同じ家が集まってできる街が、必ずしも貧しいわけではなく、豊かになりえることは、町家の例を引くまでもないだろう。しかし、どうしたら豊かになるか、ということについては、少なくとも2つ、クリアしなければならない問題がある。まず「同じ」とは何が同じことをいうのか、ということがひとつで、もうひとつは、街が「豊か」とはどのようなことをいうのか、ということだ。
最終的に残った5作品はもちろんのこと、佳作に選ばれた9作品も含めて、525件もの多数の応募案には、その点でレベルが高いものが多かった。最終審査では、5作品とも、これらの課題に明快に応えてくれただけでなく、模型をつくって臨んでくれた。どんなにドローイングで魅力的に見えても、模型にすると当てが外れる場合がある。だからドローイングに修正を加える。その上でまた模型をつくる。その往還があって案は練られるわけだから、皆が模型とつくってくれたことはうれしいことだったし、またそのおかげでどの案も充実したように思う。
中川涼さんと岸苑美さんの「受け止める余白の家」は、立ち並ぶ同型の家型と、住まいと庭の組み合わせによる各住戸の区分がずれていることで、街の豊かさが生まれるのではないか、という問題意識のありかたがあって、そこがおもしろかった。
大村高広さんの「37 sites | 7 houses —境界線のレトリックー」は、均等配置された原型となる家の平面形と、たまたま与えられる領域分けとが織りなすいわば平面図上の干渉パターンを、創造的に三次元空間に解釈しなおそうとするところがおもしろかった。
道ノ本健大さんと冨安達朗さんの「27のエントランスを持つ街」は、敷地/庭/家という従来の区分ではなく、それらの区分が融解した一種の細胞のような住まいを互いに隣接させ、街にしようとしている。細胞膜にあたる境界面に、窓という多方向に領域の伸ばしえる触手を与えているところがが、デザインの肝である。
齊藤誠司さんと杉浦菜花さんの「ヘヤイエ」は、居間や食堂のような、家の主たる部分をすべて基壇のなかに納めた上で、そこに各住戸ごとに住まい手が必要だと考える小さな同型の家型をアタッチメントすることで、多様性をもたらそうとしているのが興味深かった。
新藤翼さんの「さかさやねハウジング」は、家型をネガの空間として出現させるような住戸単位を並べた案である。その住戸単位のデザインには着実さがあるのが好ましかったが、なによりも、雨が降っている街の情景を、ごくごく具体的に身体的に感じとっているところがよかった。
「ポラス学生・建築デザインコンペティション」も3回を迎え、単に一発勝負のアイデアだけでなく、それを形をもったものとして提案する「建築的」な機会に着実に育ってきていることをうれしく思います。
第3回目になり、このコンペの特長であるアイディア(豊かな生活につながる工夫)とリアリティ(木造戸建ての集積で実現可能なこと)が程よく混ざった提案をすることに、応募者が慣れてきたのかもしれません。応募案の質・量ともに充実した内容になってきました。こうした特長の定着は大変望ましいことだと思います。
入賞者のプレゼンテーションのレベルは高く、ただ絵がうまいだけではなく、新たなライフスタイルをイメージさせることもできたかが問われました。最優秀案は、敷地に馴染むフラクタルな形態の平面を持つ建物のヴァリエーションを用意してテーマに上手に答えたうえで、多数の窓がつくる独特な風景の街路空間がもたらす表裏のない活気のある生活像をイメージさせることに成功しています。優秀案は、バタフライ型の屋根の連続による軒先空間がもたらす、公私の垣根が低い生活像をイメージさせることにチャレンジしています。
他の入賞案の多くも、戸建てどうしの隙間の空間を豊かにすることをテーマとしてアイディアを展開していました。最優秀・優秀案は、隙間だけでなく、本体の豊かさにも踏み込んで提案できていた点が他より優れていました。ただし、両者とも実際にこのまま建てようとすると、多くの欠陥があることは否めません。万能な案は存在しません。次の段階としては、そうした欠点をどれだけ補う提案にできるかが問われると思います。
徐々にレベルを上げてきたPOLUSコンペがさらに発展し、いずれは実施コンペに至るほどにまで成長することを期待しています。
今年で審査員を務めるのは2回目である。今年は去年以上に良質の作品の数が多く、コンペとして充実しつつある印象をもった。テーマは「同じ家が集まる」ことを要請してきた社会に対しその意味の再検討を問いかけるようなもので、委員のひとりとしても興味深いものであった。最優秀の道ノ本・冨安案は5作品の中で最も無理のない案でありつつも、そこから生まれる豊かさに最も可能性を感じた。本コンペは模型の持参ができる二次審査があるので、他のアイデアコンペと違ってごまかしがきかない。そこで選ばれたことはとても大きな意味があると思う。改善すべき点は審査中にいろいろと指摘があったが、二人がそうした指摘を真摯にうけとめて、今後の実作へと結びつけていかれることを望む。新藤案は材料や工法への興味や感覚をしっかりと感じる、今時めずらしい提案であった。同時に概念的でもあった。この案も「アイデアコンペだから」という次元で片付けられないような、実作に結びつくきっかけのようなものを感じた(この案を実作化するべきという意味ではないが)。入選の3作も可能性を感じる点が多く、また佳作の作品もよくできているなと感心するものが多かった。概してレベルが高い、そんな印象を覚えた審査であった。
第3回目のPOLUS‐ポラス‐学生・建築デザインコンペティションは昨年を上回る500案を超える応募のなか「同じ家が集まってできる、豊かな街」をテーマに思い思いの街の風景が提案されていました。
昨年同様、二次審査の模型を交えたプレゼンテーションでは一次審査で分からなかった点が良い意味でも悪い意味でも新たな発見につながり、一定の時間内ではありましたが有意義な議論ができたように思います。
今回のテーマから昨今の画一的で単調な家が建ち並ぶ風景に対して、何ができるのだろうかと学生たちの自由でリアリティのある提案を期待していました。二次審査の案はどれもが、それぞれの着眼点から展開されたクオリティの高い提案で、とても興味深いものでした。しかし、欲を言えば等身大の今の皆さんが考えうる価値観をもっと提示し、新しい未来を感じさせて欲しいとも思いました。
いずれにしても現在の社会で着眼したことを、過去から紐解きながらリアリティを持った秀逸な提案であることには間違いありません。皆さんが今後社会へ出てからも、今回のテーマである豊かな街の風景をつくりだす大切さを思考し続けて欲しいと願っております。
個人的に重視したのは「目的のある建築であるか」ということと、「商品になるか」ということ。それは「人がお金を払ってでも住みたいと思うデザインであるか」に行き着くわけですが、そこに創り手と住まい手とが共有できる「目的と時間性」が加わることで、初めて作品という枠を超えて「商品」になるのだと思います。
「同じ家が集まってできる、豊かな街」―― 解釈の自由度の高さから、応募者にとっては非常に奥の深い課題だったのではないでしょうか。500を超える応募案には、いずれも独自の解釈やカラフルなアイデアがありました。その中でも最終に残った5組の提案は、目的や住まい方が明確に設定されたものもあれば、そういった情緒的なものを排したように思える、ある意味「パワーのあるデザイン」と言えるものもありました。そこに優劣はそれほどなかったと思いますが、ただ開発地の形状から建築を導き出した最優秀の「27のエントランスを持つ街」のように、よりコンテクストのしっかりした案が最終的には選ばれた印象です。
このコンペは学生の皆さんの研鑽の場であると同時に、ポラス側にとっても勉強となる場です。ぜひ第4回への応募お待ちしています。