CRITICISM―審査講評

審査委員長

西沢 立衛審査委員長

  • 西沢 立衛
  • 今年はたいへん多くの応募案が集まり、さまざまな案が競い合って、審査は簡単ではなかった。その激戦の中で最優秀賞に選ばれたのは「こもり知らずの扉」で、方丈のユニットが連続し、繋がったり分かれたりする、群的建築の提案であった。空間の変化と家族の大きさの変化が有機的・動的で、その形のなさは課題である「脱家族の家」に鋭く応えるものであった。的確なスケール感覚とディテールがあり、ひとつも諦めることなく全体をまとめあげた作者の努力の大きさを感じた。

    優秀賞の「壁で編む縁」は、壁が領域を作りまた領域を乗り越え、立体的な新領域を作り出すというもので、私としては最優秀賞に次いで推した。屋根も考えてくれたら、さらに飛躍したのではないだろうか。優秀賞「「個」のつどい」は、異形平面の木造住宅がランダムに集合する案で、バラバラな個の表現に鋭さを感じた。他方でその集合には、新しい風景と感じられるものがなかった。

    入選「倉庫の家」は、大倉庫にいろんな人が住むという案で、そのおおらかさとアイデアの大胆さに魅力があったが、大倉庫空間の中に普通の集合住宅を建ててしまったのは残念だった。入選「「家族を編む」境界を滲ませる子供のスケール」は、子供を家の中心に持ってくるところに提案性があったが、建築は普通であった。

審査委員

今井 公太郎審査委員

  • 今井 公太郎
  • 今年のテーマ「脱家族の家」は、血縁を超えて、人がどのように集まり、住まうことができるかを問う挑戦的な課題でした。登録1266件、応募822点はいずれも過去最多。最終審査に残った提案はどれも力強く、審査は甲乙つけ難い僅差となりました。

    最優秀となった「こもり知らずの扉」は、大きな建具が可動間仕切りのように働く、一見すると凡庸にも見える提案です。しかし、建具の開閉によって空間の「余白」を生み、他者が関わるきっかけへと変えていく点に独自性がありました。単純な仕組みを繰り返すことで、住戸全体の関係が拡張し、転換していく様子が、模型と図面を通して説得力をもって示されていました。着想そのものの新しさ以上に、身近な建築要素の可能性を空間として最後まで突き詰め、具体的な暮らしの姿まで描き切った点を高く評価しました。

    優秀となった「『個』のつどい」は、家族構成員の増減という現実の変化を出発点に、住まいの形がそれにどう応答し、更新されていくかを考えた提案です。変化を一時的な例外ではなく、住まいに内在するものとして捉え、個人の居場所と集まって暮らすことの関係を問い直した点に説得力がありました。

    同じく優秀となった「壁で編む縁」は、完結しない不完全な壁を連鎖させることで、内と外、個と共同の境界が緩やかに編み直されていく空間を提示しました。壁を単に空間を分けるものとしてではなく、人や場所の関係を生み出すものとして捉え、その可能性を丁寧に展開した点を評価しました。

    入選となった「倉庫の家」は、大空間の中に住まいを入れ子状に納める、明快で魅力的な提案でした。大空間と入れ子という構成が生み出す暮らしには、こうした住まい方を体験してみたいと思わせる力がありました。

    同じく入選の「家族を編む」は、子どもの存在を媒介に境界をにじませ、血縁を超えた関係が育つ場を構想した提案です。人と人との距離や関わり方を建築によって穏やかに変えていく可能性を示し、こうした住まいが現実にあってほしいと思わせる力がありました。

    いずれも新たな住空間を探究する普遍的なテーマを扱っており、着想そのものに大きな優劣はありませんでした。差を分けたのは、その先の空間化です。空間の質が伝わる模型をつくり込み、着想が生み出す可能性をどこまで探究できたか。説明の整合性以上に、建築として空間そのものへどれだけのエネルギーを注いだかが、最終的な評価を左右したと思います。

    登録数が四桁に達したことは、ポラス学生・建築デザインコンペティションが、規模と水準を着実に高めてきた証です。次回も、着想を最後まで手放さず、空間として形にしきった提案に出会えることを期待しています。

審査委員

原田 真宏審査委員

  • 原田 真宏
  • このコンペ史上、最大の応募者数だったと聞きました。

    そのこともあってか全体的にレベルも高く、特に最終プレゼンテーションはどの案が最優秀となってもおかしくない拮抗した状況にあったように思います。そんな中で優劣を決したのは、レベルの高さ(到達度)というよりも、その作者の加速度〜自分のレベルを超えていこうとする運動性〜にあったように感じています。そのスリルを伴う意思の力はプレゼンテーションでの言葉や振る舞いはもちろん、作品性にこそ籠っていたのでしょう。私たちはそこに惹かれていたようです。

    先に述べたコンペ応募者数の急伸は、建築だけでなく、文学やアートを含めた他の分野にも及んでいるそうです。それはAI活用の一般化が要因とされていますが、AIが益々普及して行いく中、いわゆるレベルの高さはこれまでのような特別さを失います。問われるのはレベルを超えていこうとする意志力のようなところ、なのかも知れません。それこそ人間だけに成しうるものなのでしょうから。

    そんなことにまでも思いが巡る、有意義なコンペティションでした。

    来年はさらにどのように進化するのか。大変楽しみです。

審査委員

中川 エリカ審査委員

  • 中川 エリカ
  • 「脱家族の家」というテーマで募集した今年は、例年にも増して多くの参加登録と応募を頂いたという。近年、ますます間取りは画一化し、省エネ性能を含めて数字が前面化する傾向が強い中、家というあり方に対して、若い世代の皆さんが挑戦したいと思ってくれたのであれば、とても嬉しいことである。多くの応募作品による激戦を勝ち抜いた方々との2次審査では、持ち込まれる模型も例年以上に迫力があり、議論も白熱した。

    最優秀賞の「こもり知らずの扉」は、生活者の自由と家をつくるという秩序が相補的な関係を持つ、印象深い力作であった。建具を用いた提案は例年も多く見られるが、平屋ではなく立体化したこと、また、立体化したことによりむしろ生活の自由度が増したことが勝因だったように思う。

    最優秀賞を競った「「個」の集い」「壁で編む縁」は、いずれも甲乙付け難い力作であり、結果、優秀賞は急遽1点から2点に変更された。

    「「個」の集い」は、1階と比べて2階の風景がやや一様に見えたこと、敷地のサイズに対してやや密度が高いことが気になったが、細部にまで設計者のアイデアが行き渡っておりとても感心した。「壁で編む縁」は、一次審査の時はアイデア止まりになっていないか少し不安を感じたが、2次審査ではそれを完全に払拭する、伸びやかな領域の重なりが表現された。その重なりにより、想像を超えた使い方がどう生まれるのか、見る側にも創造を促すような喚起力があった。

審査委員

野村 壮一郎POLUS社内審査委員

  • 今井 公太郎
  • 今年度は「脱家族」をテーマに掲げ、これからの多様なライフスタイルに建築がどう応えるかという極めて現代的な問いが投げかけられました。過去最多となった応募作には、色とりどりで多様な提案が溢れており、一次審査の段階から全体のレベルの高さが際立つ年度となりました。

    そのような中で最優秀賞に輝いた【こもり知らずの扉】は、建具の開閉によって空間を可変させる、拡張性豊かな住宅群の提案でした。これまで「建具の操作」を主軸とした提案は、一次審査で落とされてしまうことが多くありました。しかし本提案は、用いる建具を「開き戸」のみに絞り込むことで、建具同士の精緻な関係、半屋外から屋内への滑らかなグラデーション、さらには奥の住戸へのアプローチに至るまで、極めて繊細かつ緻密に計画されていました。特に、平面的になりがちだった従来の建具系の提案とは一線を画し、平断面が立体的に連動する設計が秀逸でした。3次元的な意匠性や構造面の検討も優れており、公開審査で披露された模型のリアリティと臨場感は、他を圧倒していました。全体のレベルの高さゆえに、今回初めて優秀賞を2点選出することとなりましたが、【こもり知らずの扉】の最優秀賞選定については、満場一致の文句なしの結果であったと言えます。

    また例年通り、実物件化の可能性を探る「RI賞」や、3年生以下を対象とした「UJ賞」などの枠組みも用意されています。第一線で活躍する建築家の方々の生の声に触れられる、大変貴重な機会です。次回も多くの学生の皆様からの、意欲的な挑戦を心よりお待ちしております。

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