世界の建築は今 No.124

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2016/01/29 18:00

New Whitney Museum (New York, USA)

ホイットニー美術館新館(アメリカ、ニューヨーク)

Design: Renzo Piano
設計:レンゾ・ピアノ


ハドソン川を見晴らす20世紀アートの宝庫

「ホイットニー美術館」といえば、ナチから逃れてアメリカに渡ったマルセル・ブロイヤーの代表作として知られている。「ホイットニー美術館」そのものは1930年に生まれたが、1966年にマジソン・アヴェニューに完成したブロイヤーの建物に移転した。

当時美術館は20世紀アメリカン・アートを2,000点ほど所有していたが、現在は21世紀アート作品も加わって19,000点ほどに膨れ上がっており、展示スペースの拡張が焦眉の急となっていた。約2倍の広さになった新美術館はニューヨークの活気に満ちたミートパッキング地区にある。ガンスヴォールト通りに面した敷地は、ハドソン川とハイライン高架公園の間という非常に恵まれた場所に位置している。

新しい8階建ての建物は淡いブルー・グレイのスティール・パネルをまとい、シンメトリーを排した自由な形態。これは近隣の工業的な都市景観のキャラクターを反映させたものだ。一番高いミュージアム部分を西側のハドソン川側に寄せ、軽やかな数層に渡るスティール製のテラス群をガラス張り通路でつなぎ、ビジターをハイライン高架公園側へと下らせる構成だ。

「ホイットニー 美術館新館」へは、”ラルゴ”と呼ばれるドラマティックなキャンティレバーの庇をもつ広いパブリック・スペースから入る。”ラルゴ”はミュージアムとストリート間の言わば緩衝地帯として機能する空間で、ハドソン川やハイライン公園への眺めをシェアする中間領域だ。”ラルゴ”からエントランスを入ると、メイン・エントランス・ロビーはパブリック・ギャラリーとなっており、入場無料の展示スペースとなっている。

3階には170席のリトラクタブル・シートを装備したシアターがあり、また同時にハドソン川へのダブル・ハイトの景色を満喫することができる。同じ3階にはオフィスをはじめテクニカル・スペースも配されている。

4,650㎡のギャラリー・スペースは、5階、6階、7階、8階に渡って展開されている。特に5階の展示スペースは1,670㎡の無柱空間で、ニューヨーク市では最大のオープン・プラン・ミュージアム・ギャラリーとなっている。このギャラリーは企画展示用で、巨大な現代アート作品を展示できるヴォリュームをもっていることでも知られている。

常設コレクションは6階と7階レベルに展示されている。これら2層の展示スペースは、広さ1,200㎡のアウトドア彫刻テラス群を生み出すために、西側寄りにセットバックして配置されている。

ミュージアム・オフィス、教育センター、補修研究室、図書読書室は、ミュージアム・コアの北側の3階から7階に配されている。またそこの5階には映画、ヴィデオ、パフォーマンス用のマルチ・パーパス・シアターが設けられている。

「ホイットニー美術館新館」の特徴のひとつにエレベータがある。エレベータに乗るといきなりギャラリーとなるのだ。4基のエレベータはそれぞれ異なっているが、一種のアート・ギャラリーになっており、リチャード・アートシュヴェイガーの「Six in Four」も展示されている。最大のものは幅4.5mもあり、ビジターに異常なほどのサプライジングな印象を与えている。

最上階にはスタジオ・ギャラリーとカフェが配されており、ノコギリ状の屋根形のハイサイドライトから、自然光がこぼれて来る。約1,200㎡もあるアウトドア・ギャラリーは、カスケードのように下って行くテラス群に分散されており、ダイナミックな外部展示やパフォーマンス空間を提供している。これにより「ホイットニー美術館新館」のアート体験は外部にも拡張されている。ここはハドソン川の眺望を楽しめる20世紀アート切っての宝庫だ。


[図 面]

 

[建築家]


©Stephano Goldberg

■レンゾ・ピアノ略歴
1937年 イタリア・ジェノヴァで生まれ
1964年 ミラノ工科大学卒業。フランコ・アルビーニ事務所勤務
1965-70年 フィラデルフィアのルイス・カーン事務所およびロンドンのZ.S.マコウスキー事務所勤務
1970-77年 リチャード・ロジャースと共にピアノ&ロジャースを共同主宰
1977-80年 構造家のピーター・ライスと共同でピアノ&ライス・アソシエイツを主宰
1981年 レンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップを故郷のジェノヴァに設立。
1981年 コンパッソ・ドーロ賞(イタリア)、アメリカ建築家協会(AIA)名誉会員
1984年 フランス芸術文化勲章
1985年 レジオン・ド・ヌール勲章(フランス)
1986年 王立英国建築家協会(RIBA)名誉会員
1989年 RIBAゴールドメダル
1990年 京都賞
1991年 リチャード・ノイトラ賞(アメリカ)
1994年 アメリカ芸術文化アカデミー名誉会員
1995年 高松宮殿下記念世界文化賞
1998年 プリツカー賞
2002年 UIAゴールドメダル
2008年 AIAゴールドメダル

 
■代表作

主な作品に、ポンピドー・センター&IRCAM、メニル・コレクション美術館、フィアット・リンゴット工場再開発、ジェノヴァ港湾再開発、サン・ニコラ・スタジアム、ユネスコ・ワークショップ研究所、関西新国際空港、リヨン国際都市、ハイヤ大橋、アトリエ・ブランクーシ再築、ニュー・メトロポリス、ジャン・マリー=チバウ文化センター、ポツダム広場再開発計画、KPNテレコムタワー、オーロラ・プレイス、メゾン・エルメス、ナッシャー彫刻センター、ピオ神父巡礼教会、 パウル・クレー・センター、ハイ・ミュージアム新館、ピーク&クロッペンブルク・デパート、モルガン・ライブラリー増改築、ブロード現代美術館、ニューヨーク・タイムズ・タワー、カリフォルニア科学アカデミー、ザ・シャード、ホイットニー美術館新館など多数

Photos and Material: Courtesy of RPBW.