ARCHI REVIEW

第001回 ARCHITECTS REVIEW


noiz architects

東京と台北を拠点として、建築からインテリアデザインまで幅広い分野で活躍している「noiz architects」。コンピューテーショナルなデザインアプローチで話題のこの事務所に、この夏持ち込まれたのが、Wacom社の液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」。
以前からグラフィック業界で好評を得ているこのシリーズ。建築デザインの最前線ではどのように使われるのか。東京目黒にある「noiz architects東京オフィス」で、ひと夏、使い込んでいただいた印象を、ノイズの豊田啓介氏と大野友資氏に伺った。

nois architects 事務所にて、豊田啓介氏(左)と大野友資氏(右)。

動画1:グラスホッパーのスライダーを操作

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身体的な距離感がとても大事

――「noiz architects」でペンタブレットはこれまで使っていらっしゃったのですか?

 

豊田 いえ、今回お借りしてはじめて使いました。ペンタブレットはグラフィック関係とか、2次元の分野ではすでに多く使われていますよね。だから僕たちも最初、建築パースのような仕事で使おうかと思っていました。でも実際に触ってみて直感したのは、「これは3次元モデリングなど、設計の仕事に向いている」ということでした。それで実際に何カ月かプロジェクトを進める中で使ってみたのですが、結論としては「これは良い!」という印象ですね。

 

大野 僕たちは3DグラフィックソフトのRhinoceros(ライノセラス)に、インターフェースとしてGrasshopper(グラスホッパー)というプラグインを組み込んで使っています。この環境は欧米の設計事務所ではすでによく使われているもので、現在、日本でも急速に広まっています。
以前はこれをデュアルディスプレイに映してキーボードショートカットを駆使しながらマウスで操作していました。今回、液晶ペンタブレット、Cintiq 13HDをお借りしていろいろ試した結果、今は右にマウス、左にキーボード、そして真ん中にCintiq 13HDを置いて、ふたつのディスプレイと合わせて「トリプルディスプレイ」的に使うのがいちばんやりやすいと分かりました。

 

豊田 Cintiq 13HDを主に「画面に描き込む装置」というよりは「手元のコントローラー」として使ってみたのですが、マウスを使っていた頃に比べて複合的な入力ができるようになりましたね。

 

大野 グラスホッパーは回路をつくった後、各種設定のスライダーを調整するという流れで作業を進めます。例えばあるプロジェクトで法的に緑化しなければいけない面積が決められているとします。この場合、スライダーを動かすことで面積は規定値のまま緑化部分のかたちなどについての検討ができるのです。この動作は、手元にあるCintiq 13HDの液晶にスライダーのウインドウを表示して、ペンでやるのが断然にやりやすい。(動画1) 前は片方のディスプレイにスライダーを表示して、そこにマウスでカーソルをもっていってスライドさせていました。でも、こちらの方が圧倒的に目と手を動かす必要が少なくて、細かいスライダーの動きもやりやすい。僕たちの仕事ではこういう身体的な距離感というのがとても大事なのです。「持ち替える」とか「目を離す」という動作は作業上大きなロスになりますし、ソフトに対して「こちらがコントロールしている」という快適さにも繋がりますからね。
グラスホッパーだけでなく普通にモデリングを行う際も、Cintiq 13HDは自分のイメージに沿った曲線を描くことができるので便利です。


動画2:線入力で軌跡を描ける様子

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泳いでいるような操作感

豊田 点入力じゃなくてIllustrator(イラストレーター)のように線入力で軌跡を描けるのが良いですね。(動画2) 手書きにより近い、自分の描きたいなめらかさが出したいときはマウスよりペンタブレットの方が圧倒的にやりやすい。
あとグラスホッパー側とライノセラス側でよく使うコマンドなどもショートカットに設定できるというところも気に入っています。

 

大野 いろいろカスタマイズして、メニューなども自分でキーを当てて使っています(笑)。

 

――すごい! 使いこなしていらっしゃいますね。

 

大野 ええ。マウスから乗り換える際には「ホバリング(画面上にペンを浮かせた状態)の距離感に慣れる」というところがいちばん大きいかと思いますが、僕は2日くらいで慣れました。こういう機器はハードルが高いとなかなか使おうと思わないですから、忙しい仕事の合間でも試せる敷居の低さは重要です。
マウスとは操作感がぜんぜん違うので、仕事を進めるときの感覚もちょっと変わりましたね。何と言うかもっと「泳いでいる」というような感じでしょうか。(動画4)


動画3:メモ入力

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直接手書きができるメモ入力

豊田 ウチではスタッフ皆がマウスとかトラックボールとか、各々入力装置を工夫して使っているのですが、微妙な入力というのはこれが一番でしょう。大野の作業を見た他の連中は「ずるい」って言っています(笑)。僕としては直接「手書きができる」というところがとてもありがたいですね。東京事務所でつくったファイルを台北事務所に渡すとき、以前は別に指示書のテキストをつくっていたのですが、直接指示を書くことができるので、意識の共有が楽になりましたね。最初にこれを受け取ったとき、相手はとても感動していました。(動画3)

 

大野 受け取ったファイルに対する指示や注意書きがメールやテキストファイルになっていてもなかなか頭に入らないのですよ(笑)。具体的な場所に手書きで「これはね……」と書いてあるとすぐ理解できるのです。


触感やニュアンスを入れられる入力デバイスとは

――作品をつくる際はどのようなことを考えていらっしゃるのですか?

 

豊田 今、コンピュータ関連の技術やツールが劇的に変わってきています。そしてこれをベースにしてつくる建築というものも、今後、技術的・物理的に従来と大きく変わってくると思います。またそうしてつくられる建築からフィードバックされるかたちで、建築を設計する側の感覚や価値観というものも根本から変わっていくでしょう。そういう感性がデザインにどういう影響を与えるのか、というところに興味があります。だから僕たちはそれがうまく出せるようなソフトウェアやハードウェア、そして施工技術の組み合わせについて追求し続けています。その作業の結果をまた次にフィードバックする。そういう行き来を経験値として積み上げたいというのが今意識しているポイントですね。
新しい技術やデバイス。それによって出来る建築。そして僕たちの感覚。これらがお互いに影響し合ってズレていく。そのズレをどうにか視覚化したい。僕らで知覚したい。そういうことが面白いと思って活動しています。
そういう意味で、これだけ僕らの触感というかニュアンスを入れられる入力デバイスはこれまであまりなかったですね。


動画4:ホバリング

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効率」から「発想」へ

――頭に浮かんだイメージを入力するときに出来る限りストレスがない方が望ましいという事でしょうか?

 

大野 そうですね。今回Cintiq 13HDを使ってみて、マウスでやっていた頃といちばん違うと感じたことは「効率」という面よりも作業しているときに浮かぶ「発想」ですね。だからこれを使い続けるときっと出てくるデザインもマウスを使ったときに考えたものと違ってくるのだろうと思います。そういう意味で鉛筆やペンと同じようにCintiq 13HDは道具の選択肢として今後欠かせないものになるのでしょうね。
将来的な話をすると、今パソコンでは「マウスジェスチャー」でウインドウを並べたりするアクションができますが、その空中版みたいなことがペンタブレットでホバリングしながらできると便利で良いでしょうね。あと、折り畳んでどこにでも持ち運べる「マット」みたいになるとか。ペンで画面内の物を触るとバイブレーションとかで「触感」が分かるようになる、とか(笑)。そういうペンタブレットも早くできないかと思っています。

 

豊田 でも僕が若い頃に比べるとずいぶん便利になりましたよ(笑)。僕は実施図面をT定規で引いたりしていましたからね。でも、当時は頭の中で立体の建物ぐるぐるまわして紙に図面化していたわけで、今も全然違うことじゃなくて、思考自体は似たことをやっているわけです。ただリアルタイムに試行したり、アウトプットしたりすることで出口が広がった、ということなのでしょう。建築の世界はこれだけ3Dグラフィックソフトが使用されていますし、その中で僕らは空間を微妙なタッチで動かしたいと思っています。そういう意味でデバイスという環境面においてマウスでは確かに限界がありました。今回使わせてもらったこの製品は、3Dグラフィックソフトとの親和性がとても高い魅力的なインターフェースだと感じました。


NOIZ ARCHITECTS

http://www.noizarchitects.com/

豊田啓介(とよだ・けいすけ)

台湾国立交通大学建築研究所助理教授
東京藝術大学芸術情報センター非常勤講師

1972年 千葉生まれ
1996年 東京大学工学部建築学科 卒
1996年~2000年 安藤忠雄建築研究所
2002年 コロンビア大学建築学部修士課程(AAD)修了
2002年~2006年 SHoP Architects
2007年~ PresentJia-Shuan Tsaiと共同で設計/デザイン事務所noizを主宰


大野友資(おおの・ゆうすけ)

RGSS共同主宰
東京芸術大学藝術情報センター(AMC)非常勤講師

1983年 ドイツ生まれ
2006年 東京大学建築学科卒業
2008年 Joao Luis Carrilho da Graca Arquitectos (ポルトガル)
2009年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了
2009年~ 現在、ノイズアーキテクツ


【お問合せ先】 株式会社ワコム
URL:http://tablet.wacom.co.jp/biz-design/inquiry/index.html

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