が、丁寧に作られた模型、短く簡潔なプレゼンテーションで見えてくる。そう考えるともしかしたらこの中に残らなった案にも私たち審査員が拾いきれなかった物凄い案があったかもしれないとも思う。

その中、今回最優秀案であった「道的エネルギーの現像」は1次2次の紙1枚の段階ではなかなか理解が難しい部分も多々あったが、なんだか気になる存在だった。そして最終プレゼンテーションを聞いた時に彼らの思いがとてもよく伝わってきた。道的エネルギーを使って従来の「家」を軽やかにほどいていく仕草は時代性を感じた。彼らをはじめ、今回の最終審査で見えた各々の真摯に取り組む姿に、これから未来の街を作っていく若い世代に大いなる希望を感じた。



POLUS社内審査委員

安藤 欣司

「道からはじまる、これからの家」というテーマに対して、現在の街や家にはほとんどなくなってしまったご近所の方との付き合い方を建築を学んでいる学生がどう考えているのか興味深く見させていただき、また、建築家の先生方がどのような視点でそのテーマを考えているのか興味深く聞かせていただきながら一緒に審査をさせて頂きました。

2次審査に残った作品はそれぞれが異なる視点から考えられており、模型やプレゼンもすばらしく甲乙つけ難い作品でした。その中でも票が入った作品は全体に色々と思案が巡らされており、そこに住んだらどう付き合いが始まるのだろう。ここの繋がり方や形はこういう可能性もあるな。などといったワクワク感が膨らむクオリティが高い作品で、このテーマについて色々と考えさせられることがありました。

最後に当社のコンペに提出して頂いた学生の皆様、ありがとうございました。