最終更新 2018/02/27 17:00
アブダビの沖合500mにあるサーディヤット島といえば、かつて10数年前、オイルマネーによる経済発展の機運に乗って多くのプロジェクトが計画された。中でも耳目を集めたのは海浜地区に計画されたカルチュラル・エリアだ。当時世界の建築家の中で、スーパースター建築家4名のプロジェクトが決定された。ザハ・ハディドが「アブダビ舞台芸術センター」、ジャン・ヌーヴェルが「ルーヴル・アブダビ」、安藤忠雄が「アブダビ海洋博物館」、フランク・ゲーリーが「アブダビ・グッゲンハイム美術館」をデザインする壮大かつ豪華なプロジェクトがスタートした。
しかし諸般の事情があり、2017年トップを飾ったのはジャン・ヌーヴェル設計の「ルーヴル・アブダビ」の完成であった。1,000億円を超えるビッグ・プロジェクトとはいえ、高さを控えた建物は4作品のなかでは一番低く目立たない。沖合から見ると、輝くメタリック・ルーフが漣がたつペルシャ湾のきらめく海と一体化する。
建物は直径が180mもある低いドームが、水際に展開する白亜のパビリオン群を覆っている。暑い太陽にきらめくメタリック・フィニッシュの巨大なグレーのドームが、ペルシャ湾の海上に浮遊している印象だ。白い建築群の間を縫って水路が曲がりくねって走っている。ジャン・ヌーヴェルは、それらを大きなパラソルに覆われた人工のアーキペラゴ(群島)に例えている。
ヌーヴェルは伝統的なアラブの村落にインスパイアーされて、これらの白いパビリオンを創りだした。群立する55棟のホワイト・パビリオンのうち23棟がギャラリーとなっており、全体は“ミュージアム・シティ”と呼ばれている。パビリオンの白い外壁は、トータルで3,900枚ものグラスファイバー強化コンクリート・パネルで覆われている。
スティール製の巨大ドームは8層からなり、外側のフレーム4層はステンレス・スティール張りで、内側のフレーム4層はアルミニウム張りとなっている。各層のフレーム・パターンは同じで、その基本ユニット・パターンは長さ約13mの星形の構造体で7,850個が使用されている。8層のフレームはずれて配置されているため、見上げると非常に錯綜した骨組みに見える。また屋根面がなく構造的な骨組みだけのため、日光や空気はストレートに入ってくる。雨が降らない地域なので、こうした建築も可能である。
この複雑なジオメトリック・パターンは、ヌーヴェル事務所と構造家ビューロハッポルド事務所が協力して考案したものだが、太陽の移動に伴って構造体の隙間の穴から日光が内部に落ちてくる。ヌーヴェルはこうした太陽光の内部への照射を“光の雨”と呼び、その魅力ある光学的効果を追求してきた。ほどよいまだらな光が白いパビリオンの外壁や床に群れて素晴らしい。
巨大ドームは白いパビリオン群の上部に浮いているように見えるが、実は4箇所で支持されている。ヌーヴェルはそうした浮遊感を出すために、支柱の数をわずか4箇所に抑え、かつそれらが見えないようにパビリオンの内部から天井を通して支持する手の込んだ方法を採用。4箇所はそれぞれ110mも離れるというまさに離れ業!ドームは床から外部の頂部まで36m、内部の天井面下端まで29mの高さがある。
常に建築の限界に挑戦すると言われるジャン・ヌーヴェル。その圧倒的な強度をもつ巨大ドームは中近東に多いナツメヤシの葉からヒントを得たという。オープンなドーム内部には涼しい風がそよぎ、野鳥が飛来し、昆虫が飛び回る。「私たちは建物をつくるのではなく、界隈をつくりたかったのです」とは、長年ヌーヴェルと協働してきた女性建築家、ハラ・ワルデ氏の言葉である。
Portrait: ジャン・ヌーヴェル
©Gaston Bergeret
Portrait: ハラ・ワルデ
©HW architecture
1945年8月12日 | フランス、フュメル生まれ |
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1967-70年 | クロード・パランとポール・ヴィリリオの助手 |
1970年 | 事務所設立 |
1972年 | エコール・デ・ボザール卒業 |
1983年 | 芸術文化功労賞、フランス建築アカデミー銀メダル |
1987年 | フランス建築グランプリ、アガ・カーン賞、エケール・ダルジャン賞 |
1991年 | フランス建築研究所副所長 |
1993年 | AIA名誉会員 |
1995年 | RIBA名誉会員 |
1998年 | フランス建築アカデミー・ゴールドメダル |
2000年 | ヴェニス・ビエンナーレ金獅子賞 |
2001年 | RIBAゴールドメダル、高松宮殿下記念世界文化賞 |
2002年 | レジョン・ドヌール勲章ナイト |
2006年 | アーノルド・ブルンナー記念建築賞 |
2008年 | プリツカー賞 |
2010年 | レジョン・ドヌール勲章オフィサー |
2011年 | ヨーロッパ・ホテル・デザイン賞 |
2014年 | 世界高層ビル・ベスト賞 |
主な代表作:ネモージュス集合住宅、アラブ世界研究所、リヨン・オペラハウス改修、カルティエ財団、ギャラリー・ラファイエット、ホテル・サン・ジェイムズ、ルツェルン文化会議センター、ザ・ホテル、電通本社ビル、ガスリー・シアター、レイナ・ソフィア・アート・センター増築、アグバール・タワー、ケ・ブランリー美術館、マーサー40集合住宅、コペンハーゲン・シンフォニー・ホール、ニューヨーク53番街集合住宅、ソフィテル・ウィーン、ワン・ニュー・チェンジ、ワン・セントラル・パーク、シャールロワ警察本部、フィルハーモニー・ド・パリ、ルーヴル・アブダビなど。
All the materials & photos: Courtesy of Atelier Jean Nouvel & Louvre Abu Dhabi
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