審査講評
審査員
東 利恵 建築家/東 環境・建築研究所代表取締役
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この2年、コロナの長期化など、数年前までのグローバル化した世界への期待が急激に萎んでいきネガティブな方向に向いていることを強く感じている。建築界でもウッドショックと言われるような一部資材の高騰をはじめ建材や人材の不安的な状況が深刻になっている。しかし環境への負荷を減らす努力はどのような社会の変化があろうとも続けて行かなければならない。木という素材は、建築の資材としてCO₂削減の解決に大きく貢献する可能性を持っている。今年も数多くの大規模、または中層の木造建築の応募があり、評価すべき作品に恵まれたことを感謝したい。一方ではこれから建てられていくものに木造の可能性を示してくれる建築が社会の変化に負けずに生まれ続けてくれることを願ってやまない。
腰原 幹雄 東京大学生産技術研究所教授
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今回は中層木造部門、大型木造部門として応募数も増え、中層木造建築の多様性とともに、要素技術の挑戦と洗練の方向性が見られた。建物の規模、用途をある程度絞ることによって、これまで試行されてきた木造建築の技術を取捨選択し、最適な統合をすることが可能になったため、標準的な技術の意識が高まりプロジェクトの経済性も向上してきたように思われる。いろいろなプロジェクトチームが、特徴ある中層木造建築、大型木造建築をひとつひとつ実現することによって業界全体で、木造建築の可能性を提示していくことを期待したい。そのためにも、今回受賞した建物を含め、新しい木造建築の実物を体験して、良い技術を体験、習得して、まずは真似してみることから始めてみてはどうだろうか。
原田 真宏 建築家/芝浦工業大学教授
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今回のCOFI木造建築アワードは第4回を数えるそうだ。その回数に比例してか、これまでの回に比べても、レベルの高い作品が多く揃ってきているように思われた。2010年に公共建築物等木材利用促進法が制定されたことに象徴されるように、この頃から木造化のムーブメントが大きく動き始めたわけだが、以前はどこか「木材で大規模建築を実現すること」自体が目標化していた感があった。しかし、今回の受賞作を見渡すと、音環境であったり、敷地の効率的な活用であったりと、木造であるからこそ獲得できた「新しい建築の価値」が数多く見受けられた。つまり、木造であることは「目的」ではなく、あくまでより良き建築を実現するための「手段」へと発展的に転じたのだろう。次回以降も、この「木造だから可能になった新しい建築の価値」を目にすることが楽しみである。「手段としての木造」が本格化するこれからが面白い時期だと考えている。