審査委員長

青木 淳青木淳建築計画事務所

POLUS主催の初めてのデザインコンペティションに、458件という多くの案が寄せられました。テーマは「自立型の共生」、それを可能にする次世代の木造住宅のあり方を問うたものでしたが、実現可能性の程度において、またテーマの解釈において、様々な提案があったことは、大きな収穫だったと思います。ただし、そのため一次審査は難航しました。またさらに、二次公開審査に進んだ5組においてもその多様性は大きく、どの提案も最優秀賞の可能性が十分にありました。最終的な結果は、提案の優劣もさることながら、むしろ審査員側の価値判断を示しているのかもしれません。

最優秀賞の「じじばばシェアハウス」は、「サービス付き高齢者向け住宅」を町に開き、町と共生する生活体として「自立」させる試みです。そのために、敷地内に通り抜け路を設け、何軒かの住宅で共有される内庭の提案など、細部までしっかりと具体的にイメージされた提案であったことが評価されました。公開審査において、ここでどのような町の子供たちと老人たちとの関係が生まれるのか、という質問に対して、迷うことなく『夏の庭』(湯本香樹実)を挙げ、抽象的な思考から生まれた案ではないことを示せたのも良かったと思います。

優秀案の「屋根裏の知恵」は、既存の町並みを見ていて、その屋根を回転させ、それらを空間的に繋いだらどうなるだろう?という、夢想と言ってもよいような発想から展開された提案でした。繋がれ、何軒かの住宅で共通される屋根裏には、各住宅でもう読まなくなった本が置かれ、それら本を通して人々が繋がるという物語が、説得力をもって魅力的に表現されていました。道路空間のパブリックの上に、住戸というプライベートがあり、さらにその上に屋根裏というコモンが載る、という構成にも可能性が感じられました。

入選案の「式年遷住—集落土場での暮らし」は、北海道に貯木場であった鉄道駅が点在していることを踏まえ、木材の利用サイクルと住環境サイクルとのシンクロを提案するものでした。これは、かつての日本の住環境において、木材が構造材として使われた後に、建具として、また家具として再利用される、そんな木材のライフサイクルがあり、そのことが、大工、建具屋、指物師などの職を成立させていた、という事実を改めて思い出させてくれました。ある意味、本質的な次元で、「自立型の共生」に応えてくれた提案だったかもしれません。

入選案の「小さな住処と大きな広がりの家」は、個人単位の「小さな住処」を基本単位とし、それに「大きな広がりの家」をかぶせることによって、何軒かを内包する枠組みにまとめることを提案しました。「大きな広がりの家」は、室内外を分つものではなく、複数の「小さな住処」をまとめる、いわば形式もしくは殻のようなもの。同形態の「大きな広がりの家」が規則正しく並んでも、その共生のあり方=家族には多様性が生まれうるという感覚が新鮮でした。

入選案の「滲呼吸する家」は、4人のための最小限生活空間をつくる箱を設定し、その4人それぞれが、もっとノビノビとした生活を得るためには、自分のプライベートな空間を「開き」、他の住人、あるいは町の人たちと繋がらなくてはならなくなる、という物語を提案していました。これは、人々が自分の生活に充足してしまったために、他人との共有を切ってしまう、という価値観を、批評的に、また上手に提示することに成功しました。

審査委員

今井 公太郎東京大学 生産技術研究所教授

最終審査に残った5案は458 案から選ばれたというだけに、いずれも提案パネルに表現力があり、どれが最優秀案になっても不思議はなかったと思います。

結局、公開審査を通じて、どこまで深く思考できていたかが明らかになり、順位が決まりました。

他の抽象的なアイディアコンペとは異なり、木造の住宅、しかも実現を見据えて、という条件により、アクチュアルなイメージを伴って、対象に深く迫れたかどうかが問われたのではないでしょうか。

その提案によって、街にもたらされた新しい風景に共感 できるのかどうかが、「自立型の共生」というテーマに求められた重要なポイントであることに審査の過程で気づかされ、とても勉強になりました。

提案のいくつかが実際に風景として立ち上がる可能性について、提案された学生とPOLUSグループで検討が進んでいると聞いています。画期的な挑戦だと思います。

今後もこのすばらしいコンペが回数を重ねていってほしいと心から願います。

赤松 佳珠子CAt/法政大学准教授

今回が第1回目となるポラスコンペのテーマは「自立型の共生」。

全ての提案書を前にした時、この示唆に富んだテーマに対し皆さんが真剣に取り組んだエネルギーを感じました。

この中から5案を選ぶのは至難の業でしたが、残らなかった中にも、素晴らしい可能性を秘めた案が多くありました。

最優秀賞『じじばばハウス』はプレゼンテーションで直接話を聞くことによって作者の強い思いが審査員に届いた好例でした。

優秀賞『屋根裏の知恵』は屋根裏を、本を介した共有の場としてとらえるという抜群の発想力でとても楽しい案でした。

『式年遷住』は地域の問題を含め非常に深いテーマに取り組んだ案としてさらに発展できる可能性を持っていると思います。

『滲呼吸する家』は可動家具のシステムによって空間を可変させるダイナミックな案で多様な空間の在り方は魅力的でした。

『小さな住処と大きな広がりの家』は等身大のリアリティを持ち街へ展開する力を秘めているように思います。

応募案の多様性は今の学生達が考える住み方のイメージが多様であることの現れであり、それぞれが描いた思いが、未来へとつながるきっかけとなることを願っています。

前田 圭介UID

「自立型の共生」というテーマはとらえどころがなく極めて難しかったのではないだろうか。

審査するにあたり学生たちがどのような案を応募してくるのか少し不安に思っていた。

しかし1次審査で蓋を開けてみると、それはまったくの杞憂であった。

実に400を超える応募案が様々な視点でこのテーマに向き合っていたからである。

その中から選出されたファイナルの5案は各々が現在の社会が抱えている問題を真摯に向き合っているように思えた。

また、公開2次審査ではリアリティや思考の深度などが質疑応答と討議の中であぶり出されていくところが興味深かった。

「じじばばシェアハウス」が僅差で最優秀に選出されたのは作者自身のこのテーマに対する思いの強さが他案のプレゼ ンテーションよりも表われていたからであろう。

現代を生きるわれわれにとって「自立型の共生」と向き合うことは重要であり、応募された皆さんの今後の思考に期待したい。

菅原 庸光株式会社ポラス 暮し科学研究所 所長

第一回目のコンペとしては、予想を超える応募があり、ポラスの一員として大変感謝しています。

落選作品の中にも甲乙つけがたい、とても素晴らしい作品が多く含まれていました。

当初は、とても難しい課題だと感じていたのですが、その解釈にも作品の出来上がりにも、レベルの高い作品が多くて、とても感心しました。

本当は、作品ごとに製作者に説明を聞けたらと、少し残念に思っています。

最終審査の5作品はどれも素晴らしい内容でしたが、最優秀賞の『じじばばシェアハウス』は、製作者の情熱ある受けごたえも審査員の心を捉えました。

また、優秀賞の『屋根裏の知恵』は、本を横軸にした共生の提案が新鮮でした。

これからの時代を開いていくのは、既成概念に捉われない、若い人たちの斬新なアィディアや、チャレンジする姿だと思います。

これからも、問題意識と情熱と夢を忘れずに、是非、来年以降も、このコンペにチャレンジしていただきたいと思います。

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