最終更新 2020/03/31 19:00
シンガポールと言えば、世界的な観光地としてつとに知られた都市だが、それにも増してわれら建築フリークにとっては、先端的現代建築の巡礼地となっている。周知のように「マリーナベイ・サンズ」の完成以後、急速にその傾向が進み、マリーナ湾界隈は雨後の竹の子のような勢いで斬新な建築がニョキニョキと立ち始めている。その最新バージョンとも言えるのが、ここに紹介するOMA出身のオーレ・シェーレン設計の「DUOツィン・タワーズ」だ。
国土が広くないシンガポールでは、当然の如く超高層ビルが林立している。「DUOツィン・タワーズ」もその例に漏れず、「DUOレジデンス」と呼ばれる49階建て192.8mの集合住宅タワー(660戸)と、「DUOタワー」と呼ばれる39階建て185.35mのオフィス・タワーから成っている。後者にはオフィス、小売店舗、ホテルが入っており、総延床面積は166,300㎡に及ぶ。
このプロジェクトは“都市の調和”を志向した計画である。かつてはシンガポールにおける全く異なるエリアを、今回融合するコンセプトがベースになっている。「DUO ツィン・タワーズ」は周辺コンテクストと、24時間アクセス可能なパブリック・プラザ周囲に配された多数の機能群を統合し、シンガポールの繁栄し続けるダイナミック・ライフに新しいアーバン・ネクサス(都市中核地域)の形成を目指したものだ。
ふたつの彫刻的なタワーのファサードは大胆なカーブを描き、足元に1連の円形アーバン・スペースを創造している。それらのファサードは繊細なハニカム・パターンをもつ日除けシステムで覆われている。スレンダーなタワー形態はパブリック・スペースを取り囲み、他方その結果生まれた幾何学的デザインが周辺既存建築へのコネクションを考慮して、オープン・エアと屋根付き双方のガーデン、通路、カフェ、レストランを生み出している。
「DUO」は、個々のもしくは自己参照的な建築として機能するよりもむしろ、シンガポールのアーバン・ファブリックへの微妙な挿入プロジェクトであり、それは既存の建物群を空間インテグレーションにより結びつけ、さらに首尾一貫した全体的な都市景観を確立している。つまり「DUO」は都市における建築の責任を意識したものなのだ。それは、さもないとバラバラで断片化したアーバン・コンテクストの中で、建築がいかにして調和のツールとなり得るかを示したものである。
この双塔の建物は、マレーシアとシンガポールという東南アジアの両政府の歴史的なコラボレーションを表現したものである。両政府のジョイントベンチャーとなった「DUO」は、この重要な二元性を表現している。「DUO」はふたつのアーバン建築のダイナミックな関係を明確にし、また建物はそれ自身を超えて、より大きな都市コンテクストへのポジティブなインパクトを持ち、シンボリックな効果を発揮している。
シンガポールのチャンギ空港から都心に向かってのメイン・ルート沿いにあり、歴史的なカンポン・グラム地区と活気のあるコマーシャルなブギス・ジャンクションの間にある「DUO」は、生活、仕事、パブリック・ガーデン付きの店舗、文化施設、多種のアーバン・コンテクストを統合している。
ここにはゲート化されたコミュニティはないし、またプライベートな空間もない。その代わりに24時間アクセス可能なパブリック領域があり、それが周辺都市のほとんど全ての方向にコネクトしているのだ。そこでのランドスケープは高度にオーガニックであり、万全の通過性を備えている。その流動的な幾何学により、だれもが敷地のあらゆる方向へ通って行くことができる。
さてカーブしたファサード全面に展開されたハニカム・パターンは、周辺の蜂の巣的なアクティビティにヒントを与えているのみならず、また建物の環境戦略における機能的なエレメントとして役立っている。ハニカムは連続する6角形サン・シェードからなり、シンガポールのガーデン群、海、スカイラインへの眺望を遮ることなく、建物を太陽熱や眩しさから守っている。
ハニカムはファサードの曲面を表現し、また同時に環境ツールともなっている。パッシブ環境デザインの戦略的展開は、この開発のサステイナブル・クオリティを非常に高めている。「DUO」は都市環境やそのパブリック領域に対し、環境的にも社会的にも責任をもったプロジェクトといえる。
長い間連載してきました「世界の建築は今」は、今回のNo.174をもって終了することになりました。昨今の経済、コロナウイルスの状況を鑑みた結果であります。長きに渡るご購読ありがとうございました。いつの日か、世界の建築情報を再度インバウンドできる環境を創りたいと思っております。
淵上正幸(建築ジャーナリスト)
(Portrait by Buro Ole Scheeren ©Buro-OS)
・Photos by Iwan Baan ©Buro-OS
・Drawings and Diagrams by Buro Ole Scheeren
・All the photos and information: Courtesy of Buro Ole Scheeren
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