世界の建築は今 No.168

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2019/09/30 11:15

Al Janoub Stadium (Al Wakra, Qatar)

アル・ジャノブ・スタジアム(カタール、アル・ワクラ)

Design : Zaha Hadid / Zaha Hadid Architects + AECOM
設計:ザハ・ハディド/ザハ・ハディド・アーキテクツ+AECOM


地元の木造帆船を参照したカタール2022FIFAワールドカップ会場

2019年5月に完成した「アル・ジャノブ・スタジアム」は、カタールにおける2022年のFIFAワールドカップに備えての初のスタジアムとして発注されたものだ。ザハ・ハディド・アーキテクツ(ZHA)はAECOMと共に、2013年よりスタジアムとその周辺開発のデザインを続けてきた。カタール・ワールドカップの会場のひとつとしての「スタジアム」は、ドーハの南20kmのアル・ワクラ市に位置しており、新しいドーハ・メトロ・システムであるレッド・ラインで首都ドーハに繋がっている。

「アル・ジャノブ・スタジアム」は、ワールドカップ用に40,000席を保持しているが、試合によっては従来の20,000席に減らすことができる。20,000席はカタール・スターズ・ナショナル・リーグにおける、アル・ワクラ・スポーツ・クラブ・プロ・フットボールチームのホーム・グラウンドとしては、通常最適なキャパシティである。このような仮設席は取り外し&移設可能にデザインされており、発展途上国におけるサッカー試合以外の利用というスポーツ・インフラストラクチャーの必要性にマッチしている。さらにワールドカップ時には売店が必要となるが、これはスタジアム外部に仮設の施設で対応し、20,000席の常設モードの時は内部に仮設ショップ等をつくる。

スタジアムはシュライヒ・ベルガーマン・パートナー社のデザインによる可動ルーフを持ち、カタールの暑い夏期にも試合ができるよう観覧席空間の冷房システムを備えている。操作可能な屋根は折り込まれたPTFEファブリックとケーブルによるクラッディングを装備。屋根を広げて観覧席上部の開口部を覆うと、夏期用のシェルター化されたサッカー環境が生まれる。コンピュータ・モデリングと風洞実験によるパッシブ・デザイン理論を用いて、プレイヤーと観客の満足度を確保するスポーツ環境が生まれている。

アル・ワクラ市が海浜都市であるというコンテクストから、スタジアム・デザインは地元の海に関する伝統や歴史を反映したもので、特に同地の伝統的な船である“ダウ”(アラビア半島沿岸からインド洋にかけ、アラビア人が古くから使っている木造帆船)を参照したものが要求された。

スタジアムの屋根は“ダウ”の船体を上下逆さまにし、多数集合させた抽象形態として日陰とシェルターを提供している。これは“ダウ”の船体のインテリア構造を反映したルーフ・ビーム構造をはじめ、スタジアムの形態幾何学、ディテール、選別された材料に表現されている。

スタジアムのファサードは外方向に向けて傾斜しており、立面ではテーパーしている。それは“ダウ”の帆のプリーツを想起させる。“ダウ”のイメージは、さらに大きくオーバーハングしたスタジアムの庇によって強調されている。ここには“ダウ“に使用される木構造に似たストリップ状のメタル・クラッディングが使用されている。

スタジアムのオパーク色の屋根と壁はプリーツの断面形として表現されている。アラブのモチーフとカリグラフィーに起源をもつこの特徴は、外部のシェルにテクスチャーを付与し、スタジアム自身のユニークな幾何学性を強調している。屋根とオーバーハングした庇の下側外壁には、装飾的なラティス・スクリーン・プリントが施されたガラス・カーテンウォールとし、内部への日射を遮っている。このラティス・スクリーン・プリントはブロンズ・メタリック仕上げとなっており、イスラムの伝統と芸術に敬意を表している。

「アル・ジャノブ・スタジアム」はアル・ワクラ市の都市拡大地域の中心部に位置し、スタジアムのイベントがない日は、スタジアム内とその周辺におけるコミュニティ・ベースの市民活動を活発化させている。スタジアムは2022年のカタールFIFAワールドカップでは忘れがたき会場となるだろうし、その後はアル・ワクラ・コミュニティの中心地として君臨するだろう。


[図 面]

 

[建築家]

Zaha Hadid / Zaha Hadid Architects
ザハ・ハディド/ザハ・ハディド・アーキテクツ

(Photo by Brigitte Lacombe)

https://www.zaha-hadid.com/

 

・Photos 1~7 by Hufton + Crow
・Photos 8~10 by Luke Hayes
・Drawings by Zaha Hadid Architects
・Photos and Materials: Courtesy of Zaha Hadid Architects