世界の建築は今 No.128

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2016/05/30 11:00

Euronews Center (Lyon, France)

ユーロニュース・センター(フランス、リヨン)

Design: Jakob + MacFarlane
設計:ジャコブ + マクファーレン


世界のニュースを取り込む巨大な複眼

フランス・リヨンのローヌ川とサオーヌ川に挟まれた半島はかつてのドックランドで、長い間インダストリアル・デッド・テク(工業廃棄工場)として放置されていた。特に半島の南側でふたつの川が合流(コンフルエンス)する先端部分は現在再開発ラッシュとなっている。

その中でもサオーヌ川沿いのランバウ埠頭に、数年前ジャコブ + マクファーレン設計による「オレンジ・キューブ」ができた。矩形のボックスのコーナーからダイアゴナルに巨大なヴォイド・Aスペースがえぐり込み、屋上へと空気を抜く。その大胆な造形が話題になった。そこから南へ200〜300mの同じランバウ埠頭にできたのが、同じ建築家ジャコブ+マクファーレンによる全身グリーンの「ユーロニュース・センター」だ。

これら2作品は5年間の間をおいて完成したものだが、2005年の同じコンペで発案されたものだった。両者は部分的に同じコンセプトを共有しているものの、各々はユニークなモルフォロジーを見せている。

「ユーロニュース・センター」はふたつの円錐形アトリウムが建物正面ファサードにあけられており、建物内に自然光や空気を取り入れる一方、建物のユーザーは川辺の水景色を楽しむことができる。これらの驚異的なアトリウムはふたつの巨大な目と考えられており、川や周辺環境への見晴らしが素晴らしい。

ふたつの眼は象徴的にいえば、私たちを取り巻く世界での出来事を捉える抽象的なレポーターとしてのユーロニュースを表現している。それはニュース・チャンネルで親しまれる世界のニュースを取り込む巨大な複眼といえる。

建物は世界のニュースをヨーロッパ的な見地からカバーしている、国際的なニュース・チャンネルであるユーロニュースの世界本部だ。ここでは野心的なオフィス・プログラムが、如何様にして最も実験的建築形態へと変貌できるかを示している。そこにはユーザーのオフィス生活の質を向上させるために、形態的イノヴェイションやサステイナブル開発と折り合う姿勢が読み取れる。建物のヴォリュームが単なるモノリシックなブロックと知覚されるなら、ふたつの巨大なヴォイド空間やファサード・デザインは、その色彩、多孔性、空気通過性など建築の物質性を高めている。

外壁はガラスとパターン化されたパンチング・アルミニウムのダブル・スキン。通過性のあるダブル・スキンはインテリア空間において、光の戯れを演出し、外部へのパースペクティブを豊富にしている。この映像的なアプローチがサオーヌ川の流れや動きに呼応している。

建築家にとって、ファサードの色彩にグリーンを使用したことは、サオーヌ川の色を参照したものであり、建築と対岸のバルムの丘にある自然ランドスケープとのダイアローグを意図したものだ。ひとつの賭けとなる目立つ色彩の使用は、比較的大きなアーバン・リニューアル・プロジェクトにおいて、はびこる標準的な現代建築デザインに一石を投じるマニフェストであった。外壁のパターンと色彩は、現代フランス・アーティストのファブリス・イベールによる。

従来の建築にはあり得ないスペクタキュラーなふたつのアトリウム空間は、空気、光、周辺景色を建物内部へ深く取り込んでいる。昼夜の自然換気にはイノヴェイティブなアプローチが実現されている。これらのアトリウムは曲折する円錐形となって屋上に抜けて空へと開放されている。さらにこの空間に面するオフィスにはテラスが設けられ、スタッフの憩いのスペースとなっている。

建物には大きくふたつの機能がある。ひとつはオフィスと、ニュース・ルーム、コントロール・ルーム、レコーディング・ルームなどのマルチメディア・スペース。もうひとつは1階にあるエントリー・ホールやレストランなどのパブリックなサービス空間だ。エントリー・ホールは入口からサオーヌ川側まで内部を横切る広さがある。

上部の6層にオフィス群が展開されている。最上階の管理オフィスは360度の視界をもつ屋上テラスから、ローヌ川とサオーヌ川が合流するリヨン切っての素晴らしい水景色を堪能できる。


[図 面]

 

[建築家]

■ジャコブ&マクファーレン略歴


© A. Tabaste NB(右がジャコブ)

ドミニク・ジャコブ(女性)

1990年 パリ第1大学にて美術史を学ぶ
1991年 パリ・ヴィルマン建築大学卒業
1994-2004年 パリ・ヴィルマン建築学校講師
1998-99年 パリ建築大学客員教授
2001年 黄金コンパス賞(伊)
2002年 フランス建築アカデミー賞
2003年 フランス文芸シュバリエ章
2013年 トゥールーズ市コンサルタント・アーキテクト

ブレンダン・マクファーレン(男性)

1984年 南カリフォルニア建築大学を卒業
1990年 ハーヴァード大学建築学科大学院で修士号を取得
1996年 ベルラーヘ・インスティテュート客員教授
1996-98年 ロンドン大学バートレット校講師
1998-99年 パリ建築専門大学講師
2001年 黄金コンパス賞(伊)
2002年 フランス建築アカデミー賞
2003年 ベルラーヘ・インスティテュート修士課程客員教授
2003年 フランス文芸シュバリエ章
2006-07年 南カリフォルニア建築大学で教鞭を執る
2007年 ハーヴァード大学大学院客員教授
2008年 フロリダ大学客員教授

 
■代表作

代表作に、Tハウス、レストラン・ジョルジュ、ポントードメール劇場の修復、ルノー・スクエア・コム、セーヌのドック、リチャード現代美術財団、レクラ劇場、ルノー・コミュニケーション・センター、100戸の社会住宅、RBCショールーム、スイス文化センター図書館&オフィス、ロウイー図書館、ピンク・バー、オレンジ・キューブ、タービュランス・フラック・センター、ユーロニュース・センター、グルモン・パルナッセ・シネマ(進行中)、ノイジー・ル・セック音楽&ダンス学院(進行中)など。

Photos and material: Courtesy of Jakob + MacFarlane Architects

 


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