世界の建築は今 No.139

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2017/04/27 17:00

The Visual Arts Building at the University of Iowa (Iowa, USA)

アイオワ大学ヴィジュアル・アーツ・ビル(アメリカ、アイオワ)

Design : Steven Holl
設計:スティーヴン・ホール


アート学科間のインタラクションを可能にしたアート・ビル

アイオワ大学のキャンパスには、かつてスティーヴン・ホールが2006年に設計した「アイオワ大学ウエスト・アーツ・ビル」がある。赤茶色のスティール外壁をもつ建物は、ランドスケープの中で四方に手足を伸ばした平面形をもち、新しい「ヴィジュアル・アーツ・ビル」はこのビルの北西側の近隣に位置している。

2006年に完成した「ウエスト・アーツ・ビル」は水平的多孔性をもち、平面的な構成を見せている一方、新しいビルは垂直的な多孔性を有しヴォリューム的な構成を取っている。全ての学科間における最大のインタラクション(相互作用)は、ソーシャル動線空間において実現されている。

ランドスケープ自体が曲面を描いて、亜鉛被覆されたコンクリート躯体の「ヴィジュアル・アーツ・ビル」に侵入。建物はえぐられた7つのライト・コート(光テラス)により、インテリア空間に自然光を流し込んでいる。キャンパス・ルートが学内最大の中央コートを縫うように侵入し、大学コミュニティをアート・プログラムにより結束させ、このアート・クァドラングル(大学などで建物に囲まれた中庭)をリッチにしている。

新しい「ヴィジュアル・アーツ・ビル」は1936年のオリジナル・ビルを建て替えたもので、延床面積11,700㎡の中に、セラミックスをはじめ、彫刻、メタル、写真、シルクスクリーン、3Dマルチメディア等の各学科のロフト的なスペースを配している。さらに、大学院生スタジオ、スタッフ・スタジオ、オフィスを含む非常に多機能な建物だ。

今日のアート大学においては、インターコネクション(相互接続)やクロスオーバー(領域横断)は基本的な重要事項だ。ディジタル技術が全ての芸術間のインターコネクションを助長した。ここでの学科間のインターコネクションは、大きなフロア・スラブに開けられた垂直的な空間によってなされている。学生はこれらの縦形空間越しに他学科のアクテビティを見ることができ、それにインタラクトすることができる。

「ヴィジュアル・アーツ・ビル」最大の特徴は、垂直に穿たれた7つのライト・コートに加え、南側と西側の外壁を覆うパンチング・スキンだ。これは細密な無数の穴をもつステンレス・スティール・スクリーンで、亜鉛とガラスによる内側の外壁から約20cm離れて固定されている。これにより、スタジオ内部にソフトな自然光を引き込んでいる。

自然光と自然換気の装置は、”マルチ光センター”による厚いフロア・スラブに組み込まれている。7つの垂直的な空間が、全4階レベルのインタラクションを可能にしている。これらのガラス空間では、床部分がセットバックして配されているのが特徴だ。こうした幾何学的デザインにより、多層なテラスが生まれ、アウトドア・ミーティング・スペースや任意な外部ワーク・スペースができている。

内部階段スペースもミーティングをはじめ、インタラクション、ディスカッションなどを助長するようにデザインされている。幾つかの階段はテーブルや椅子のある広い踊り場で滞留し、また他の階段はソファのあるラウンジ・スペースへと通じている。つまり階段は垂直的なソーシャル・コンデンサー(社会的な情報蓄電器)といわれている。

キャンパスのオリジナル・グリッド・パターンは川に当たって崩れ、有機的な構成となる。「ウエスト・アーツ・ビル」は、こうしたイレギュラーな幾何学を不明瞭なエッジにおいて反映させている。新しい「ヴィジュアル・アーツ・ビル」の方はキャンパス・グリッドをシンプルなプランとして取り入れ、"アート・メドウ”と呼ばれる新しいキャンパス・スペースを限定している。


[図 面]

 

[建築家]

■スティーヴン・ホール 略歴


©Mark Heitoff

1947年 ワシントン州ブレマートン生まれ。
1970年 ワシントン大学建築学科を卒業、ローマで建築を学ぶ。
1976年 ロンドンのAAスクールに学ぶ。ニューヨークに事務所設立。
1981年 コロンビア大学で教鞭をとる。
1993年 「ヘルシンキ現代美術館」国際コンペ最優秀賞
1997年 AIA宗教建築賞、AIAニューヨーク支部名誉メダル、アーノルド・ブルンナー賞、第38回BCS賞
1998年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル、アルヴァ・アアルト賞、クライスラー・デザイン・イノヴェーション賞
2000年 アメリカ文芸アカデミー会員
2001年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル、AIAシアトル支部デザイン賞
2007年 AIAニューヨーク支部名誉賞
2009年 国際建築賞
2010年 RIBA国際賞、ジェンクス賞
2011年 AIAゴールドメダル
2014年 秩父宮殿下記念世界文化賞

 
■代表作

代表作にストアフロント・ギャラリー、ネクサス集合住宅、セント・イグナチウス・チャペル、ヘルシンキ現代美術館、クランブルック科学研究所、サルファティストラート・オフィス、ロイジュウム・ビジター・センター、サイモンズ・ホール、ネルソン・アトキンズ美術館、プラット・インスティテュート・ヒギンス・ホール増築、へリング現代美術館、多孔的スライスド・ブロック、クヌート・ハムスン・センター、リンクト・ハイブリッド、ヴァンケ・センター、海と波のミュージアム、ナンジン・シファン・アート・ミュージアム、Tスペース、成都ラッフルズ・シティ、グラスゴー美術学校セオナ・リード・ビル、アイオワ大学など多数。

Photos and Material: Courtesy of Steven Holl Architects