ベチュンヌ集合住宅(フランス、ベチュンヌ)
Design : Frederic Borel
設計:フレデリック・ボレル フランス・デコンストラクティヴィズム建築の急先鋒 |
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1959年生まれのフレデリック・ボレルは、今年54歳。フランス初のプリツカー賞受賞建築家であるクリスチャン・ド・ポルザンパルクの元で修業すること4年で独立。今やフランス建築界の中堅として揺るぎなき地位を確立している。近年フランス建築グランプリを受賞し、いよいよ巨匠クラスへのステップを登り始めた感がある。
ボレルの作品は、師のポルザンパルクの「オート・フォルム集合住宅」のように、垂直性を意識したスレンダーな作品が多い。特に代表作「オーベルカンプ通り集合住宅」や「ペルポール通り集合住宅」のように、極端なほどに垂直的なフラグメンテーションが売りである。ここに紹介する「ベチュンヌ集合住宅」も、その例に洩れない。 ベチュンヌの街はパリから北へ190km。フランス最北部のパ・ド・カレーにあり、ベルギーとの国境にもほど近い位置にある。この街は歴史的な建築遺産の多いところで、街のグランド広場には高さ47mの歴史的な鐘楼が立っている。 「ベチュンヌ集合住宅」プロジェクトは、ベチュンヌの都市を変革しようという政治的・経済的・文化的意志のもとに、品格のある象徴的な建物で、構造的にも新しい建築を都市に拡散させていく計画の一環である。ボレルが2005年のコンペで勝利した建物には、区役所と47戸の住戸が入居している。 「ベチュンヌ集合住宅」は、同市の駅と将来のスケート・リンクの近くで、アルフォンス・オウトルボン通りに面した敷地に、高層ビルとしてその姿を現した。高層ゆえの威圧感から、近隣にある居心地がよく飾り気のないレンガ造りの家々を、圧迫することのないよう配慮された。 高層とはいうものの10階建ての控えめな高さであるが、建物の表層は、垂直的なエレメントによる多数のフラグメント、縦型の長い亀裂や凹み、無数の細長い柱で構成されているため、実際の高さよりかなり高く見える。この誇張された垂直性によって、建物は市内の北側に位置する著名なモニュメントである前述の鐘楼を初め、サン・ヴァースト教会のスラリとしたタワー、市庁舎のホール棟などの歴史的建造物と親しみのある対話を奏でている。 またこの複雑な建物は、同街区のスケールをベチュンヌ市のスケールに一致させる役目も担っている。建築面積となる建物底部は、通り沿いに建つ住居の4軒分を占めており、それにより街の中心部との都市的連続性を確保している。 建物は近隣の住宅群に比べるとかなりの高さがあるので、電車から降りた旅人にはダウンタウン方向を指し示し、ドライバーには街への入口方向を教える、ちょうど標識のような役割を演じるランドマーク性を発揮している。 建物は交差点に建っているが、街路に面する立面形は複雑なことこの上ない。まず目に付くのは、建物上部に大きさの異なる白い縦長のエレメントが垂直に5~6個浮いており、それらの相互間は、これも縦長の窪んだガラス開口部となっている。 さらに複雑なのは、建物の通りに面するふたつのファサードを上下に分節している白いラインだ。これは厚さ1m以上はあろう板状の白いエレメントで、北東側ファサードの8階レベルの北端から左へ水平に伸び、やがて今度は急傾斜で3階レベルまで下り、約1戸分の3階スラブを水平に走り上昇する。5階レベルでまた水平に延び、建物の東端を回って南東側を走り、途中で1階分下降してまた水平に走り南端に至る。 フレデリック・ボレルの建築は、表層に輻輳する複雑な建築エレメント群からフランスのデコンストラクティヴィズム建築と呼ばれているが、「ベチュンヌ集合住宅」はまず経済性を追求する日本の施主には到底提案できないデザインだろうし、逆に芸術の国フランスといえども、よくぞこれだけ恣意性の強い建築が可能になったと羨ましく思う。 |
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