CRITICISM―審査講評

審査委員長

西沢 立衛建築家/横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA 教授

  • 西沢 立衛
  • 今回はいつにも増して白熱した審査となった。激戦の中で最優秀賞を勝ち取った末松・中林案は、核家族の集合とはまったく異なる新しい人間集合を感じさせる案だ。しかしその案の魅力と同時に、案が持つ有機的・動的空間集合を現実化したかのようなプレゼンテーションが印象深く、高く評価された。優秀賞の茂崎・中野案は、一次審査ではダークホース的存在であったが、最終審査ではたいへん高く評価された。案の詳細がどうこうというよりも、彼らはその若さですでに建築家としてのスタートラインに立っており、彼らのその姿勢、その思想性に私は共感した。入選となった野々村・今井案は、空間構成がもつ透明感、従来の住宅にはないような立体的で自由な関係性が高く評価された。入選の諸江・半田案は、その水平的・垂直的関係性の面白さが評価された。角を空けることで各棟各室が溶け合うようにつながり合う、その有機性が印象的だ。山口・一杉案は、二面道路に着目して中央路地を作り、個と共同体の関係性を作り出す案で、道をれ一体化したかのような住居集合の風景が評価された。

審査委員

今井 公太郎東京大学生産技術研究所 教授

  • 今井 公太郎
  • 今回のテーマは木造一戸建ての集合のあり方を問うこれまでのポラスコンペの不文律を破るものでした。これには木造住宅の形式を0ベースで再構築してほしいという願いが込められています。全610!の提案中、その期待に答える提案が数多く集まり、非常に高いレベルのコンペになりました。

    最優秀案の原子たちのための家は、非常に単純な木造壁システムにより部屋に還元された単位が樹木や敷地境界線の条件によって敷地全体を覆う提案です。良かったのは、接続部と部屋の区別がつかないこと。樹木や庭などの余地がふんだんにシステムに入り込み、部屋なのか接続部なのかが曖昧になることでかえって、全体の連続性が生まれています。

    優秀案の自動記述的なカタチの重なりの考え方も面白かった。最初にデフォルトで与えられる幾何学システムではなく、偶然の形の衝突を、設計時の幾何学の使いこなしや住みこなしの方で活用していくことに重点が置かれた計画です。

    入選案もいずれも良くできており、作品としては、最優秀・優秀と入れ替わってもおかしくはなかったと思います。どちらかといえば、プレゼンテーションでのやり取りを通じて垣間見える深い思考、説明力が伴っていたかどうかが結果を分けました。

    実物件化プロジェクトを含めて、ポラスの学生建築デザインコンペのレベルは確実に向上しつつあり、新たなフェーズを迎えていると思います。今後の展開に期待しています。

原田 真宏芝浦工業大学 教授

  • 原田 真宏
  • 「個が際立つ新しいシェアの街」というテーマでしたから、「個」の扱い方に独自性が出た結果になった気がしています。その視点から言うと最優秀賞と優秀賞を分けた「原子たちのための家」と「自動記述的なカタチの重なり」は対照的な作品でした。

    優秀賞となった「自動記述的なカタチの重なり」は自動筆記という手法によって論理的には得られない幾何形態を得たのちに、これを建築家が地形を読み取るように解釈して生み出された、まさに強い「個」が前提とされた特別な住空間が印象的でした。

    これに対して最優秀賞となった「原子たちのための家」は、むしろ変化なく反復を続けるモノリス的な壁群を住戸に転換していくのですが、その時の「個」は「全体性」に半ば溶け込むような、いわば水溶性の柔らかな「個」が前提とされていて、新しくも懐かしい、しかも(良し悪しは別として)現実的な感覚があり評価しました。

    この2作品をはじめいくつかの作品には、従来の評価尺度を更新しようとする、下手をするとOBショットになりかねないようなリスクを恐れない態度が見て取れ、それが琴線に触れたのではないかとも思います。

    次回も「新しさの尺度自体が新しい作品」と出会うことを楽しみにしています。

中川 エリカ中川エリカ建築設計事務所

  • 中川 エリカ
  • 今年は史上最多の応募作品数だったという。そのことが単に量の増ということにとどまらず、質を飛躍的に向上させているように感じた。対面で行われた2次審査は、例年もそれぞれの審査員の建築に対する立ち位置が明確になる場面があり、とても刺激的なのだが、今年は特に、自分自身の普段の設計に立ち返りながら、より深く批評的な議論が交わされたように思う。応募者・関係者の皆さんにこの場を借りてお礼を申し上げたい。

    「原子たちのための家」は、立米あたりの設計の密度を極限まで上げることによって、4.5畳という単位が身体にとって非常に有効であること、また、小さくとも切れ目なく壮大に連続することによって一人の人間を超える広がりを感じさせて、集まって住むこと、シェアという概念を、空間の関係性で示していた。

    「自動記述的なカタチの重なり」は、使い方に合わせてカタチを作るのではなく、まず先にカタチがあり、人間が集まって空間を読み取りながら使うことによって初めて意味・プログラムが生まれるという、根源的な場のあり方を示した。機能を義務として捉えず、立体が存在すること自体の意味・人間の空間認知に期待するというスタンスに大変共感した。

野村 壮一郎戸建分譲設計本部 設計一部 部長

  • 野村 壮一郎
  • 今年度は「個」と「シェア」という一見相反するように感じる2つの言葉がテーマとして掲げられました。そこには来るべき一人世帯の増加や「住宅地」としての存在意義など、住宅業界の今後の課題が示唆されていました。そのテーマに対し様々な提案を多くの学生さんが出してくれました。「個」を強めた案、「シェア」をベースとした案、またその折衷案など、多様でカラフルなアイデアがありました。

    そのような中で最優秀に輝いた【原子たちのための家】は2730という和の寸法を用いたグリッド状の入り組みを巧みに駆使し、一見単調のように思わせて実は複雑に絡み合った不思議な1棟の「街づくり」の提案でした。また惜しくも優秀賞となった【自動記述的なカタチの重なり】は、600を超える応募作の中で類似のものが見当たらない唯一無二の提案で、建築に真摯に向き合い答えを導き出したものでした。その二つに優劣はなく、ただ【原子】のプレゼンの方が良い意味で広告宣伝的で、建築の世界に留まらないものを感じさせました。

    また11回目の開催というリスタートを切ったこのコンペは、実物件化や3年生以下にもスポットを当てようという試みで、今回からRI賞とUJ賞を新設しました。意欲的に応募して頂いた全ての学生さんたちに感謝申し上げます。また次回も多くの応募をお待ちしています。

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