2015 年2 月15 日(日)、アーツ千代田 3331 において、第二回 3.11 映画祭(http://311movie.wawa.or.jp/)のプレイベントとして、2012 年3 月から約2年間にかけて撮影された写真家・畠山直哉氏のドキュメンタリー『未来をなぞる 写真家・畠山直哉』が上映され、畠山直哉氏と監督の畠山容平氏がトークを行った。
世界的に活躍する写真家である畠山直哉氏は、岩手県陸前高田市出身である。大学進学以降、東京で暮らしているが、2011 年の東日本大震災で陸前高田にあった実家が流され、母を亡くした。ドキュメンタリー中で、東日本大震災発災直後になんとかして陸前高田へたどり着こうと、防寒具を身につけながら、ノルウェーの記者のインタヴューに答えている畠山直哉氏の映像が出てくる。故郷で起きていることを掴みきれない大きな不安を抱えながらも、バイクにまたがり、疾走していく。記者が、畠山直哉氏が書き残したローマ字の名前を頼りに、「どうやらインタヴューしたのは、写真家の畠山直哉氏だったようだ」と氏が所属するギャラリーに連絡して来たことで、ノルウェーで放映されたこの映像が発見された。氏は、この映像を見て「陸前高田で何が起きたのか、何も知らない自分を映像の中に見て、胸がつまった」という。私は映像の中の畠山直哉氏に当時の多くの人々の想いを見つけ、息をのんだ。このドキュメンタリーは数ヶ月後に都内で公開予定とのことなので、内容については多く言及しないこととして、上映後に行われたトークを中心にレポートしたい。
監督の畠山容平氏は撮影中、畠山直哉氏の示唆的な言葉に助けられたと言う。実際に、このドキュメンタリーの中で、畠山直哉氏が語る言葉は、深い思考の果てに紡がれているようで、染み入る。『誰かを超えた何者かに出来事全体を伝えたくて写真を撮っている』とは畠山直哉氏の言葉である。震災前に発表していた写真作品とは全く違う作品として発表された陸前高田の写真。震災前から陸前高田のスナップショットは撮影していた。ただ、それは人に見せるつもりなどなく、頭と身体の反射としてシャッターを切っていた写真たち。それらが震災によって意味が変わってしまった。震災後は以前よりも頻繁に陸前高田に通い、撮影を続けている。
2012 年に東京都写真美術館で開催された個展『Natural Stories』は震災前から企画されていて、陸前高田の写真を見せる予定はなかったというが、震災後に展示の一部として追加された。順路の後半にあった陸前高田の写真が展示された部屋に入った瞬間、スライドショーで映し出される『気仙川2002-2010』から数々のかつての陸前高田の日常がうねりのように流れ込んで来て、直視したら卒倒しそうだった。ドキュメンタリー中で、その写真の中に映っているお祭りで笛を吹く女の子は震災で父を失くしたのだと畠山直哉氏が説明していた。「人の歴史や気持ちは写真にうつらない。たとえ当事者が撮影してもうつらない。」としながらも「でも確かに何かがうつる。」と信じてシャッターを切る畠山直哉氏。その『何か』があれほど強い体験は他に思い出せない。震災前にはスナップショットを展示するような写真家ではなかったし、その変化について氏自身も『作品ってなんだろうね。今、何が作品なのか、と線をひけないような状況で活動している。』と説明する。旧知の英国人キュレーターからは、『美術史から見て何か意見を言うことができない』と評されたそうだ。「大災害に面したとき、どう考えたらいいか、と助けになるような手持ちの語彙が足りない。文学もアートも楽しいものは多いけれど、それらが役に立たないという無力感を感じている。ストレスを抱える人たちをほぐせる言葉をどうしてストックして来なかったんだろう。」と畠山直哉氏はいう。慰めなど何の役にも立たないような過酷な状況に置かれている多数の人々に対して何ができるだろうと思い悩んだ人は多かったと思う。その悔しさを忘れず、未来へ何をつなげるか。畠山直哉氏の言葉の端々、故郷に佇む氏の影には、穏やかだが、揺るがない意志が垣間みられる。
ドキュメンタリーの中で小・中学校の同級生から『直哉ちゃん』と呼ばれて談笑したり、トークで畠山監督から『出会う人、出会う人と話をしていたのが印象的だった』と言われて、『知り合いと会ったら話をするのは普通のこと。直接の知り合いじゃなくても地縁だから。唐桑出身の君の父だって地縁だから、きっと悪い人じゃないって思ったんだよ』という眼差しには故郷とそこに暮らす人々への優しさが溢れていた。刹那の積み重ねが人生がかたちづくり、未来となる。大きな人生の波の中で自分と向き合い、故郷と向き合う。それを実直に描き出しているドキュメンタリーだと思った。
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