「日常から数cm浮いているような建築」
東京都心部。間口4.9m・奥行14.7mの奥に細長い狭小敷地に建つ木造戸建住宅である。施主は、新進気鋭の作家。求められたのは、作家の仕事がこの家の中で完結できること。外に開きすぎないコンパクトな住まいであること。何よりも、創作へのインスピレーションを与えてくれる空間であることが求められた。「日常から数cm浮いているような建築」をつくりたい、と思った。あくまで具体的な日常と接続しつつも、どこかフィクショナルな物語性が介在する、そんな建築の在り方を目指した。
まずはじめに作家に所縁の深い敷地を選定した。前面道路に面する西側壁面は、大地が大きくめくれ上がるイメージで、無窓の曲面耐震壁として立ち上げ、耐震壁をくり抜くかたちでトンネル状のアプローチを計画した。日常から非日常に一歩足を踏み入れる、映画のワンシーンのような導入とする意図である。全体の構成は、奥に細長い敷地を最大限活かす目的で、東側の敷地奥手を三層・西側の前面道路側を二層のスキップフロアとし、スキップする床レベルの順番を一部入れ替え、かつ極端な高低を与えた。北側には間口1.2m・最大高さ5.5mの光庭を挿入。他の開口部は可能な限り減らし、家中をアメーバ状に拡がるヴォイドに対して明暗のコントラストを与えた。そこに階段を一直線に通すことで、高低・明暗のコントラストの利いたヴォイドの中を突っ切っていく、身体的なストーリーのある立体構成とした。
現代作家のライフスタイルもコロナ禍の中で大きく変化した。オンライン制作が主となり、従来の作家のアトリエのように、アシスタントが一堂に会する姿はもう見られない。代わりに、自邸が打合せの場となり、メディア露出の際の撮影スタジオの役割を果たすようになった。現代における作家の仕事は、『1:創作(閉じる)』『2:打合せ(部分的に開く)』『3:取材の受入れ(開く)』に分けられ、それぞれにあったプライベート/パブリックの濃淡が求められる。コンパクトな住まいの中で、繊細な場所の使い分けを可能にする”溜まり”を、ヴォイドの設計によって提供することを意図した。合理性を突き詰めて考えつつも、土地・場所性と接続した大らかな物語性を内包する建築をつくっていきたいと考えている。
(山之内淡 / Tan Yamanouchi & AWGL)
■建築概要
所在地:東京都
主要用途:専用住宅
設計:Tan Yamanouchi & AWGL
担当/山之内淡
構造:Graph Studio
担当/三原悠子
植栽:DAISHIZEN
担当/重名秀則
施工:泰進建設
担当/池部泰広 西出圭佑
写真撮影:田中克昌
構造・構法−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
構造・構法:木造在来工法
基礎:べた基礎
規模−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
階数:地上2階地下1階
軒高:7,857mm
最高の高さ:8,020mm
敷地面積:74.0㎡
建築面積:44.16㎡(建蔽率59.68% 許容60%)
延床面積:86.45㎡(容積率116.83% 許容200%)
B1階 19.31㎡ 1階 35.04㎡ 2階 32.10㎡
工程−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
設計期間:2020年 5月~2021年9月
工事期間:2021年10月~2022年9月
敷地条件−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
地域地区:第1種中高層住居専用地域
準防火地域:第2種高度地区
道路幅員:西5.25m
接道:4.90m
■経歴
山之内 淡
- 1986
- 北海道札幌市生まれ
父・裕一の設計事務所で建築設計の実務を学ぶ - 2013
- 慶應義塾大学大学院修士課程修了
株式会社博報堂にて国際企業の広告クリエイティブ制作に従事 - 2016
- フリーランスの建築家としてアジア・欧州・米国にて活動開始
- 2017
- 日本建築設計学会より若手建築家に贈られる ”Architects of the Year” を受賞
- 2018
- Tan Yamanouchi & AWGL を設立
同代表取締役兼代表建築家
Tan Yamanouchi & AWGL
official website
https://awgl-inc.com
Instagram
https://www.instagram.com/tanyamanouchi/