最終更新 2018/12/03 17:00
ドイツの建築家、クリストフ・インゲンホーフェンといえば、現代世界建築界で並びなきサステイナブル・デザインの領袖のひとりだ。彼のデザインの真髄は、資源をエコロジカルかつエコノミカルに対応して利用する建築デザインにある。彼はLEED(米国環境性能評価システム)、Swiss Minergy Standard(スイス省エネ基準)、BREEAM(イギリス建築件駆除建築物性能評価制度)、DGNB(ドイツ・サステイナブル建築協議会)という、世界の名だたるサステイナブル・デザイン賞を受けた作品を生み出している。
彼の新作「マリーナ・ワン」は高密度都市シンガポールのダウンタウンに完成した巨大な集合住宅+オフィス・コンプレックスだ。世界のメガ・シティにおける職住近接という都市型のライフスタイルが可能なロール・モデルとして生まれた。特に熱帯地域で移民や観光旅行者などによって人口が爆発的に増え続け,容赦ない気候変動に晒されるアーバン・エリアにとっては、高度にイノベイティブで救世主的な建築といえる。
「マリーナ・ワン」は4棟からなる高密度ビルディング・コンプレックスで、高さ200mの2棟がオフィス・タワーで、高さ139mの2棟が集合住宅タワーという、総延床面積400,000㎡を超える超ビッグ・スケール。配置的には集合住宅タワー2棟が前面に立ち、背後にオフィス・タワー2棟が控えている。住民とオフィス・ワーカーを合わせると、20,000人がいる一大都市といえる。
また両者の間には”グリーン・ハート(緑の心)”と呼ばれる大きな中庭が配されているのが最大の特徴だ。この中庭は並みのそれではなく3次元的なグリーン・オアシスのランドスケープ・デザインが施され、数階建てのパブリック・スペースとなっているのだ。アジアの棚田に想を得た37,000㎡にもおよぶ中庭には、350種類の草木が700本も植え込まれている。
さらにかなりの熱帯動物をも生息させた話題のバイオダイバーシティ(生物多様性)が盛り込まれた熱帯雨林が再現されている。これはオフィス・ワーカーや住人にとって、自然への密着度が非常に高い魅力的なミクロコスモスといえる。
“グリーン・ハート”は、「マリーナ・ワン」のコミュニティにとっては素晴らしいオアシスであることは言を待たないが、実はそのデザインも圧巻の素晴らしさなのだ。熱帯雨林の中を通路がうねり、徐々に上昇する。またオフィス棟と集合住宅棟のテラスの庇が通路と同じ色と幅のため、建物上部から見下ろすと、オーガニックな曲線が渦を巻いて上昇してくる視覚的効果が驚異的な面白さなのだ。
レストランをはじめ、カフェ、店舗、フィットネス・クラブ、プール、スーパーマーケット、フード・コート、イベント・エリアなどが、種々のオープン・テラスに配されており、住人やオフィス・ワーカーにサービスを提供するのみならず、ソーシャルなインターラクション(相互作用)の場も提供している。
集合住宅棟は34階建ての集合住宅タワー2棟で、延床面積約114,000㎡というこれもビッグ・スケール。1~5ベッドルーム・タイプが1,042戸もあり、3,000人が住むという巨大なアーバン・コミュニテイを形成している。
今日世界の人口の50%が都市に住んでおり、今後2050年頃までには70%の人が都市に住むという。その頃の世界人口は90億人とも100億人とも言われている。さあこれだけの人口を世界の都市は受け入れられるのか。これだけの人口の都市集中は、超高層集合住宅なくしては不可能だ。「マリーナ・ワン」は、人類の未来に対するひとつの素晴らしい回答を提示している。
Portrait: ©Jim Rakete
1960年 | ドイツ、デュッセルドルフ生まれ |
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1978―1984年 | アーヘン工科&大学デュッセルドルフ美術アカデミー |
1985年 | インゲンホーフェン・アーキテクツ開設 |
LEED(米)、 Swiss Minergy Standard(スイス), BREEAM(英), DGNB(独)など、各国の著名サステイナブル・デザイン賞を受賞。 |
■主な作品:フランクフルト・ルフトハンザ航空センター、ルクセンブルグ・ヨーロッパ投資銀行、ダニエル・スワロフスキー社チューリヒ本社、ランセルホフ・ヘルス・リゾート、エッセンRWE高層ビル、シュトゥットゥガルト中央駅、シドニー・ブライ1ビル、ブリーゼ・タワー(大阪)、マリーナ・ワン、虎ノ門ヒルズ(現在進行中)など。
Photos: ©ingenhoven architects / HGEsch, ©ingenhoven architects / Darren Soh
Photos & Material Courtesy of ingenhoven architects
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