レポート

京都市美術館90周年記念祭 基調講演「京都市美術館の90年」・記念対談「美術館の過去・現在・未来」レポート

文:柴田直美 写真:吉見崚

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2023年11月11日と12日、開館から90周年を迎えた京都市京セラ美術館で、京都市美術館90周年記念祭https://kyotocity-kyocera.museum/event/celebrating90が開催された。そのプログラムの一環として11月12日に中央ホール(本館1階)にて基調講演「京都市美術館の90年」と記念対談「美術館の過去・現在・未来」が行われた。

 

京都市美術館の変遷と「MUSEUM」の定義

基調講演では京都市京セラ美術館館長の青木淳氏が、1933年の創建時から2020年のリニューアル、現在に至るまでの美術館の90年の歴史を解説した。
「京都市美術館(創建当時は大礼記念京都美術館)は帝冠様式の建物ではあるが、伝統的な瓦屋根とのバランスを取るためにおおげさな基壇になっている同時代の建築に比べ、基壇部分がほとんどないことが特徴で、入りやすさが考えられていて素晴らしい」と青木氏。
青木氏が西澤徹夫氏と手がけたリニューアル時には、創建時の設計競技心得で明記されていた「本美術館は全部を一展覧会場として使用することの外又同時に約六組の小展覧会に分割使用することある可きに付各出入口、預り所、切符売場等の配置を充分考慮すること(「設計図案懸賞募集規定・設計心得」より)」ことや、当時の京都市長が(貸し館でなく)コレクションを持つ美術館のようなものとしての構想があることを言及していたことも踏まえ、南回廊にコレクション展を開催するスペースを設けたという。また、米軍に接収されていた1946〜1952年は館内でスポーツやダンスが行われていたが、返還後に美術館へ戻り、近代美術を扱う美術館として、その頃に竣工した、東京国立近代美術館(1952年開館)、国立西洋美術館(1959年開館)などと合わせて、多くのエポックメイキングな展覧会を催してきた歴史も紹介された。リニューアル時に現代美術を展示する新館「東山キューブ」ができたが、新しいタイプの美術が生まれてきていることを踏まえて、可変性がある東山キューブを提案したという。

最後に、「MUSEUM」の定義について説明があった。1946年から「ICOM(International Council of Museums)」(国際博物館会議)が「MUSEUM」を定義しており、社会に合わせて更新している。2022年の改定で、「A museum is a not-for-profit, permanent institution in the service of society that researches, collects, conserves, interprets and exhibits tangible and intangible heritage.(有形及び無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関)」とされていたこれまでの定義に加えて、「Open to the public, accessible and inclusive, museums foster diversity and sustainability. They operate and communicate ethically, professionally and with the participation of communities, offering varied experiences for education, enjoyment, reflection and knowledge sharing.(一般に公開され、誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育む。倫理的かつ専門性をもってコミュニケーションを図り、コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する)」とされた。

2022年にICOMで採決された新しい定義:
https://www.canva.com/design/DAFekAqrFew/3eNhh2IHN9ww2pyW9Mlihw/view?utm_content=DAFekAqrFew&utm_campaign=designshare&utm_medium=link&utm_source=viewer

https://icomjapan.org/journal/2023/01/16/p-3188/

青木氏は、近年の美術館は、収集・保存・調査研究・普及といった他の役割に比べて、展示することに偏っていると指摘する。そして、その後の記念対談で、2022年の改定で追加された、多様性や持続可能性、コミュニティの参加、というキーワードについて、意見が交わされた。

 

美術館との接点のあり方

記念対談「美術館の過去・現在・未来」は、ともに建築家でありながら美術館の運営に携わる妹島和世氏(東京都庭園美術館館長)と青木淳氏が登壇し、鷲田めるろ氏(十和田市現代美術館館長)のファシリテーションのもと、「美術館全般について、特に未来について話したい」という鷲田氏の言葉で始まった。

まず、「(青木氏・妹島氏の)2人とも建築家であり、多くの美術館を設計している。そして、コンバージョンされた美術館の館長である」と鷲田氏が青木氏との共通点を通じて、妹島和世氏を紹介した。2022年7月に東京都庭園美術館の館長に就任した妹島氏は「庭園美術館は京都市京セラ美術館と同じ時期に建てられました。アールデコ全盛期のパリを過ごされた、朝香宮の自邸として1933年につくられ、40年前に美術館になり、2014年に新館を含めてリニューアルされました。今は広大な庭もあわせて使っていきたいと考えているところです。」と東京都庭園美術館の特徴に言及した。

妹島氏は2008年から関わる犬島の集落でのアートプロジェクト(https://benesse-artsite.jp/art/inujima-arthouse.html)についても説明。「1時間で歩ける面積+空き家が多い+高齢化(令和2年の人口は36人)している場所で、1、2年にひとつ展示作品をつくる、ということは、美術館での展示準備とは全く違っていて、展示替え中もむしろ隠さない方がいいと気が付きました。だんだん、島の皆さんとご飯を食べながら話し合ったり、排水浄化システムを考えたり、学生の方々と島を整備したりする、という活動になってきました。」という。しかし「アートという概念がない活動とそれがある活動は違うと思います。」とも。「島に点在するアートとともにみんなで共有できる風景を作ろうとしていて、自分たちで自分たちの暮らす空間をつくっています。」と続ける。鷲田氏はこの犬島での取り組みに、第一部で青木氏が指摘していた、ICOMが2022年に追加した「美術館がコミュニティと関わる」という点を見る。

(使い手が空間を規定していく)「原っぱ」と(あらかじめ空間が規定されている)「遊園地」を対比させて、「原っぱ」のような市民の自主的な参加を建築で実践している青木氏がどう思うか、と鷲田氏が訊ねると、「従来型の美術館は『遊園地』であり、あらかじめ見てもらうことが分かっている(名画であることが分かっていて、正しく伝える)というものです。「遊園地」は一方方向に楽しいと伝えるのに対して、自分が主体的に関わることが楽しい状態が「原っぱ」です。来た人が楽しみ方を発見できる、そこで何かをつくる自由があるとすると、美術館はまさに「原っぱ」であるべきだと思います。青森県立美術館はそこでアーティストがいろんなことを発見できる空間として、きっかけがあるけど自由がある、自由があるけどきっかけがある、という美術館です。」と自身が設計を手がけた青森県美術館を例に返答した。妹島氏は、「原っぱ」の例として、日比野克彦氏が朝顔を育てることで、地域のコミュニティを育んだ《明後日朝顔プロジェクト21》をあげた。(http://jmapps.ne.jp/kanazawa21/det.html?data_id=332

「(生長した朝顔によって)緑のスクリーンができた時、ガラスの反射が消えてガラスの存在がわからなくなりました。それが『原っぱ』に当たると思います。使うということは使いやすいとか使いにくいというような機能的なことを超えて、すごく創造的なこと、体験を生み出して素晴らしいと思います。」と妹島氏はいう。

妹島氏が西沢立衛氏と設計した金沢21世紀美術館は、「まち(都市)は美術館であり、美術館はまち(都市)である」というテーマでつくられた。美術作品の保護と運営のために展示室は固く閉じざるを得ないが、展示室から出たら道を歩いているように見通せるつくり方をした、という。「美術館ができた後、金沢の街に小さなギャラリーがどんどん生まれています。今日の青木さんの話を聞いて、街にあったものを集約したのに、今は街に返そうとしているのがおもしろいなあと思いました。」と妹島氏。青木氏は、目的が違う人がすれ違う美術館は駅のようでもあり、実際に展覧会に行くと見ようと思ったもの以外のものも見えてしまう、それがプラスの面だという。意図しないものとの接点という点で、2023年3月に八戸市美術館のジャイアントルームで3人制バスケットボールの試合が行われたことが話題に上がった。(https://www.daily-tohoku.news/archives/183164)

※八戸市の総合計画等推進市民委員会における質問と回答は以下6頁参照:https://www.city.hachinohe.aomori.jp/material/files/group/3/230822_05.pdf

意図せず出会うことを大切にするならば、バスケがきっかけとなって展示室にも入ってくれたら良いということになるのでは、という鷲田氏と、メインの空間であるジャイアントルームでバスケが行われているというのはちょっと難しいかなという青木氏。青木氏は「美術館で何をやってもいいとなると、公共空間であればどこでもいい、となってしまって、つまらない空間になってしまうと思います。図書館は図書館、美術館は美術館というように、美術館という矜持を保つほうがおもしろいことができるのでは、と思っています。」と続ける。妹島氏もメインの空間でスポーツを行うということへの懸念を示しつつ「ガブリエル・オロスコの《ピン=ポンド・テーブル》という卓球台を使った作品のように、(スポーツという要素を扱うにしても)例えばコミュニケーションの問題に触れるきっかけになるとか考えられるのでは。」と提案。青木氏が指摘した公共建築の多目的化について、学校にも空港にも多目的ルームというスペースがついていることが多く、空間が似通ってきていることについても指摘する。「それぞれで大切にされるものを残していったほうが可能性が広がるだろうなと思います。京都市京セラ美術館で良いなと思うのは、それぞれの部屋が特徴的であるまま、くっつきあっているという点です。ただただ混ざっているのとは違いますよね。」という妹島氏に、「ただ混ぜてしまうと中和してしまうということですよね」と青木氏が応える。

 

街の色を浴びる美術館

妹島氏は、「金沢21世紀美術館を手がけて、建築の空間は動かないけれども、アートとの関係で空間が大きくなったり小さくなったりすると勉強になりました。それに、巡回した展示を違う美術館で見ると、違う展覧会と感じられるくらいおもしろいことがあります。それはアーティストがそれぞれの場所でなにかインタラクティブなものをつくっているからじゃないかと思います。そして美術館というか、街の空気感というものが美術館に入っているのではないかと。」という。
また、その街にある他の施設との連携についても話が及び、芸術系大学が多い京都や、妹島氏がスイスで見た小学校の例(特別室などはない、住宅のようなサイズの小さい学校を住宅地にひとつ、けれどもたくさんある。特別教室には週に何回かバスで行く。)に可能性を見る。ネットワークによって、街全体がひとつの美術館(青木)となり、つながることができ(妹島)、肥大化しすぎた展示の部分を圧縮すること(鷲田)になる。

良い展示をすることだけが優先されがちな今の美術館のあり方について、組み替えなどが必要だと感じている館長3人の対談が締めくくられた。

 

京都市京セラ美術館

〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町124

開館時間:10:00~18:00 (※最終入場時間は展覧会により異なります)

休館日:月曜日 (※祝・休日の場合は開館)/年末年始(12月28日〜1月2日)

 

公式ウェブサイト:https://kyotocity-kyocera.museum

 

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