最終更新 2017/10/03 11:00
フランスの「ラスコー洞窟絵画」といえば、スペインの「アルタミラ洞窟絵画」と同様、中学か高校の頃に習った記憶がある。共に今や世界遺産となった先史時代の貴重なアート・ヘリティッジだ。1940年に発見された「ラスコー」は、フランス西南部ドルドーニュ県にあるヴェゼール渓谷のモンティニャック村にある。後期旧石器時代のクロマニヨン人によって描かれた動物や人間の絵500点以上が、20000年前に地下深く長く枝別れた洞窟に描かれていた。
ところが一般開放していた「ラスコー」は、人間が吐く二酸化炭素による損傷がひどく、1963年から見学は禁止された。その代わりにオリジナルの洞窟の近くに、見学用のレプリカの洞窟「ラスコー2」が1983年につくられた。また遠隔地での展示が可能な「ラスコー3」もつくられており、さらに新たなレプリカ洞窟「ラスコー4」が国際コンペで計画され、ノルウェーの設計事務所スノヘッタが1等になった。
新しい「ラスコー4洞窟美術館」の53,000㎡の敷地は、鬱蒼と繁った丘と、農耕地であるヴェゼール渓谷というふたつのユニークなランドスケープの接続部分にある。スノヘッタのデザイン・コンセプトは、ランドスケープに対して美術館を細い切り込みとしてはめ込み、ビジターを先史時代の興味深い世界へと誘い込んでいる。
ビジターの体験コースは途切れないようなシークェンスが組まれている。最初はロビーからエレベーターで屋階にあるベルヴェデーレ(見晴台)に出る。そこからはモンティニャック村とヴェゼール渓谷のパノラミックな景色を楽しむ。そこから緩やかなスロープを下りレプリカ洞窟へと至る。ランドスケープの中を曲折し、徐々に地上へと回帰して行くツアーは、1940年に洞窟を発見した人たちと同様の体験をクリエートし、時空を超えた精神的転移を楽しめる。
レプリカの洞窟内の雰囲気は、本物の洞窟内と同じような湿度を再現し、暗く湿っぽくしている。音を殺し、温度は16℃くらいに抑えている。このシークェンスは瞑想的であり、ビジターはかつて存在した聖域を体験する。照明は旧石器時代の動物の脂肪を燃やしたチラつく灯火のように明滅し、洞窟壁面に描かれ刻まれた絵画を神秘的に表現している。
レプリカの洞窟は、最先端3Dレーザー・スキャニングと、オリジナルの洞窟形態を誤差1ミリ以内に複製するテクノロジーを投入して形成された。レプリカ洞窟は細心の手作業により、経験豊かな25名のアーティストが2年間をかけて、長さ900mの合成樹脂岩壁に再生した。最高度の精度を確保するために、アーティストは20000年前に先史時代の画家が使用したと同じ絵の具を使用した。
洞窟を出ると、ビジターは洞窟ガーデンとして知られる移動スペースに着く。ここはレプリカ洞窟内における強烈な感動的体験後に、ビジターの精神的状況を外部コンテクストに対しリ・アジャストする機会を与えてくれるのだ。空へとつながり、種々の植物が存在し、流れる水の音が、この瞬間を綾取る。
マルチな教育スペース間にあるオリエンテーション・ゾーンは、上部のトップライトからの自然光で満たされ、ビジターが展示と展示の間に心の切り替えをする静穏で瞑想的な空間であり、またビジターが集う社交的な出会いの場所ともなっている。
続く教育センターでは、ヴェゼール渓谷やケイブ・ペインティング(洞窟絵画)のリッチな歴史を教えるインタラクティブな展示を提供している。カッソン・マン社のインスタレーションは、先史時代のエキスパートや考古学者による最先端のリサーチからの発掘物を提供する最新の技術装置やインタラクティブなスクリーンを採用し、ディジタル学習体験により効果をあげている。
スノヘッタは元々ランドスケープ・デザインも手掛けるマルチな設計事務所で、かつてエジプトの「アレキサンドリア図書館」の国際コンペに優勝し、世界建築の桧舞台に躍り出た。今回も国際コンペで勝利したが、このようなランドスケープ・デザインも含むデザインは、彼らにとっては自家薬籠中のものだ。丘の中腹に低く長くはめ込まれた造形美抜群の8,300㎡の建築は、正に「建築はランドスケープと一体になってはじめて建築になる」を証明している。
シェティル・トールセン
クレイグ・ダイカース
1989年 | オスロにスノヘッタを設立 |
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2001年 | 新アレキサンドリア図書館コンペに優勝 |
2004年 | アガ・カーン建築賞 |
2006年 | シェティル・トールセンとクレイグ・ダイカースが主要パートナーになる |
2009年 | ミース・ファン・デル・ローエ賞 |
2011年 | 世界建築フェスティバル・ディスプレイ賞 |
2013年 | AIA(アメリカ建築家協会)図書館賞 |
2014年 | MIPIMベスト未来プロジェクト賞 |
2015年 | WAN2015サステイナブル建築賞 |
2017年 | 2017トロント・アーバン・デザイン賞 |
主な作品に、新アレキサンドリア図書館、リレハンメル美術館、在ベルリン・ノルウェー大使館、ライアソン大学学習センター、バージニア工科大学アートセンター、オスロ・オペラハウス、スタッド・シップ・トンネル、ジェームズB.ハントJr.図書館、サンフランシスコ近代美術館増築棟、ワールド・トレード・センター911記念館パビリオンなどがある。
Portraits: Courtesy of Snøhetta Architects
Photos and Material: Courtesy of Snøhetta Architects
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