レポート

第15回 ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展

文・写真:柴田直美

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2016年5月28日から11月27日の約半年に渡って開催される、第15回 ヴエネチア・ビエンナーレ国際建築展。今回は初めて参加するリトアニア、ナイジェリア、フィリピン、セイシェル、イエメンを含む65カ国が参加。もともとは半分程の会期が告知されていたが、第14回国際建築展の成功も鑑みて、急遽会期が延びたのが約1年前であった。さらなる展開が期待される今回の総合ディレクターはチリ出身の建築家アレハンドロ・アラベナ。今年、プリツカー賞を受賞したアラベナは建築や都市のデザインを通してサステイナブルな社会を実現するための活動を継続的に実践していることで知られる。

  • 100トンの廃棄物
  • 14kmのスタッド
  • キーワード

「より広い眼差し」を求めて

総合テーマは『REPORTING FROM THE FRONT』。キーヴィジュアルとして使われている、脚立の上で広大な地平線を見つめている女性(ドイツ人考古学者マリア・ライヒェ)が印象的な写真について『expanded eye(より広い眼差し)』を獲得しているとアラベナは説明する。この写真はブルース・チャットウィンが撮影したもので、彼が南米を旅した時に、脚立をかつぎ、砂漠を歩くライヒェに出会ったのである。ライヒェはナスカの地上絵の研究で知られているが、飛行機をチャーターする資金もドローンを飛ばす技術もなかった。それでも彼女は充分にクリエイティブであり、地面から見るだけでは図柄として見えて来ない地上絵を見ることを、脚立に上がることで達成したのである。『不足を補うのは創作力である。』彼女は地上絵を壊してしまう可能性を考え、車をチャーターして移動することもしなかった。『足るを知る』建築が応えなくてはならない複雑な問題はライヒェのように新しい視点を獲得することで越えて行けるというメッセージについて、ヴエネチア・ビエンナーレ代表のパオロ・バラッタも『直ちに気に入った』と振り返る。アルセナーレ会場ではアラベナが注意深く選んだ『問題解決に取り組んでいる建築』が展示された。

  • キービジュアル
  • Permanent Encyclopedic Collection
  • Christina Kim
  • Christina Kim
  • Dreaming of Earth
  • プロジェクト概要文
  • Losing myself
  • beyond bending
  • mountain cabin
  • 再利用された素材の建築
  • Makoko Floating School の再現
  • プラスチック製の樽の浮力
  • A World of Fragile Parts
  • 再建のための記録

ジャルディーニ会場

ジャルディーニ会場では、「関係性をつくる」という点に着目し、12作品を紹介した日本館日本館が特別表彰を受賞した。関係性という目に見えないものを展示することや、日本の社会状況への理解のうえに成り立つコンテンツであるという点など視覚化しにくい展示であったはずなのだが、審査員始め来場者にきちんと伝わったということにおいて、キュレーションの力を評価したい。日本館は、展示を通して人の暮らしが見えてくることが良かったという声を多く聞いた。現地を訪れていたCCAのキュレーターも「建築家たちが作品の横に立って、丁寧な説明をしており、彼らの取り組む姿勢が伝わって来た」と評価していたが、他のパビリオンや展示が多く取り上げていた移民問題や宗教問題、貧困問題など、世界的に共有されつつあるより切迫した問題とどこか切り離されたような感じがして、すこしひっかかりも感じた。

  • 日本館入口
  • 日本館展示風景
  • 日本館展示風景
  • 日本館展示風景
  • 日本館ピロティ
  • オーストラリア館
  • オーストラリア館
  • ポーランド館の入口
  • 単管
  • 建設業界を図化
  • 無報酬超過労働
  • 難民の地図
  • ドイツ館
  • 土嚢の壁
  • 交点にある穴
  • スイス館
  • スイス館

街中で展開されている見逃せない展示

アルセナーレ会場、ジャルディーニ会場以外で特筆すべきは、ジュデッカ島にあるポルトガルの展示「NEIGHBOURHOOD - Where Alvaro Meets Aldo」、Palazzo Franchettiで開催されたZaha Hadid展(5月27日 〜 11月27日)。それから会場として興味深かったのは、アルセナーレ会場の入口の角にあるThe Navy Officer’s Clubを一時的に開放したMy Art Guides Venice Meeting Pointと、バルト諸国館による体育館のスタンド席を使った展示。

  • Campo di Marte
  • 話を聞くシザ
  • ポルトの公営住宅の模型
  • Zaha Hadid展
  • Malevich's Tektonik
  • The Navy Officer’s Club
  • バルト諸国館

「出会って」「共有」すること

『もし知識の共有や経験の交換がビエンナーレの最終的な目標だとしたら、当事者の話を聞くことはもっとも力強い方法』としてアラベナ氏が企画した『Meeting』は、Infrastructure(インフラ)、 Peripheries(周辺)、Structures/Materials(構造/素材)、 Scarcity(欠乏)、Environment(環境)、Conflicts(紛争)というテーマで一ヶ月に一度開催される。初日の5月28日にテアトロ・ピッコロで行われたInfrastructure(インフラ)の回はJoan Clos, Rem Koolhaas, Norman Foster, Andrew Makin, Grupo EPMらが登壇。入口前に行列になっており入れなかったが、中で聞いていた人に言わせると『それぞれが自分の意見を述べただけで終わってしまって、あれだけの建築家たちを揃えるなら、彼らの間での意見交換が聞きたかった』と言っていた。その点、庭園で開放的に行われていたTime for Impact (オンラインプラットフォーム)のオープニングイベントはFloris Alkemade (オランダ政府主任建築家), Ole Bouman (Shekou Design Museum館長), Beatrice Galilee (メトロポリタン美術館建築デザイン部門キュレーター), Joseph Grima (Space Caviar創立者), Luca Molinari (建築批評家/キュレーター), Rogier van den Berg (UN-Habitatプロジェクトリーダー) らが登壇し、リラックスした雰囲気で、来場者からの質問を丁寧に拾っては答えていた。

  • Time for Impact
  • The Navy Officer’s Club

番外編

ビエンナーレのプレヴュー期間(5月25日〜27日)を終えたころ、スロベニアで始まったICAM - International Confederation of Architectural Museums。建築美術館関係者が連日、パネルディスカッションを繰り広げ、現在の建築系美術館や展覧会などの動向や問題について話し合う。参加者はMoMA、V&Aミュージアムのキュレーターなど、名だたる顔ぶれが揃う。長年参加されている中原まり氏(米国議会図書館アジア部日本課司書)にもお会いすることができた。中原氏は20年以上に及ぶ建築アーカイヴィストとしての経験から、日本の建築アーカイブの重要性を訴えている。また、韓国からの参加者と話した時、『建築博物館を作る計画があるので、その勉強に』と言っており、率直に羨ましいと思った。これだけ日本人の建築家が世界的に評価されているなか、日本に建築のミュージアムがないのは残念であり、海外からの視点や意見を聞くたびにその思いを強くする。

  • リュブリャナの街
  • 城の中
  • リュブリャナ市立博物館
  • リュブリャナ市立美術館
  • マリボーにある修道院
  • 建築デザインミュージアム
  • 建築デザインミュージアム
  • 建築デザインミュージアム
  • プレチュニックの建築を巡るツアー

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