審査講評

審査員

工藤 和美  建築家・東洋大学教授
審査員 工藤 和美

新たな木造建築の可能性を見出す事を目的とした今回のアワードに、意欲的な作品が集まりました。少し前までは、木造は2階までが主流でしたが、3階の戸建てが増え始めてあっという間に4階、更には5・6階と日本でも着実に広がりつつあります。中層木造を選んだ理由は様々で、ロケーションや用途の違いはあっても、工夫やこだわりを強く感じました。あわせて、発注者の後押しも大切です。中層木造の取り組みが活発になったのは、まだまだ最近ですが、木造利用の促進に益々寄与してほしいと感じます。新しい技術や、職人の手仕事によって快適な空間が地域に広がって欲しいです。今回は2X4工法4階建て以上の縛りでしたが、これからはもっと可能性を広げて多くの作品が集まる事を望んでいます。

腰原 幹雄  東京大学生産技術研究所教授
審査員 腰原 幹雄

中層木造建築は、まだ法整備、技術開発が出そろったばかりの状況である。このため設計にあたっては、既存の技術を組み合わせるだけでなく、設計条件に応じた部材の開発も併行しながら進めていかなければならない。その検討分野は、構造、防耐火、遮音などの居住性、意匠とさまざまにおよび、それらを解決して魅力ある建築を生み出していかなければならない。一方、コスト低減をはかるためには、普及する標準的な技術の整備が必要になる。応募作品では、多くが新技術を適用した挑戦によって実現されているが、こうした技術が、標準的な解法として普及することを図って欲しい。さらに、その先に2X4工法から発展して新たな中層木造建築の挑戦につながることを期待したい。

原田 真宏  建築家・芝浦工業大学教授
審査員 原田 真宏

小規模の住宅ではなく、中規模以上を対象とした木造建築アワードであることに、都市環境の木質化に対する主催者の高い理想を見る思いがする。公共性の高い建築物で木質化が実現されてこそ、実質的な都市環境の変化に寄与しうるからだ。しかし、応募作品数が語るように、法規や経済合理性を含んだ現状では、中規模以上の建築を木造で実現することの総合的なメリットが少ない、もしくは明らかにされていないのであろう。木組を空間に露わすことが法規上難しい中、それを仕上げ裏に隠してまで使うか?と問われると私自身怪しいところがある。そんな中、興味深かったのは高齢者施設の事例が多かったことだ。やはり木組は仕上げ裏にほとんど隠れてしまうが、輻射熱等による熱環境の心地よさは、隠れてはいても木構造の利点であることに改めて気づかせてくれた。木造であることの利点を明らかにし、それを普遍化していく活動として本賞の継続に期待したい。