最終更新 2017/07/03 11:30
”ヨーロッパの屋根”と言われるドイツのフランクフルト。その超高層ビル群にルーキーが登場した。ユーロ圏最大の経済大国と思われるドイツだが、今までにEUの重要機関の建物は、フランス、ベルギー、ルクセンブルグに限られてきた。コープ・ヒンメルブラウによる「ヨーロッパ中央銀行(ECB)」はその例外的な注目に値する作品である。
かつてECBは、1977年に完成したリチャード・ハイル設計の、高さ148m、延床面積78,000㎡の超高層「ユーロタワー」にメインのテナントとして入居していたが、手狭なためにスタッフたちはもう2つのスカイスクレーパーに分散配置されていた。そのためECBは新しく本部ビルを建てる計画をもっていた。
2005年に国際指名コンペが開催され、オーストリアのコープ・ヒンメルブラウが1等に入選し、本部ビル建設の幕は切って落とされた。途中2009年からはユーロ圏の債務危機という嵐が吹き荒れ、ユーロ圏諸国には多大な被害を与えたが、9年の歳月をかけて2014年に首尾よくシルバーに輝くスーパー・タワーが完成を見た。
フランクフルトの東側端部に建った高さ185mと165mのダブル・タワーは、コープ・ヒンメルブラウを率いるデコンストラクティヴィスト・アーキテクトのウルフD.プリックスにとっては初の超高層ビルだ。彼らのアヴァンギャルド性は世界的に知られているが、実は超高層ビルは手掛けたことはなく、どのようなデザインが生まれてくるかという期待感は世界に広がっていた
建物の足元にある既存の「グロスマーケットホール」を、会議センター、ビジター・センター、図書館、レストランを含むアーバン・ホワイエとして復活させ、そのために「グロスマーケットホール」を縦断する新しいプレス・センター・ビルを挿入しダブル・タワーに繋げている。その内容的、形態的、空間的特殊性から、ここでプレス・カンファレンスが開催され、ECBのエントランス・ビルとして機能している。
建物全体は184,000㎡の延床面積をもち、45階建てのノース・タワーと43階建てのサウス・タワーの間は巨大なアトリウム。そのアトリウム空間に浮く3つのプラットフォームで両棟を連結。異例ともいえる巨大なアトリウムと、可視化されたスティール・ストラクチャーにより、ECBはスカイスクレーパーの新タイポロジーといわれ、プリックスはこのガラス・アトリウムを”ヴァーティカル・シティ(垂直都市)”と呼んでいる。
建物形態は非常に複雑だ。というのはEU(欧州連合)のシンボルとしてのユニークかつアイコニックな建築が望まれたからだ。そこでプリックスはデザインに関し、’従来とは全く異なるジオメトリーを用いた。彼はモノリシックな直方体を垂直にハイパーボロイド(双曲線)・カットを施し、2棟のAとBに分け、Bの上下を反転させかつ切断面を外側にして、Aの垂直面にアトリウムを介して対峙させている。その結果多面的で複雑なタワーが生まれ、南東側からはパワフルかつマッシブな勇姿を、また西側からはスレンダーかつダイナミックなフォルムを楽しめる。
サステイナブル・デザインはコンペのキー・ファクターであった。雨水利用、熱回収、高断熱、太陽光遮断、自然採光、自然換気などを実施しつつ、アトリウムや「グロスマーケットホール」のオープン・ゾーンは、エアコンを使用してない。代わりにそのエリアは、内・外部空間のバッファー・ゾーンとして機能している。シールド・ハイブリッド・ファサードと呼ばれるオフィスの外壁は3層構成で、部屋ごとの垂直的なフルハイトのヴェンチレーション・エレメントにより、自然換気が実践されている。
フランクフルト東側のオーステンデ地区に屹立する「ヨーロッパ中央銀行」は、市内のいかなる重要地区からも認識され、「アルテ・オーパー」、ミュージアム・ウーファー、中央の超高層群などと対話を醸す。EN経済の繁栄を象徴するデコンストラヴィスティックな超高層ダブル・タワーは、フランクフルト第2のアーバン・センターとして牽引力を発揮し始めた。
©Clemens Fabry
1968年 | ウルフD.プリックスとヘルムート・シュヴィツィンスキーによって設立。 |
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1988年 | ロサンゼルス・オフィス開設。MoMAでフィリップ・ジョンソンのキュレーション“デコンストラクティヴィスト建築展”に参加。 |
1988年 | ウィーン市建築賞 |
1989, 1990, 1991年 | PA(プログレッシブ・アーキテクチュア)賞 |
1992年 | エーリヒ・シェリング建築賞 |
1992年 | ポンピドー・センターで個展「空を構築する」を開催 |
1999年 | ドイツ建築賞 |
2001年 | ヨーロッパ・スティール・デザイン賞 |
2005年 | アメリカ建築賞 |
2008年 | RIBAジェンクス賞 |
2011年 | デダロ・ミノッセ国際賞 |
2012年 | 釜山建築賞 |
2013年 | アーキタイザーA+賞 |
2014年 | 国際建築賞 |
2016年 | 2Aアジア建築賞 |
1942年 | オーストリア、ウィーン生まれ。ウィーン工科大学、AAスクール、南カリフォルニア建築大学で学ぶ |
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1968年 | ヘルムート・シュヴィツィンスキー、マイケル・ホルツァーと共にウィーンでコープ・ヒンメルブラウ設立 |
1984年 | AAスクール客員教授 |
1985-95年 | サイアーク准教授 |
1990年 | ハーヴァード大学客員教授 |
1993年 | ウィーン応用芸術大学教授 |
2003年 | ウィーン応用芸術大学建築学部長 |
2009年 | オーストリア芸術科学勲章 |
2015年 | AAスクールより名誉ディプロマ |
主な作品に、ライス・バー、レッド・エンジェル、バウマン・スタジオ、ISOホーディング社、ルーフトップ・リモデリング、ブティック・コノシャンテ、 フロニンゲン美術館、ヴァグラマーストラッセ集合住宅、UFAシネマ・センター、リーマイズ集合住宅、ガゾメーター、スイスEXPO‘02、ミュンヘン美術館、アクロン美術館、BMWヴェルト、パビリオン21ミニ・オペラ・スペース、ハイスクール#9、マルチン・ルーサー・キング教会、釜山シネマ・センター、大連国際会議センター、リヨン・コンフルエンス・ミュージアム、ヨーロッパ中央銀行など多数。
Photos: © Paul Raftery & © European Central Bank/Robert Metsch
Material: Courtesy of Coop Himmelblau
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