One New Change(London, UK)
ワン・ニュー・チェンジ(イギリス、ロンドン)
Design : Jean Nouvel
設計:ジャン・ヌーヴェル
「セント・ポール寺院」と都市を結ぶアーバン・インターフェイス
ジャン・ヌーヴェルのイギリス・デビュー作となる「ワン・ニュー・チェンジ」は、ロンドン中心部の「セント・ポール寺院」に面する一等地に建ったオフィス&ショッピング・ビル。ロンドン大火の後、クリストファー・レンによって1710年に完成した高さ111mのバロック建築「セント・ポール寺院」は、圧倒的な存在感でロンドン中心部のランドマークとして君臨している。

建物はニュー・チェンジという通りを挟んで寺院に面しており、その1番地ということで「ワン・ニュー・チェンジ」と命名された。かつては1950年代に建てられた11階建て高さ40mの英国銀行があったが、2007年に取り壊された。それに代わって計画されたヌーヴェルのデザインに対し、チャールズ王子からクレームつくほど、非常にデリケートな敷地であった。

チャールズ王子の批判をかわすために、建物は高度制限などのプランニング規制を考慮し、「セント・ポール寺院」を取り巻く視線を妨げることのないよう十分な配慮を施している。建物は外壁に6,500枚におよぶフルハイトのガラスを使用。そのレッド、グレイ、ベージュへと変化するフリット・ガラス面のシャドウが、クリストファー・レンの傑作の勇姿をかき消すのではないかと、地元当局が恐れていたガラスの反射性を減衰させることに成功している。

ヌーヴェルは地下1階地上6階+ルーフ・テラスの8階建てとし、高さを34mとして建物を低く押さえたが、延床面積52,000㎡というロンドン中心部では最大のショッピング・ビルとなった。そのため低く広く展開する建物は、ステルス爆撃機というニック・ネームを授かってしまった。

ヌーヴェルのデザイン・コンセプトは、当然この大寺院に敬意を表したもので、巧みに視野に取り込んでいる。建物には十字形にアーケードが走っており、北側にあるチープサイド通りと南側のワトリング通りを結ぶのはチープサイド・パッセージ、東側のブレッド通りと西側のニュー・チェンジ通りを結ぶのはニュー・チェンジ・パッセージと呼ばれている。

両者は建物中心部で交差するが、その中央アトリウムは全階吹抜けの高い空間で、パブリックなアート・スペースにもなっている。このアトリウムから「セント・ポール寺院」方向に向かうパッセージは屋根なしのアウトドア空間で、寺院に向けて末広がりに延びている。ヌーヴェルはここで正面に寺院をしかと捉え、かつパッセージ奥には外部のシースルー・エレベータを配し、垂直移動時にも寺院を楽しむことができるよう仕組んでいる。

エレベータで屋上にでるとそこはパブリックなルーフ・テラスで、ロンドンのパノラミック・ビューは圧巻。特に「セント・ポール寺院」は、その堂々たる体躯を誇示して大迫力。反対側には近年完成したレンゾ・ピアノのロンドン最高の超高層「シャード」やノーマン・フォスターの「スイスRe本社ビル」などが近くに見えて、素晴しい景観を楽しむことができる。

「ワン・ニュー・チェンジ」は商業施設ながら、そのスマート・デザインによって、「セント・ポール寺院」と都市を結ぶアーバン・インターフェイスとしての機能を十分発揮している。

 

 
図面
 
建築家
   


©Gaston Bergeret

■略歴

ジャン・ヌーヴェル
 
1945年8月12日 フランス、フュメル生まれ
1967年-70年 クロード・パランとポール・ヴィリリオの助手
1970年 事務所設立
1972年 エコール・デ・ボザール卒業
1983年 芸術文化功労賞、フランス建築アカデミー銀メダル
1987年 フランス建築グランプリ、アガ・カーン賞、エケール・ダルジャン賞
1991年 フランス建築研究所副所長
1993年 AIA名誉会員
1995年 RIBA名誉会員
1998年 フランス建築アカデミー・ゴールドメダル
2000年 ヴェニス・ビエンナーレ金獅子賞
2001年 RIBAゴールドメダル、高松宮殿下記念世界文化賞
2002年 レジョン・ドヌール勲章
2006年 アーノルド・ブルンナー記念建築賞
2008年 プリツカー賞


■代表作

主な代表作に、ネモージュス集合住宅、アラブ世界研究所、リヨン・オペラハウス改修、カルティエ財団、ギャラリー・ラファイエット、ホテル・サン・ジェイムズ、ルツェルン文化会議センター、ザ・ホテル、電通本社ビル、ガスリー・シアター、レイナ・ソフィア・アート・センター増築、アグバール・タワー、ケ・ブランリー美術館、マーサー40集合住宅、コペンハーゲン・シンフォニー・ホール、ニューヨーク53番街集合住宅、ソフィテル・ウィーン、ワン・ニュー・チェンジなど多数。

 

Materials: Courtesy of Ateliers Jean Nouvel