最終更新 2019/01/07 10:30
フランスのノルマンディー地方というと、つい第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を思い出してしまうが、ここには有名なモンサン・ミッシェル、カーン、ル・アーブルなど、日本でもよく知られた街がある。また日本でも有名なリンゴ酒、カルバドスはこの地方の特産品である。
「アレクシ・ド・トクヴィル図書館」は、ノルマンディー地方のカーン市にできたマルチメディア図書館である。地下1階地上3階建て延床面積12,700㎡の建物は、カーン市中心部の運河に囲まれた島に位置している。同市の歴史地区と現在開発中の地区との間というキー・ポジションにあるため、「アレクシ・ド・トクヴィル図書館」を新しい市民センターにしたいという市の期待を背負った図書館なのである。
図書館はガラス・ファサードとなっているため、隣接する公園、歩行者通路、ウォーターフロント・プラザを、視覚的にインテリア空間へと呼び込み、建物の両サイドそれぞれにある2つの大きな1階エントランスと共に、建物と周辺環境とのインタラクション(相互作用)を可能にしている。上階にあるアーバン・ベルヴェデーレ(見晴し台)からは、周囲4方向に向けて遮る物のない眺望を満喫できる。
建物の十字形にクロスしたフォルムは、カーン市のアーバン・コンテクストに対応している。すなわち十字形における4つの突出部分は、北方向にあるカーン女子修道院と西方向にあるカーン男子修道院という歴史街区を指し、他方南方向では中央駅と東方向では新興開発エリアを指し示している。
同時に2つの軸が交差する幾何学は、図書館のプログラム・ロジックによって決められている。4つの空間はそれぞれ教育的訓練をする使命を帯びており、それぞれには人間科学、科学+技術、文学、美術の4つの分野が配されている。これら4つの分野は相互に最大の交流を促進するために、2階中央の大きな読書室で融合している。このメインとなるライブラリー・スペースは、交差部分の中央部に切り開かれており、建物のデザインが、混み合う空間や空虚なヴォイド空間とならないよう限定されている。
人々が出会い、知識や情報を共有する市民センターとして、パブリック・スペースは図書館デザインの中核にある。1階のエントランス・レベルには巨大なオープン・スペースがあり、そこにはプレス・キオスクがあり、150席のオーディトリアム、展示スペース、ウオーターフロントに面した外部テラスをもつレストランなどへのアクセス・ポイントがある。
2階には多種の活動や読書のための空間があり、120,000点に及ぶ資料が収容されている。資料には実際の書籍の他にデジタル・ブックがあり、それらが同じ書棚に並置されている。書籍のコレクションをデジタル化して拡張し、それが書棚にインテグレイトされているのは、この図書館の新しいマルチメディア的特性を顕著に表現したデザインだ。
最上階は子供のためのスペースがあるほか、オフィスや管理部門が配されている。貴重なアーカイブや歴史コレクション等は、安全かつドライな地下に収納されている。ここはイノベティブな防水メンブレインをコンクリート壁の内側に貼って保存物を保護している。
OMAがデザインした図書館で圧倒的に知名度が高いのは「シアトル中央図書館」だ。幾何学的なスティール・フレームに全面ガラス張りの巨体が、シアトル・ダウンタウンの傾斜地に建っている。巨大なロビー空間や回遊式の垂直動線などは面白いが、「アレクシ・ド・トクヴィル図書館」は敷地環境にもよるが、外部へのワイドな視界や明るい内部空間という点では軍配があがるようだ。なおアレクシ・ド・トクヴィルは、ノルマンディー地方コタンタン出身のフランスが誇る政治家・歴史家・知識人である。
Portrait by Synectics
1944年 | オランダ、ロッテルダム生まれ |
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1965-72年 | ロンドンのAAスクール在籍 |
1972-73年 | コーネル大学で建築を学ぶ |
1975年 | ロンドンにOMA設立 |
1978年 | 『錯乱のニューヨーク』発行 |
1992年 | 日本建築学会賞 |
1995年 | 『S, M, L, XL 』発行 |
2000年 | プリツカー賞 |
2003年 | 世界文化賞 |
2004年 | RIBAゴールドメダル |
2010年 | ヴェニス・ビエンナーレ金獅子賞 |
現在、OMAおよびAMOを主宰・統括。 |
■OMAの主な作品に、オランダ・ダンス・シアター、ネクサスワールド・レム・コールハース棟、ヴィラ・ダラヴァ、クンストハル、コングレクスポ、エデュカトリアム、ボルドーの家、在ベルリン・オランダ大使館、IITマコーミック・トリビューン・キャンパス・センター、ソウル大学校美術館、プラダ・ニューヨーク・エピセンター、プラダ・ロサンゼルス・エピセンター、シアトル中央図書館、カーサ・ダ・ムジカ、イウム・サムスン美術館新館、サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン、中国中央電視台本部ビル(CCTV)、コーネル大学ミルスタイン・ホール、ロスチャイルド銀行、マギーズ・ガートナベル、コーチ表参道フラグシップ・ストア、ガレージ・ゴーリキー・パーク、深圳証券取引所、インターレース集合住宅、デ・ロッテルダム、プラダ財団キャンパス、デンマーク建築センター、アレクシ・ド・トクヴィル図書館、ノラ・トールネンなど多数。
Photos by Philippe Ruault and by Delfino Sisto Legnani & Marco Cappelletti/ Courtesy of OMA
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