マルティン・ルーサー教会(オーストリア、ハインブルク)
Design : Wolf D. Prix(Coop Himmelblau)
設計:ウルフ D. プリックス(コープ・ヒンメルブラウ) 造船技術を応用した前衛的教会 |
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近年のコープ・ヒンメルブラウの躍進には、目を見張るものがある。「UFAシネマ・センター」「ガゾメータ」「BMWヴェルト」「時と知の博物館」(建設中)、「欧州中央銀行」(建設中)、「釜山シネマ・センター」など、近年の彼らの作品は巨大プロジェクトばかり。そんな中、珠玉の小品ともいうべき前衛的な教会が生まれた。
オーストリア北西部の街ハインブルク。ドナウ川近くの街角にあった17世紀の教会跡地に、「マルティン・ルーサー教会」は3年ほどの年月をかけて完成した。建物はアルテポスト通りとレイラ・ガッセ(細い路地)とのT字路の交差点に建っている。 街角のちょうどコーナー部には、奇妙な形のベル・タワー(鐘楼)が立っている。これは他の部分と同様、造船技術を使用して製作。垂直的な自己支持型のタワーで、厚さ8~16mmのスティールを使用している。俯瞰すると、高さ20m重さ8トンのタワーは、近隣にある寺院の塔と対話しているかのようだ。 建物の形態は大きなテーブルを参考にしたもので、4本のスティール・コラムに乗った屋根は、ちょうど4本の足の上に乗ったテーブルと同じだ。さらに礼拝室の天井は、近隣にあるロマネスクの円形廟のカーブした屋根から巡生したデザイン言語だ。数世紀前のこの建物の幾何学が、今日のデジタル技術で時代にフィットしたフォルムに翻訳された。 この建物では光と透明性の演出によって、特別なスペースを構成している。3つの曲りくねった大きなトップライトからインテリアに光を導入している。この開口部の「3」という数字は、キリスト教神学の三位一体をシンボライズしている。 教会の内部空間は、スピーディーなメディアに支配された今の時代のアンチテーゼとして、神秘的かつ静穏であるのみならず、近隣コミュニティのためのオープン・スペースとしても活用されている。 礼拝室は、ガラスで囲まれ昼光で明るい子供コーナーに通じるが、さらに洗礼室をも内包している。実際のコミュニティ・ホール(教会ホール)は礼拝室の背後にある。両者の間には折り畳みドアがあり、それを開放することで、ひとつの大きな空間シークエンスとなり、フレキシブルな活用が可能となった。 礼拝室の複雑な形態のトップライトを3つ装備した屋根は、自己支持型のスティール製で、内側はスタッコの天井となっている。3次元的にカーブする8mm厚のスティール・プレートは、フレーム構造体に溶接されている。このスティール・プレートとフレームは、ガーダー(大はり)・グリッドの上に取り付けられた。23トンにも及ぶ屋根の総重量は、4隅に立つ4本のスティール柱で支持されている。 「マルティン・ルーサー教会」は、他のコープ・ヒンメルブラウの作品と同様、彼らが頻繁に用いる造船技術を応用し、大きなメタル・シートを3次元冷間加工で処理したものだ。それはル・コルビュジェが造船技術を参照したことに由来する。加えて「ラ・トゥーレット修道院」の3つのキャノン・ルミエール(トップライト)も念頭にあったという。いずれにせよこの教会は、そのアヴァンギャルトな表情ながら、敬虔な祈りの場所であるのみならず、ハインブルク市民のコミュニティ活動の拠点ともなっている。
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