最終更新 2017/03/03 17:30
カナダのケベックといえば、フランス語を公用語としている州として知られている。カナダ2番目の大都市モントリオール(一番目はトロント)のある州としても有名だ。モントリオールには建築的にもモシェ・サフディの「アビタ67」や、バックミンスター・フラーの「モントリオール万国博アメリカ館」など、建築史上話題の作品があるところでもある。
「ピエール・ラソンド・パビリオン」は、「国立ケベック美術館」の第4番目のビルで、グラン・ダレ通りを介してケベック市を野心的だが密やかに取り込んでいる。さらに背後の公園を建物のルーフスケープに取り込むなど、OMAニューヨーク・ディレクターの重松象平氏は、都市や公園などの周辺都市環境との連繫に精緻なソリューションを見せている。
もともと都市と建築の巧みなアーバン・ソリューションはOMAの十八番ともいえる技だ。ここでは都市・アート・公園の3者をインテグレートさせるために、建物を縮小していく3つのヴォリュームにわけて積層化し、さらにそれらを都市方向に向けてセットバックさせてキャンティレバーとしてダイナミックなフォルムを創出。3つのヴォリュームは下部から企画展示、常設の近・現代コレクション、デザイン・ギャラリー&イヌイット・アートを収容している。
美術館はグラン・ダレ通りと公園に挟まれているが、さらに側面には歴史的なサン・ドミニック教会があり、その中庭を取り巻く回廊をフレーミングしている。つまりこの計画では、ケベック市、サン・ドミニック教会、シャン・ド・バタイユ公園という重要なアーバン・エレメントに対応するデザイン処理がポイントだった。
建築デザインのフォーカスとなるのは、天井高12.6mのグランド・ホールだ。都市に向けて20mも突き出たドラマティックなキャンティレバーの下にシェルター化されている。これはグラン・ダレ通りに対するインターフェイスであり、美術館のパブリック機能のためのアーバン・プラザであり、かつギャラリー群、中庭、オーディトリアムへのゲイトウェイとなっている。
キャンティレバーのストラクチャーはハイブリッド・スティール・トラス・システムで支持され、ギャラリー群を無柱空間としている。建物を覆う層状のファサードは構造的であると同時に、ソーラー的でありサーマル的である。見掛けは相反するように見えるが、自然光の必要性(ソーラー的)と、ケベックの厳しい冬期用の断熱インシュレーションの必要性(サーマル的)の双方を巧みに実現している。
高度な3重ガラスのファサードは、パターンがトラス・ストラクチャーに似ている2Dプリント・フリット、3Dエンボス・ガラス、および層状化したディフューザー・ガラスで構成されている。ギャラリーにおいては、インシュレートされた壁面が半透明ガラス・システムの背後に間隙をとって並置され、それが夜間公園の照明装置のように建物を輝かせている。
グランド・ホールはダブル・ハイトのガラス・カーテンウォールに取り巻かれているが、その巨大なガラス壁面を支持しているのは、奥行790mmで心々1600mm間隔で立つガラス方立てだ。透明なグランド・ホールと半透明なギャラリー部分のコントラストは、層状化した建物形態と長大なキャンティレバーのダイナミックな表現をさらに強化している。
静謐なギャラリー空間の佇まいを補うように、建物のエッジ部分などに沿って展開されるホワイエ、ラウンジ、ショップ、ブリッジ、ガーデンなどは、”アート&プロムナード”というハイブリッドな賑わいのある活動の場となっている。途中にあるモニュメンタルなスパイラル階段や、外壁に突出したガラス張り階段室からの眺望が、公園をはじめ、都市、美術館の他の部分へと来館者を再度結びつけている。
公園を見晴らす3層にわたる緑のルーフ・テラスは、屋外ディスプレイやアクティビティへのスペースを提供し、「ピエール・ラソンド・パビリオン」が内外空間共に、充実した「国立ケベック美術館」の一翼を担う美術館であることを実証している。
©Geordie Wood
1973年 | 久留米市生まれ |
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1995年 | 九州大学建築学科卒 |
1995年 | ベルラーヘ・インスティテュート大学院留学 |
1998年 | OMAに入社 |
2006年 | OMA・NYのディレクターに就任 |
2008年 | OMAのパートナーに就任 |
現在、OMAニューヨーク事務所を統括しつつ、コーネル大学大学院、コロンビア大学大学院、ハーバード大学大学院などで客員教授。また講演会、TV出演など多彩な活動で知られている。 |
OMAの主な作品に、オランダ・ダンス・シアター、ネクサスワールド・レム・コールハース棟、ヴィラ・ダラヴァ、クンストハル、コングレクスポ、エデュカトリアム、ボルドーの家、在ベルリン・オランダ大使館、マコーミック・トリビューン・キャンパス・センター、ソウル大学校美術館、プラダ・エピセンターNY、シアトル中央図書館、カーサ・ダ・ムジカ、イウム・サムスン美術館新館、サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン、中国中央電視台本部ビル、コーチ表参道フラグシップ・ストア、ミルスタイン・ホール、天神ビジネス・センター、ファエナ・フォーラム+プラザ+パーク、トックビル図書館、ニューヨーク集合住宅タワー、ピエール・ラソンド・パビリオンなど多数
Photos and Material: Courtesy of OMA New York
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