郊外の住宅地。車道に対して整然と並ぶ戸建住宅郡がつくる街路空間は、どこか人間味がなく、コミュニティの喪失や住人の孤立といった問題を秘めている。また、スマートフォンやWi-Fiの進化は、利便性をもたらした反面、他者と場所を共有することの必要性を喪失させ、前述の問題を助長しているのかもしれない。こういった状況を打開する計画が必要である。
本提案は、街のシンボルとなるような「寄合所」のような場所を計画することで、住人たちが街を知り、見守り、育て、継承していけるようなサイクルをつくる。空間形態だけでなく、そこに住む人や使う人の意識も変えることで、街に活力を与えたい。そして、これから何十年と同じ街で肩を並べて住むことの価値を、集まることの幸せを、実感できるような場を計画する。
「寄合所」は、敷地全体に広がる丘にバラバラと配置された、およそ50もの「小屋」郡から成る、土着的な風景である。
丘に住む人々は、小屋同士をつなぐ多様な傾斜の遊歩道を散歩したり、ジョギングしたり、駆け回ったりしながら、健康な生活を営む、広大な丘という庭を街の住人とシェアしながら暮らす毎日は、発見の連続だろう。パブリックな小屋では、趣味の食のシェアによって、世代を超えた付き合いが生まれる。また、子育てや介護、家具作り、野菜作りなどの知恵の共有・伝承が行われ、未来の街づくりの活力が育まれていく。また、街の生きた情報を見ることもできる。土壌や水、大気がどういう状況か、新しい街の仲間、イベント情報、などといった刻々と変わっていく街のありのままの姿を知ることができる。
人々のにぎわいは、丘を伝わって街全体へ流れていく。
どこにいても情報が得られ、人とつながれる現代だからこそ、あえて集まることを促し、住人全員で街を見つめ、育んでいくことで、未来へと継承していくことができると考える。