世界の建築は今 No.118

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2015/07/31 16:30

The New Bordeaux Stadium (Bordeaux, France)

ニュー・ボルドー・スタジアム(フランス、ボルドー)

Design: Herzog & de Meuron
設計:ヘルツォーク & ド・ムーロン


儀式的雰囲気を醸すモニュメンタル・スタジアム

フランスの都市で日本人にとって、パリ以外でよく知られているところといえば、リヨン、カンヌ、ニース、マルセイユ、ボルドーなどであろう。中でも日本人が好むワインの産地として圧倒的な知名度を誇るのがボルドーだ。建築的にはジャン・プルーヴェの消防署、ジャン・ヌーヴェルの「ホテル・サン・ジェイムズ」、レム・コールハースの「ボルドーの家」など、リッチな建築的風土でもある。

ヘルツォーク&ド・ムーロン設計の「ニュー・ボルドー・スタジアム」は、830,000平方フィートの広さを誇り42,000席をもつ巨大施設で、当地では最大のスポーツ施設だ。彼らはスポーツがもつ精神的な影響力を考慮して、濃いグリーンの環境の中に非常に希薄な寺院のような施設をクリエートした。

無数のスレンダーかつしなやかなコラム群によって支持された建物は、ワイドな大階段によってアクセスするという宗教的とまで言えそうな儀式性を醸している。大階段はその上部に位置するスタジアム席の形態をも決定づけている。飲食スタンドやトイレは、これら無数の柱の間を縫うように配置され、多数の来館者の動きによって活気に満ち溢れる。

広く光に満ち溢れた白亜の「スタジアム」はエレガントな様相を醸している。この種の巨大建築がそのような雰囲気に包まれていることは、建物の幾何学的明快性や純粋性によってモニュメンタリティや優雅さが喚起されていることに他ならない。

広い大階段は内部空間と外部空間の境界を曖昧にしており、階段上に林立する多数のコラム群は、スタジアムへの来館者の出入りに付き添っている印象だ。階段とコラム群の融合により、建物の開放性やアクセスビリティのしやすさを生み出している。スタジアムの透明なヴォリュームは、周辺ランドスケープへと大きく開かれている。その透明性はこのひと握りの土地を、ボルドーの新しい活気に満ちた拠点へと変える全エネルギーや活動力を露わにしている。

デザイン的な特徴は、建物をボルドーの大きなランドスケープにインテグレートさせることであった。そのためボウル・ストラクチュア(観覧席)やコラム群の細やかな幾何学的配置は、周辺ランドスケープにおける樹木や小道などによって形成されたパターンを反映している。建物は湖岸に立つ「ボルドー展示センター」に直近の、オープンでフラットなランドスケープという特殊な場所にある。

ヘルツォーク&ド・ムーロンによれば、「典型的なライムストーンでできた美しい建築やモニュメントを擁する歴史的なボルドーからのインスピレーションは求めなかった。われわれがボルドーのエレガンスとして感じたものの多くは、スケールと材料の統一性や同質性、その正確性と純粋性に起因している。われわれはそれをコピーすることはできなかったが、そこから多くを学んだ。」

ボウル・ストラクチュアがゲーム・エリアを包含しており、その幾何学が観覧者全体に最適の視認性を与え、容量と用途の点において最大のフレキシビリティを発揮している。スタジアムは多機能型で、無数のプログラムを消化できる。ラグビーやサッカーは言うに及ばず、ショー、コンサート、企業イベントなどなんでもござれといったフレキシビリティをもっている。

観覧席部分は上下2層に分断され、それが全周で4つのセクターに分かれており、それらがルーフ・エレメントで覆われている。視覚的に一様なルーフ・スラブの下側(天井面)は観覧者の視線をアリーナへと導き、その大きな開口部から多量の自然光を導入する。観覧者が試合中に気を削がれることのないように、観覧席からは外部が透けて見えるようにはしてない。

ボウル部分はシャープな矩形のエッジを見せる屋根に覆われ、基壇の上に座している。この純粋かつほとんど抽象的なフォルムは、敷地の自然状況に対応したかたちであり、また東から西へと流れる観客移動に対し、明快かつ効果的に対応するためのデザインである。


[建築家]


© Synectics.

■ヘルツォーク&ド・ムーロン略歴
1950年 ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンは共にバーゼル生まれ。
1975年 共にスイス連邦工科大学(ETH)を卒業。
1978年 ヘルツォーク&ド・ムーロン設立。
1987年 ベルリン芸術アカデミー芸術賞。
1988年 アンドレア・パラディア賞。
1994年 ドイツ批評家賞、ブリュネル賞。
2001年 プリツカー賞受賞。
2007年 高松宮殿下記念世界文化賞

 
■代表作

代表作に、「シグナル・ボックス」「ゲーツ・ギャラリー」「リコラ・ヨーロッパ社工場&倉庫」「ドミナス・ワイナリー」「シャウラガー美術館」「バルセローナ・フォーラム」「エバースヴァルデ技術学校図書館」「ブランデンブルグ工科大学インフォメーション・コミュニケーション&メディア・センター」「アリアンツ・アリーナ」「ウォーカー・アート・センター増築」「プラダ・ブティック青山店」「デ・ヤング美術館」「ボンド40アパートメンツ」「ラバン・ダンス・センター」「北京オリンピック・スタジアム」「ヴィトラ・ハウス」など多数。

Material: Courtesy of Herzog & de Meuron


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