世界の建築は今 No.112

淵上正幸(Masayuki Fuchigami / 建築ジャーナリスト)

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最終更新 2015/02/03 13:00

One Central Park (Sydney, Australia)

ワン・セントラル・パーク(オーストラリア、シドニー)

Design:Jean Nouvel + PTW Architects
設計:ジャン・ヌーヴェル + PTW アーキテクツ


イノヴェイティブな究極のヴァーティカル・ガーデン

ジャン・ヌーヴェルがオーストラリアでのデビュー作を完成させて話題になっている。常に建築デザインの限界に挑戦しつづけるヌーヴェルらしいイノヴェイティブな作品だ。今サステイナブル・デザインがとやかく言われる時代において、その一翼を担う垂直ガーデンに一石を投じた斬新なアイディアが光っている。

「ワン・セントラル・パーク(OCP)」の敷地は、シドニーの中央ビジネス街や3つある著名大学のふたつから徒歩10分以内という至便の距離にある。またシドニーにおいてもっとも大きな公共輸送のポイントである中央駅のすぐ近くという地の利を得ている。

元々シドニーという都市は、当初の開発者が”公園都市”のコンセプトで開発したものである。今日この洞察力が、かなり前から高密度化してきたインナー・シティの都市ブロックにおける、混雑緩和の遊離地帯を早急に必要としていることに役立っている。OCPもこの方向へ向けて新しい公園地域をつくり、垂直ガーデンによってその存在をスカイラインで強調している。

建物はオーストラリアのシドニーにあるカールトン&ユナイテッド醸造所の再開発における中核的な建物として完成したもので、外壁に多くの植栽を施したいわゆる”ヴァーティカル・ガーデン”が特徴だ。2棟建つOCPは高い方が116mもあり、世界最高のヴァーティカル・ガーデンとして知られている。建物はフランスのジャン・ヌーヴェルとオーストラリアのPTW アーキテクツとの協働により生まれた作品だ。

2棟の建物はそれぞれ4階建てのポディウム(基壇)から、東棟(33階)と西棟(16階)が立ち上がっている集合住宅タワーである。563戸のアパートメントを擁する建物は、シドニーの都市中心部にハイエンド・リビング・スタイルの居住空間を提供。しかも建物全体はガラス張りの外壁に、巧みに植栽、プランター、グリーン・ウォールを施し建物を包み込んでいる。これは敷地周辺に展開するパークランドのグリーンを、垂直方向へと連続させるコンセプトがベースになっている。

OCPですごいのは、全体で長さ5kmに匹敵する緑溢れるプランターを配しているのだ。これにより恒久的な日影を構成しており、建物の熱負荷を20%も軽減している。さらにプランター以外の、外壁植栽、蔦による日影などにより、さらにヒート・ゲインを植物の種類や場所にもよるが20%も減らしている。だからジャングル・ビルともいえそうな相貌をしはじめている。

例えばメタリックなルーバーなどに比べると、植物は日影をつくりつつ二酸化炭素を吸収し、酸素を生み出す。また都市に放出する熱量はメタリック・ルーバーなどよりはるかに少ない特長がある。数キロに渡るメタリック・ルーバーの掃除やメンテをする代わりに、この集合住宅の会社では植栽の剪定をしたり手入れをする造園家を雇っているから素晴らしい。

OCPはソーラー・エネルギー利用については、上述の植物関係以外では前代未聞の高度なシステムを採用している。まず低層棟の屋上には、”ヘリオスタット”(太陽を追跡しその光を平面鏡で反射させて一定の方向に送る装置)と呼ばれる40機のソーラー・レフレクターが装備されている。他方高層棟の28階、29階あたりには長さ40mのキャンティレバーで巨大なスクリーンが宙に浮いている。ここには”フレネル・レフレクター”が320機配されている。ヘリオスタットでフレネル・レフレクターに向けて反射された太陽光は、今度はフレネル・レフレクターで高層棟と低層棟の間の日影部分に照射される。

垂直ガーデンを売りにしている建物2棟は、外壁周囲に多量のグリーンを配しているが、日影部分の植物は生育が悪くなる。これをカバーするために考案されたのが上述のシステムだ。ヌーヴェルが建物全体に渡って均質な壁面グリーンが育つようにと考えた秘策だ。植物の日影地獄は日向天国へと変換された。だが40mメートルに渡って建物から空中高く突出するこのフォルムは、異常なほどに迫力ある外観デザインを呈している。高所に浮遊した巨大で薄いUFOのごとき物体は、見上げると不安定な佇まいが危なげな印象を与える。

夜の帳が降りるとフレネル・レフレクターは転じてモニュメンタルなアーバン・シャンデリアとなる。暗い夜空を背景に、LEDライトをびっしりと装備した巨大なレフレクターは、あたかも巨大な輝くフローティング・スクリーンのごとき様相を呈して上空に浮かび上がる。昼光の反射をシミュレートしたかのような輝きは、まさに都市のシャンデリアと形容できそうだ。

ルーフテラスからはワイドなオーストラリアのアーバン・ビューが楽しめ、多量の植栽やプールやベンチもあるリゾート的な雰囲気をかもしている。だがキャンティレバーのレフレクターを支持する太く力強いブレースが上部を飛んでいる。OCPはアイディアとテクノロジーがもたらした究極のイノヴェイティブなヴァーティカル・ガーデンだ。


[図 面]

 

[建築家]


©Gaston Bergeret
■ジャン・ヌーヴェル略歴
1945年8月12日 フランス、フュメル生まれ
1967年-70年 クロード・パランとポール・ヴィリリオの助手
1970年 事務所設立
1972年 エコール・デ・ボザール卒業
1983年 芸術文化功労賞、フランス建築アカデミー銀メダル
1987年 フランス建築グランプリ、アガ・カーン賞、エケール・ダルジャン賞
1991年 フランス建築研究所副所長
1993年 AIA名誉会員
1995年 RIBA名誉会員
1998年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル
2000年 ヴェニス・ビエンナーレ金獅子賞
2001年 RIBAゴールドメダル、高松宮殿下記念世界文化賞
2002年 レジョン・ドヌール勲章
2006年 アーノルド・ブルンナー記念建築賞
2008年 プリツカー賞
2010年 レジオン・ド・ヌール勲章
2010年 ウォールペーパー・デザイン賞(ベスト公共建築年間 賞)
2011年 ヨーロッパ・ホテル・デザイン賞
2012年 世界ベスト高層ビル賞
2014年 世界ベスト高層ビル賞

 
■代表作

主な代表作に、ネモージュス集合住宅、アラブ世界研究所、リヨン・オペラハウス改修、カルティエ財団、ギャラリー・ラファイエット、ホテル・サン・ジェイムズ、ルツェルン文化会議センター、ザ・ホテル、電通本社ビル、ガスリー・シアター、レイナ・ソフィア・アート・センター増築、アグバール・タワー、ケ・ブランリー美術館、マーサー40集合住宅、コペンハーゲン・シンフォニー・ホール、ニューヨーク53番街集合住宅、ソフィテル・ウィーン、ワン・ニュー・チェンジ、ハイライズ・オフィス・ビル、ホライズンス・タワー、ボルドーINGフォンシエール・ハウジング、ルネサンス・バルセロナ・フィラ・ホテル、ライフ・マリーナ・イビザ、イマジン・インスティテュート、シャルレロワ警察本署、ワン・セントラル・パークなど多数。

Photos & Rendering: Courtesy AJN & PTW