写真を撮るという行為は、いつからか日常に溶け込みすぎてしまった。
かつて地域の儀礼や記憶を担ってきた写真館であったが、スマートフォンを手にした私たちは、日々膨大な数の写真を撮り、クラウドに蓄積し、やがて見返すことのない記録へと変えていく。
そんな現在において、地域に根ざす写真館は、果たして何を残す場所であり得るのだろうか。
瀬戸内の小さな町で90年近く営まれてきた写真館は、豪雨災害を機に敷地の一部を供出するかたちで再建を迫られた。私たちはこの再建を、単なる復旧ではなく、写真館というビルディングタイプを再定義する機会と捉えた。
かつて閉じていた建物の一部を町に開き、川沿いの道を屋上まで螺旋状に引き込むように吹き抜けのある空間を設け、喫茶と受付、物販を併設した。そこは町の視点場であり、人が滞留し、交流し、写真を撮る場所でもある。
私たちは、この写真館が長年地域にこれからも根付き続け、愛される存在となることを願い、普遍的な川や、橋、道路といった町のインフラのひとつと見立てて設計した。
繊細な光を扱う写真空間の在り方を基盤に、川と並行する新たな通りを敷地内に引き込み、そこに螺旋状の動線を重ねることで、喫茶、展望、物販といった複数のプログラムを緩やかに編み込む。商店街の店舗群と連続する構成とし、写真館を単独の施設としてではなく、町の中に埋め込まれた小さな都市装置として位置づけている。
町並みに倣いながらも、撮影に適した自然光、反射、質感、レンズの画角を織り込むように建築の寸法や仕上げを調整し、スタジオ内部には光と影の質感が立ち上がる。撮影セットが連続するような空間構成とし、建築自体が記録の舞台装置となる。
この写真館では、写真はただ保存されるものではなく、「かたち」として丁寧に残される。人生の節目を刻むと同時に、町の記憶を紡ぐ行為として。住民たちは日常のなかでふと立ち寄り、町の風景に触れ、また写真を撮る。そして、誰かの節目が、また別の誰かの風景として町に積み重なっていく。
過去を記録し、未来を象徴する。
この写真館は、町の再出発をそっと写し取る、地域文化のインフラである。
(林恭正+熊谷和)
■建築概要
建築デザイン:林恭正+熊谷和
ファブリックデザイン:fab- / 堀口真貴乃
施工:進和建工(担当:井上隆裕)
写真撮影:吉崎努
所在地:広島 安芸津
用途:写真スタジオ
敷地面積:242㎡
建築面積:167㎡
延べ床面積:269㎡
構造・規模:鉄骨造 地上2階

林恭正(はやし やすまさ)
■経歴
- 1994
- 広島県生まれ
- 2017
- 新潟大学工学部 建築学科 卒業
- 2018
- ドレスデン工科大学(ドイツ)
特別派遣研究生 - 2019
- 新潟大学自然科学研究科環境科学専攻社会基盤・建築学コース
博士前期課程 修了
横浜の設計事務所 tomito architecture 参画 - 2020-2023
- 同上 チーフアーキテクト
- 2023
- NPO 法人福祉と建築 副代表理事
株式会社 ArchTank 代表取締役CEO

熊谷和(くまがい なぎ)
■経歴
- 1994
- 広島県生まれ
- 2017
- 九州大学工学部 建築学科 卒業
- 2018
- アアルト大学 ( フィンランド )
アート・デザイン・建築学部 ウッドプログラム 修了 - 2020
- 九州大学大学院 人間環境学府 空間システム専攻 修了
都内のアトリエ系建築設計事務所 入社 - 2023
- ArchTank 参画
ArchTank
代表:林 恭正 | Yasumasa HAYASHI
Website:https://www.archtank.info/
Instagram:https://www.instagram.com/arch.tank/
















