最終更新 2016/09/01 18:00
イタリア、南チロルの人気あるスキー・リゾートの中心に位置するクロンプラッツプ山。ザハ・ハディドがデザインした「メスナー・マウンテン・ミュージアム・コロンズ」は、海抜2,275mの山頂にある。周囲をアルプスの美しい秀峰群に囲まれた山頂の博物館は、圧倒的な迫力を誇るアルプスの絶景を満喫できる。
まずこの博物館を理解するためには、メスナーそのものを理解する必要がある。ラインホルト・メスナーは1944年南チロル生まれの登山家。彼は世界の8,000m以上の高峰14全ての頂上を初めてクリアした登山家であり、また初めてエヴェレスト山の無酸素ボンベ登山に成功した輝かしい登山歴のあるクライマーとして知られる。
彼は今までに5つのメスナー博物館を建てて来ており、今回6番目の博物館をもって、メスナー博物館プロジェクト・シリーズに終止符を打つ予定と聞く。その最後の博物館をザハ・ハディドが設計することになった。
ザハのデザイン・コンセプトは、ビジターが山の中の洞窟を探検するように、下り坂の穴の中を歩いて谷側に出るという計画であった。谷側には大きなビューイング・ウィンドウ(見晴らし窓)がふたつと、谷側に突き出たテラスが用意され、南チロルのパノラミック・ビユーを見晴らすというものであった。
延床面積 1,000㎡の建物は、建築面積を小さくするために3層に渡って展開されている。工事は崖っぷちの4,000㎥の土砂を掘り起こし、掘削部分に完成した建物の上に掘り起こした土砂を戻している。それによって美術館をクロンプラッツ山頂に埋め込み、建物形態を地中に隠しつつ内部気温が夏冬一定になるという省エネのメリットをも享受している。
現場打ちRCの建物本体は地中に位置するため壁厚は40~50cmとし、盛り土された土砂を支持する屋根スラブはなんと70cm厚もあるという堅牢なつくりだ。地中に埋め込まれた形態の博物館は山側にはエントランスが見えるだけで、谷側にはふたつの窓とテラスが出ているだけだ。
これら外部に露出した部分には、近隣に鋸の歯のように聳える石灰岩の峰々の明るいトーンを反映させて、強化グラスファイバーのコンクリート・パネルが用いられている。この明るい色のパネルは内部へと折り込まれ、黒いツヤのあるインテリア・ウォールに接している。
内部は最上階である1階がエントランス・ロビーとなっており、フロント、ミュージアム・ショップ、手荷物預かり所、ロッカーなどがある。そこから階段が、山の中にある滝のように内部を巡って展示スペースをコネクトし、4層に渡るビジターの動線を描いている。
最下階には小さな映写室もあり、ビジターはギャラリーを横切って、見晴らし窓から景色を見てから最終目的地のテラスに出る。約40㎡のテラスは、建物より6mキャンティレバーで崖の上に突出しており、高所恐怖症の人には向かないが素晴らしい浮遊感!240度のパノラミックな視界をもつテラスから遥か谷底にある集落をはじめ、周囲に連立する秀峰の数々を目の当たりにできるという、難しい機能を見事なデザインへと昇華した建築である。
Portrait: Brigitte Lacombe
1950年 | イラク、バグダッド生まれ。ベイルートのアメリカ大学卒業後、渡英 |
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1977年 | AAスクールを卒業(AAディプロマ賞受賞)し、OMAに入所 |
1980年 | 自己の設計事務所を開設 |
1981年 | 「59イートン・プレイス」で、英国建築デザイン・ゴールドメダルを受賞 「ピーク・クラブ・コンペ」(香港)で最優秀賞 |
1992年 | ニューヨーク「グッゲンハイム美術館」における”ロシア・アヴァンギャルド展“の展示デザイン |
1993年 | 本格的建築作品「ヴィトラ消防ステーション」完成。「カーディフ湾オペラハウス・コンペ」最優秀賞 |
1999年 | ドイツ建築家協会名誉会員 |
2000年 | アメリカ文芸アカデミー名誉会員。アメリカ建築家協会名誉会員 |
2002年 | エ-ケル・ダルジャン賞(仏) |
2003年 | ミース・ファン・デル・ローエ賞 |
2004年 | プリツカー建築賞受賞。RIBA世界賞 |
2005年 | ロイヤル美術アカデミー会員。ドイツ建築賞 |
2006年 | AIA英国支部賞受賞。RIBAジェンクス賞 |
2007年 | 高松宮殿下記念世界文化賞 |
2011年 | スターリング賞 |
2012年 | 大英帝国勲章デイム・コマンダー |
2014年 | RIBAロンドン賞 |
2016年 | マイアミで逝去 |
主な作品に、ヴィトラ消防ステーション、ランドフォーム1、ムーンスーン・レストラン、マインド・ゾーン、サーペンタイン・ギャラリー、ストラスブール・バス・ターミナル、インスブルック・スキー・ジャンプ台、ローゼンタール現代美術センター、BMWセントラル・ビル、ホテル・プエルタ・アメリカ、オルドラップガード美術館増築、フェーノ科学センター、ロペス・デ・エレディア・ワイナリー、マギーズ・センター、国立20世紀美術館、グラスゴー・リバーサイド美術館、エヴリン・グレイス・アカデミー、広州オペラハウス、ピエールヴィーヴ、サーペンタイン・サックラー・ギャラリー、メスナー・マウンテン・ミュージアム・コロンズなどがある。
Photos and Material: Courtesy of Zaha Hadid Architects
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