世界の建築は今 No.161

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2019/03/04 14:00

Institute for Contemporary Art at VCU (Virginia, USA)

ヴァージニア・コモンウェルス大学現代アート・センター (アメリカ、ヴァージニア)

Design : Steven Holl
設計:スティーヴン・ホール


大学と都市をつなぐ造形的アーバン・オブジェ

アメリカのヴァージニア州と聞くと、建築好きの人は第3代大統領トーマス・ジェファーソンが設計した「ヴァージニア大学」と「モンティチェロ(彼の自邸)」を想起するだろう。世界遺産となったこれらの建築は同州の西側にあるシャーロッツビルにあるが、「ヴァージニア・コモンウェルス大学」はそれより南東側に位置するリッチモンドにある。

建物の南東側を走るベルビデール通り側のファサードは、二つの台形状のマッスのうちひとつが垂直に立ち上がり、他は横臥して鋭角的に上昇したものが互いに寄り添っている。この超ジオメトリックなファサードが醸すアーバン・オブジェのような造形性が、周辺環境に刺激を与えて魅力的だ。

メイン・エントランスはパフォーマンス・スペースとフォーラムが交差する空間にあり、交差空間のX-Y軸的動きに垂直的なZ軸的コンポーネントを加えている。これらの交差空間の絡み合いに、垂直的な“現在の平面”によって、“フォーキング・タイム”におけるギャラリー群が追加されている。

スティーヴン・ホールは4つあるギャラリーを“フォーキング(フォークのように枝分かれする)・タイム“という概念のなかに設定した。このアイディアは、現代アートにおいては多くの”パラレル・タイム“が存在することを示唆している。ひとつの進行する時間という考えや、哲学者レオタールがいう歴史の“グランド・ナラティブ(大きな物語)”は疑問視されているからだ。

新しい「現代アート・センター」は、それぞれ異なる性格をもつ4つのギャラリーで構成されている。フレキシビリティが4つの別個の展示に与えられており、ギャラリーはインスタレーションのために、他のギャラリーへのサーキュレーションを妨げることなく自由にクローズできる。

ビジターは4つのギャラリー巡りを、エレベータで最上階へ上がり、そこから旋回しながら下り各ギャラリーを見学するのと、1階のフォーラムのギャラリーから上昇しながら見学することもできる。ギャラリーのRCビームやコンクリート・プレートは、コンクリート・フロアと一体となって見事なハーモニーを奏でている。フレキシブルなスペースとして、ギャラリーはサスペンション・アートやフロア・スラブ固定型のアートも展示も可能だ。

“現在の平面”に沿った垂直的な見学ツアーで、ギャラリー群をはじめ、1階のパフォーマンス・スペース、彫刻ガーデン、フォーラムや、1階から3階までに展開するギャラリー群をリンクして見学することができる。このコルビュジエ風の建築散歩により、イングレートされた建物すべての建築エレメント群を移動する視点で体験できる。

延床面積約3,800㎡の建物はダブル・フロントをもち、街側に向けてひとつのエントランスを擁し、もうひとつはフォーラムにつながる彫刻ガーデンに開き、都市とキャンパスに開かれた2面性を有している。地上階にはギャラリー1と同様、彫刻ガーデンに面したカフェがある。ピボット・ドアにより、ギャラリー・オープニング時のイベントなどもガーデンに開放することができる。

「建築は、内外部空間に関する時間的な体験行動である」とスティーヴン・ホールはいう。西側大学側から近づくと、「現代アート・センター」は変化していくパースペクティブの視界の中に展開する。逆にベルビデール通りからアクセスすると、ふたつのヴァーティカル・ジオメトリック・マッスが、エントランスの存在を知らしめる。

車でファサード前を通り過ぎると、ふたつのマッスの形態が変化していくのが楽しめる。夜間ぼんやりと明るいガラス壁面が、エクステリア壁面を活性化する。さらにヴィデオ・プロジェクションが薄明るいガラス壁面に投影され、アート作品を擁した外部スペースを活気に満ちた空間へと変容させる。

「現代アート・センター」は、リッチモンドの最も交通量の多いブロード通りとベルビデール通りの交差点に位置し、大学を周辺コミュニティへとリンクしている。建物は開放性のあるデザインにより、人々を招き入れるゲートウェイともなっている。


[図 面]

 

[建築家]


Portrait: ©Steven Holl Architects

■スティーヴン・ホール略歴
1947年 ワシントン州ブレマートン生まれ。
1970年 ワシントン大学建築学科を卒業、ローマで建築を学ぶ。
1976年 ロンドンのAAスクールに学ぶ。
ニューヨークに事務所設立。
1981年 コロンビア大学で教鞭をとる。
1993年 「ヘルシンキ現代美術館」国際コンペ最優秀賞
1997年 AIA宗教建築賞、AIAニューヨーク支部名誉メダル、アーノルド・ブルンナー賞、第38回BCS賞
1998年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル、アルヴァ・アアルト賞、クライスラー・デザイン・イノヴェーション賞
2000年 アメリカ文芸アカデミー会員
2001年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル、AIAシアトル支部デザイン賞
2007年 AIAニューヨーク支部名誉賞
2009年 国際建築賞
2010年 RIBA国際賞、ジェンクス賞
2011年 AIAゴールドメダル
2014年 秩父宮殿下記念世界文化賞

■代表作にストアフロント・ギャラリー、ネクサス集合住宅、セント・イグナチウス・チャペル、ヘルシンキ現代美術館、クランブルック科学研究所、サルファティストラート・オフィス、ロイジュウム・ビジター・センター、サイモンズ・ホール、ネルソン・アトキンズ美術館、プラット・インスティテュート・ヒギンス・ホール増築、へリング現代美術館、多孔的スライスド・ブロック、クヌート・ハムスン・センター、リンクト・ハイブリッド、ヴァンケ・センター、海と波のミュージアム、ナンジン・シファン・アート・ミュージアム、Tスペース、成都ラッフルズ・シティ、グラスゴー美術学校セオナ・リード・ビル、アイオワ大学、マギーズ・センター・バーツ、ヴァージニア・コモンウェルス大学現代アート・センターなど多数。

Photos and Material: Courtesy of Steven Holl Architects