インタビュー

第23回 A. 提案部門 最優秀者インタビュー 原田雄次氏

今年で24回目を迎える日本電気硝子の「空間デザイン・コンペティション」。昨年、本コンペの提案部門で最優秀賞を受賞された原田雄次さん(スミルハン・ラディック建築設計事務所/チリ)にお話を伺いしました。

原田雄次氏

「空間デザイン・コンペティション」(以下、空間デザインコンペ)に応募されたきっかけをお聞かせください。

原田

私はチリの首都サンティアゴにある設計事務所に勤務しています。大学院を卒業後、インターンでチリに渡り、気に入ってそのまま現地で働いて5年になります。昨年、日本のコンペにも挑戦してみようと思い、いろいろ見ている中で目に留まったのがこの空間デザインコンペでした。
このコンペに興味を惹かれたのは「しなやかで強い社会の建築とガラス」という課題が面白そうだったからです。チリでは日々、実務的な仕事に携わっているので、それと違うチャレンジも良いのではないかと考えて応募しました。
また小嶋一浩先生の存在も大きな理由のひとつでしたね。以前、小嶋先生が大学のワークショップでチリやブラジルにいらっしゃったときにお会いしたことがあり、その小嶋先生が審査委員長を務めるコンペということが私の大きなモチベーションになりました。

「ガラスで防潮堤をつくる」というアイデアはどのようなところから生まれたのでしょうか?

原田

チリは国土が縦に細長く、南北で気候風土がまったく異なります。そういう中の風光明媚な場所に別荘をつくることがチリの建築家の大きな仕事のひとつなのですが、そうした仕事に携わる中で「自然と人の住む環境を建築で繋ぐ」ということが個人的にとても面白いと感じてきました。
だから、このコンペの課題の「社会」という言葉を目にしたとき、「人が住む社会」と「自然環境的な社会」をガラスで結ぶことがイメージとして最初に思い浮かんだのです。そこからどういう提案ができるのか考える中で、少しずつ「防潮堤」という方向に進んでいきました。

チリでの仕事や生活が提案に影響しているのですね。

原田

私がチリに渡ったのは3.11のすぐ後です。その後の復興の様子を海外から見守っているわけですが、その中で防潮堤が建ち、そこに住む人々の暮らしと海を断絶する復興のかたちに違和感を覚えました。
日本と同じくチリも地震大国ですので、歴史的に大きな地震や津波の被害を受けています。チリの場合は津波によって街が被害を受けても、例えば街をセットバックして復興し、海との間に緩衝地として森をつくるなど、自然と調和する復興のあり方を選択しています。純粋に日本と比べると予算が少ないという問題もあると思いますが、チリ人の国民性として美しい景観を愛しているということもベースにあると思います。こういう「関係を断絶しない方法」がないかと考える中で、今回、うまくマテリアルと合致したのだと思います。

原田雄次氏

受賞後についてお聞かせください。

原田

提案そのものが最優秀賞をいただいたのはもちろんですが、私の受賞コメントに対して審査委員の中山英之先生から評価をいただいたことが個人的にとても嬉しかったです。また人づてに五十嵐太郎先生からもそのような評価をいただいたというのを伺い、とても励みになりました。

ガラスという素材にどのような可能性を感じていらっしゃいますか?

原田

ガラスは脆い素材です。今回のような提案が実際の災害に対して人々を守る強度をもつかというと、現状では難しいと思います。しかし、透明で脆弱な素材だからこそ、風景と繋がることができるわけです。今後、実際にこういう風景やランドスケープを生み出す可能性をガラスは秘めていると思います。「土木というとコンクリート」というイメージがありますが、それが違う素材に置き換わるだけで景色がガラッと変わる。ガラスという素材には、そういう大きな可能性があるように感じています。

今年応募する皆さんへメッセージをお願いします。

原田

今年の「かわいいガラスブロック」という課題は、昨年の社会的なテーマとはまた違った面白さがありますね。イメージとしては曲線の多い「形としてかわいい」提案が多く出るのかなと思いますが、そういうもの以外の「かわいさ」ってどういうことがあるのだろう、という部分が気になっています。むしろ私も考えてみたいですね(笑)。パッと見のかわいさを一歩超えたもの、それが何かは分かりませんが、それでハッとさせられるようなアイデアとガラスブロックがもつ素材感のようなものがうまくミックスできると面白い提案になるのかなと思います。

ありがとうございました!

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