ARCHI REVIEW

第004回 ARCHITECTS REVIEW


光井純&アソシエーツ建築設計事務所
ペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパン

建築家・光井純氏が代表を務める「光井純&アソシエーツ建築設計事務所」(JMA)と「ペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパン」(PCPAJ)は、空港の旅客ターミナルやオフィス、レジデンスなどの大規模建築からインテリアに至るまで、さまざまな建築デザインを手掛けている。さらに特筆すべきこととして、『デザインガイドライン』と呼ばれる「まちづくりのルールブック」の策定を通して、多様性と一体感を備えた先進的なまちづくりプロジェクトを数多く手掛けていること、そして多様な国籍のスタッフが在籍し、国境を越えて数多くプロジェクトを手掛けていることが挙げられる。
日々の業務でiPadを愛用する光井純氏をはじめ、先端的な設計アプローチでも知られるこの事務所に、今回Wacom社のペンタブレットをお使いいただき、その感想を伺った。

光井純&アソシエーツ建築設計事務所にて、光井純氏(右)

動画1:ミーティングの席で積極的にタブレットを使用(使用アプリ:PowerPoint)

 

動画2:トレーシングペーパーを重ねるようにたくさん描くことで最終的なイメージを詰めていく(使用アプリ:PowerPoint)

アプリケーションの利便性を向上させるツール

――今回、どのようにペンタブレットをお使いいただきましたか?

 

光井 今回はスタッフの黛直矢さんと原一樹さんを中心に、さまざまな業務の中で活用させていただきました。ひとつ目のシーンは、進行中のプロジェクトについて私がスタッフと議論するミーティングです。このミーティングは、私と担当者の一対一ではなく、通常、何人かの関係者が集まって行います。

 

 私はそのミーティングの席に積極的にペンタブレットをもち込んで使ってみました。その中で良いと思ったのはPowerPointとも連動でき、データに直接描き込めるところです。「次の打ち合わせでクライアントにこういうスライドをお見せしようと思います」と光井さんに説明して、「そこはこう直した方が良い」というような指導を受けるわけですが、このときノートに書き留めるのではなく、PowerPointの該当頁にそのまま描き込んで残しておけるので、漏れがなく反映することができます。

 

光井 私はスタッフとブレインストーミング的な議論をしたいので、こういうミーティングでは大きなディスプレイで情報を共有しながら行います。こうして何人かが集まって打ち合わせを行うシーンでは、私や発言者が思ったことをパッと描けることが大切です。将来的にはより大きく、理想を言えばデスクの天板と一体になるようなかたちに進化していくと嬉しいですね。
また別のシーンとして、ふたりにはプロジェクトの初期段階におけるスケッチやスタディでも使ってもらいました。こういうシーンでは、例えば「この柱はこれくらいの太さにしよう」とか、「ここにオーニングを付けよう、ここに木を植えよう」というような検討を、トレーシングペーパーを重ねるようにたくさん描くことで最終的なイメージを詰めていきます。

 

 個人的に私は初期のデザインスタディなどでペンタブレットがとても威力を発揮するように感じました。検討用に描いたデータを取っておけるし、間違えてもすぐに消せるのが便利ですね。
さらに別のシーンとして、外注先に描いてもらったパースをチェックする際に使ってみました。いつもは先方から送られてきたデータを出力し、それに指示を描き入れ、さらにスキャンして送り返すという手間をかけていました。しかし、今回は送られてきたデータにそのまま指示を描き込んですぐに返信できるのでとても楽でした。こういうチェックはメモ描き程度で十分なので、ペンタブレットだと「ここはOK」とか「ここは駄目」といったかたちで指示を直感的に描き込めるところが便利だと感じました。また、書き込んだ上でデータをやり取りするので、電話とは違い記録が残せます。修正前と修正後のデータの照らし合わせも楽に行え、無駄なやりとりとミスを少なくすることができると感じました。

 

光井 確かにそれは便利ですね、しかし、送ってもらったデータをスケッチプログラムで開いて描き込み、返信するということはiPadでもできるよね。

 

 ええ、できます。でも私がiPadなどと比較してペンタブレットが魅力的だと感じたのはPhotoshopが使える点です。さっき原さんがPowerPointと連動できるのが良いと言ってましたが、こういうPCのアプリケーションの利便性をさらにアップできるのがペンタブレットの良いところだと思いました。建築設計事務所の場合、パッと手で描き込みたいというシーンが多いので、特に役立つデバイスだと思いました。


動画3:外注先とのやり取りではデータにそのまま指示を書き込んで送信(使用アプリ:Photoshop)

次世代の設計環境に繋がる可能性

 今回いろいろ使わせていただいた中で、こういう可能性もあるのではないかと思ったのがプレゼンテーションツールとしての使い方です。クライアントにデザインコンセプトをご説明する際に単にスライドを見せていくよりも、その中でちょっと手で描いたりするアクションを取り入れることで、説得力のあるプレゼンテーションができるのではないかと思いました。

 

光井 なるほど。そういうのもアクティブなやりとりができて面白そうですね。

 

 私が可能性として感じたのは、将来的にCADがペンタブレットでも描けるようになると面白いのではないかということです。少し前まで建築の図面はすべて手描きだったわけです。それがPCとマウスで図面を描くことがあたり前になった結果、手描きの時代を知るベテランの方々からは「若い人はCADで図面を描くのでスケール感覚が分かっていない」と言われたりします(笑)。もしペンタブレットのペンでCADの図面が引ける環境が実現できるとまたちょっと面白いことが起こるような気がします。

 

 それは面白いね。いつもはマウスでやっている3次元モデリングソフト「SketchUP」の作業を試しにこのペンタブレットでやってみましたが、ダイレクトに描けるのが面白い。(動画4) 将来的にはCADの発展にも関わると思いますが、例えば「ああ、こういうデザインにしようか」とフリーハンドでイメージを描いたラフなスケッチと、きっちり引かれた寸法入りの図面がペーパーレス環境の中で共存すると、思考と試行を行き来できる理想的な設計環境になりそうですね。昔の建築家がスケッチをトレーシングペーパーに、図面を製図用紙に描いていたことを同時にできるようなことが実現するかもしれません。


動画4:ペン主体のデザイン環境が実現できると面白い(使用アプリ:SketchUp)

道具としての進化を期待

 そういう理想的な設計環境を実現するためにも、将来的にはマウスと同じようにペンタブレットのペンだけでもPCのあらゆる操作が直感的にできると良いですね。

 

 私が欲しいのはマウスのホイールスクロール機能です。クリックなど、マウスの基本機能はすでにペンに実装されているので、後はこれが3D CADペンのように使えると、もしかすると建築設計事務所からマウスがなくなる日がくるかもしれない(笑)

 

光井 それにはバランスや描き味など、道具としての使い心地がもっと進化して欲しい。鉛筆などの文房具はそれこそ何百種類もあって、いろいろ試してみて自分の好みにあった描き心地のものを購入するわけです。私たちは建築家ですので綺麗な線が描ける道具にこだわります。だから鉛筆などの文房具が何十年、何百年かけて進化してきた「使い心地」の面でペンタブレットもより進化して欲しいと思います。

 

 そういう使い心地や機能などが違うペンが選べても面白いと思います。そういう「かゆいところに手が届く」部分がペン自体にあったら良いですね。

 

光井 そうですね。確かにコンセプトをスケッチする人、クライアントやスタッフと意識共有する仕事が多い人、図面やパースを専門的に描く人ではおのおの求めるものが違うかもしれない。そう考えると建築設計事務所の中にもさまざまな業務や役割があるので、そういったあらゆるシーンにフィットしつつ、求められる要求を満たすことができれば、今後ペンタブレットはこの業界に欠かせない存在になるかもしれませんね。


光井純&アソシエーツ建築設計事務所
ペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパン

http://www.jma.co.jp

光井 純(Jun,Mitsui)

1978年に東京大学工学部建築学科を卒業後(辰野賞受賞)、岡田新一設計事務所で4年間勤務し、イェール大学建築学科大学院に進学。84年 にAIA学生 賞および最優秀作品賞(HIフェルドマン賞)を受賞して修士号を取得。その後シーザー・ペリ&アソシエーツジャパン(現ペリ クラーク ペリ アーキテクツ)米国建築事務所で勤務後92年に帰国し、ペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパンを創立した。現在は光井純&アソシエーツ建築設計事務所と両社の代表取締役として、また日米両国の登録建築家として国内外の様々なプロジェクトに取り組んでいる。
2007年にはAIAジャパンの会長も努め、グッドデザイン賞、BCS賞など受賞多数。


黛 直矢(Naoya,Mayuzumi)

1981年
神奈川県生まれ
2004年
日本大学理工学部建築学科卒業
2007年
イーストロンドン大学 建築デザイン学科卒業
2015年~
ペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパン
光井純&アソシエーツ建築設計事務所
両事務所のアソシエイトとして業務を行う


原 一樹(Kazuki,Hara)

1985年
茨城県生まれ
2009年
首都大学東京都市環境学部建築都市コース卒業
2009年~
ペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパン
光井純&アソシエーツ建築設計事務所
両事務所のアソシエイトとして業務を行う


【お問合せ先】 株式会社ワコム
URL:http://tablet.wacom.co.jp/biz-design/inquiry/index.html

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