審査講評
審査員
東 利恵建築家/東 環境・建築研究所代表取締役
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前回の2018年度に比へて、構造的、デザイン的な挑戦は少なくなった印象だが、一方では、ホテルや福祉施設などの応募が増えて、木造ならではの特性が施主側にも採用するだけの説得力のあるものになっている計画が増えた。私自身、中層規模の建築で木造を施主に勧めた時に、最終的にネックになってくるのは経済性だ。環境的理由だけではなかなか実現しない場合、こういった工期の短縮、厳しい施工条件など本質的な中規模木造の意義とは違う切り口でもまず実現していることを評価したい。社会に一つのカテゴリーとして中層木造建築が認識されるためにも増えていくことは大事だと考えている。
腰原 幹雄東京大学生産技術研究所教授
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今回の応募作品をみると、中層木造建築は一定のハードルを超えたように感じた。法整備に対して、耐震技術、防耐火技術、施工技術といった基本的な解決手法が整備され、これらを組み合わせたある意味模範解答のような作品が並んだ。次のハードルは、魅力と普及であり、両者を並走させながら、魅力のためのコスト増と普及技術によるコスト減をバランスさせていかなければならない。プロジェクトが大きくなれば、その采配にも自由度が増すことになり、エントランスホールなどの多くの人々が活用する部分と限定された機能の部分など空間の特徴による技術の使い分けも必要になるだろう。次は、「これぞ木造」という中層木造の固有の魅力的な空間の提案も期待したい。
原田 真宏建築家/芝浦工業大学教授
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本アワードも3回目となって、いくつかの定石が生まれてきたようだ。それは例えば下層階をRC造とし上層階を木造にした老人ホーム等の「福祉施設」のように、居住空間として慣れ親しまれた木造ならではの穏やかな空間構成について、経済効率を伴う合理性が施主等に共有されたことによるのだろう。これは一つの成果である。そして更に、木造ならではの「容易な建て増し」に着目した作品や、縦型木造アパートとでも呼び得るような「事業の小規模性」に着目した作品など、今後、定石化する可能性のある様々な方向性の新たなトライアルが見えてきたことも収穫であった。更に多くの有用な定石を生み出す、新たなトライアルの発表・共有の場として、 COFI中層木造建築デザインアワードには期待したい。