6月24日、パリ(フランス)にある国立建築遺産博物館「Cite de l’architecture et du patrimoine」で、『日本、家の列島』展が始まった。同展示は、パリで活動する A.P.ARTs 設立者のヴェロニック・ウルス(Veronique Hours)とファビアン・モデュイ(Fabien Mauduit)、東京を拠点とするみかんぐみの共同代表であるマニュエル・タルディッツ(Manuel Tardits)の3人の建築家と、東京を拠点として活躍する写真家のジェレミ・ステラ(Jeremie Souteyrat)によって企画され、昨年5月にポワティエの建築会館(Maison de l’Architecture Poitou-Charentes)で開催されたあと、フランス国内2カ所を経て、パリへ巡回してきた展覧会である。
エッフェル塔をセーヌ川の向こうに望むシャイヨー宮の左翼にある国立建築遺産博物館は2007年に開館し、常設展示面積8,000m2、企画展示室2,300m2(延床面積:21,706 m2)とかなり広い展示スペースを持つ。Hall Aboutで展示されている本展示は、20世紀を代表する14の「昨日の家」、36のポートレイトとして写真で紹介される「東京の家」、住人と建築家のインタビュー、図面、写真と映像で紹介される20の「今の家」という3つのセクションで構成されている。
「昨日の家」の展示でもっとも古いものはアントニン・レイモンド設計の軽井沢の別荘(1933年)、新しいものは伊東豊雄のシルバーハット(1984年)である。現在では馴染みのある素材やライフスタイルなどのルーツとなるであろう、日本の住宅が紹介されている。日本の現在の住宅にこういった先駆者たちの影響は少なからず見受けられるはずである。それを日本以外の地で開催される展覧会で展示される意義は大きいと思った。
「今の家」の展示では、図面、写真に加えて、住人や建築家のインタヴューがあり、かなりの情報量である。加えて映像も展示されており、それぞれの住宅についてじっくりと向き合い、理解することができる。実際に展示を見に来ていた建築を学ぶ学生らしき人はかなりの時間をかけて図面と写真を読み込んでいて、映像の前に腰掛けていた初老の女性は、映像が一巡するまでじっと見ていた。
「東京の家」の36もの住宅の『ポートレート』は住宅だけに焦点をあてた写真でなく、住宅が佇む周囲の様子が紹介されているという印象を受けた。写真家のジェレミ・ステラ氏によって、東京という都市の街角が切り取られた写真として、日本人である私にとっては普通だと思っている日常の風景を客観的に見ることができ、非常に興味深い。ステラ氏は「何年後かにまた同じ場所で撮影をするのがおもしろいと思っている」と言うが、それは、歴史的建造物が多く、街並が変わることがほとんどないフランスから来たステラ氏は、建て替えが多い東京の街が生きているように思っているからではないか。ステラ氏の写真からは住宅の周囲の人々の日常生活のざわめきが伝わって来るようであった。
こうしてみると日本には実に多様な敷地があり、そこに建つ家があり、ということはそこには施主がいて、独自性あふれるデザインを生みだす建築家がいる、極めて建築家にとって恵まれた状況のように見えるに違いない。都心であっても土地を所有することができ、戸建の住宅を持つことも可能である。家というのが一世代(または二世代)だけのものであるという考えも、各施主に合わせた住宅を設計できる要因かもしれない。そういったことを海外で考えてみる良い機会になる展覧会であった。ぜひ、展覧会を訪れたフランスに暮らす人々の意見を聞いてみたいところである。
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