2014年12月20日、東京駅が開業100周年を迎え、メディア等を通じて日本中の大きな話題を集めた。この東京駅の「丸の内駅舎」を2012年に創建時の姿への復原の設計を行ったのがジェイアール東日本建築設計事務所(以下、JRE設計)である。
今回のARCHI REVIEWではこのJRE設計でプレゼンテーションなどを担当するプレゼン推進室にお邪魔し、「丸の内駅舎」のパース等も手掛けられた同社設計長の青城伸太郎氏に、Wacom社の最新液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」を実際の業務の中で使っていただいた感想をお伺いした。
青城 伸太郎氏
――今回、液晶ペンタブレットを使ってみた感想をお聞かせください。
青城 「ペンタブレットって随分進化したな」というのが私の第一印象ですね。プレゼン推進室という部署は、建築そのものの設計ではなく、パースなどを手掛けるのが主な仕事です。もう10年くらい前になりますが、私たちの部署でも一時期ペンタブレットを使っていたことがありましたが、今回久しぶりに使ってみて、昔を知っているだけに、その感度や追随性、そして筆圧の反映などがすごく進化しているのを感じますね。感触として、よりアナログ機器に近づいていると言うか……。また今のペンタブレットには液晶がついているので、PCのディスプレイにアプリケーションのキャンバスをすべて出して、ペンタブレットの液晶には絵だけを表示してそのまま描くという、違和感のない自然なスタイルで作業できるようになったので、「描くこと」により集中できるようになりましたね。液晶ペンタブレットは一度慣れてしまえば、入力デバイスとしてとても便利だと思います。
――実際の業務のどのようなシーンで液晶ペンタブレットが活躍しそうですか?
青城 まだディテールまで決まっていないプロジェクトの初期段階において、お客様へのプレゼンなどに使う「手描き風のパース」を描くときに便利そうだと感じました。実際、設計の担当者から私たちプレゼン推進室に、こういう「見る人がイメージを膨らませやすいパースを描いて欲しい」という依頼は多いのです。例えば建物のボリュームくらいしか決まっていないときにCGでイメージをつくると、まだ検討が必要な部分も含めてある程度リアルな絵ができてしまいます。CGの良さが逆に「かっちりしすぎている」という問題を生み出すのです。また全体がリアルなCGの絵に対して、ある部分だけぼかしを入れてもおかしくなる。だからこういう段階では全体的に手描き風にするのが理想的です。昔は要望に応じてスケッチをさらさらっと描くパース屋さんが結構いたのですが、今ではそういう方はほとんどいなくなってしまいました。そこでCGを加工して手描き風の絵にするのですが、このときマウスをごそごそ動かしても自然な線はなかなかうまく描けない。だから手で描いた跡を出すという部分でペンタブレットを使うのは良いですね。
――そのようなシーンではどういうアプリケーションを使いますか?
青城 基本的にはPhotoshopを使うことが多いのですが、最近私が注目しているのがPiranesi(ピラネージ)という3次元ペイントレンダリングツールです。Piranesiは簡単に言うと原図を描いた3次元CADの奥行きや素材情報を保持した画像加工ソフトです。だから建物のCGに人や樹木といった点景を入れる際にも、自動で認識される地面の好きなところにそれら点景を配置すれば、遠近法で勝手に拡大・縮小されるという優れものです。また画像のある範囲を選択したいと思ったとき、Photoshopでは色で選択するしかありませんが、Piranesiでは例えば画像の中のガラスだけを一括して選択することができます。こういう非常に使い勝手が良いソフトですので、今後はこれを使うケースが増えそうですね。
――実際に、Piranesiを使って、液晶ペンタブレットで「CGを手描き風のパースにする」作業を少し見せていただけますか?
青城 ええ。まず1つ目の方法として、元のCG画像の上に新規レイヤーを置き、透明設定を少し適用します。するとぼやっと下の絵が描写されるのでそれをなぞって描くというやり方です。昔で言う「トレース」ですね。
ただ、これだとチマチマ描かないといけないので割と大変です。そこでもう1つの方法。このPiranesiのすごいところは一発でアウトラインが描けるのです。これでアウトラインをつくる。でもこのままだとちょっと線が硬いですね。そこでその上にもう1つレイヤーを重ねて、手描き風の線を描き足していくことでスケッチのようにすることができます。少しパースっぽくするならはみ出し線を描いたり、上からなぞって少し震えた線にしたり……。さらにPiranesiのフィルターをかけて、水彩画や鉛筆画、セピア調など、さまざまなテイストにするという手法も使います。こうした描き方や機能を駆使して、手描き風の絵をつくっていきます。
絵柄にもよりますが、こうした仕事は通常、マウスを使って数時間で仕上げていますが、液晶ペンタブレットを使えばもっと時間が短縮できそうな気がしますね。マウスは「ちょん、ちょん」と鉛筆のように垂直に細かく動かすことができないので、ぐりぐりっと動かさざるを得ない。だから少し失敗したらマウスを動かしはじめた部分からやり直す必要が生じます。液晶ペンタブレットだと鉛筆と同様の動きができますし、手が疲れることもありません。マウスを使っていると仕事柄、腱鞘炎になっちゃう人も多いのです(笑)。
――今後、液晶ペンタブレットのこの部分がさらに進化するとより仕事に活かせそうだ、というようなご要望はありますか?
青城 今回、最新の液晶ペンタブレットを使わせていただいて、確かに10年ほど前と比べて各段に進化したのを感じましたが、感度が良くなったとはいえ、描き味の点でさらに良くなりそうだと感じる部分もあります。
また、私たちのような仕事をしている人間が、例えば「自然な線のデータが欲しい」と考えたとき、さっと手元の紙に鉛筆で描いて、スキャンしてデジタル化するのと、液晶ペンタブレットを使うのでは、まだまだ前者を選ぶ人が多いように思います。それは慣れの問題もありますが、現状で液晶ペンタブレットを使う場合、ブラシを選択したり、その太さをスライダーで変えたり……と鉛筆で描くときにはない操作が必要なためです。
だからデジタル環境に完全に変わるためには1番目に描き味、2番目にソフトなどの環境面の進化でしょうか。このあたりが変わってくると、卓上の鉛筆とスケッチブックが液晶ペンタブレットに完全に置き変わる時代がくるかもしれませんね。
ジェイアール東日本建築設計事務所
青城伸太郎(Shintaro,Aoki)
設計本部 プレゼン推進室 設計室長
2004年 入社
【お問合せ先】 株式会社ワコム
URL:http://tablet.wacom.co.jp/biz-design/inquiry/index.html
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